割増賃金を正確に計算できていますか?
時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合、使用者は労働者に対して、割増賃金を支払わなければなりません。しかし、「割増賃金の基礎となる賃金」の算出を誤ってしまうと、長期間にわたり支払うべき割増賃金額が不足していたという事態が生じてしまいます。労働基準監督署から是正勧告がなされた場合、不足分を過去に遡って支払うことも考えられます。
今回は、割増賃金の求め方と、「割増賃金の算定基礎となる賃金」に含める賃金・含めない賃金について解説します。
「割増賃金の算定基礎となる賃金」とは?
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割増賃金額を求めるには、初めに「1時間あたりの賃金額(時給単価)」を確定させます。基準となる額がなければ、割り増す額を計算することができないからです。
1時間あたりの賃金額は「割増賃金の算定基礎となる賃金」ともいい、通常の労働時間または労働日の賃金のことを指します。時給制の場合はその時給が1時間あたりの賃金となりますが、月給制の場合は次のように計算します。
1時間あたりの賃金額 = 1か月の賃金額 ÷ 1か月の所定労働時間数
※月によって所定労働時間が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数で除します。
(労働基準法施行規則第19条1項4号)
「割増賃金の算定基礎となる賃金」から除外されるもの
「割増賃金の算定基礎となる賃金」には、基本給や役職手当など雇用契約に基づき定常的に支給される手当も含まれます。しかし、すべての手当が対象となるわけではないことに注意が必要です。以下の①~⑦は、割増賃金の算定基礎となる賃金には算入しません。個人的な事情に基づいて支給されており、労働と直接的な結びつきが薄いからです。
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金(例:結婚手当)
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:賞与)
(労働基準法第37条第5項、労働基準法施⾏規則第21条)
上記①〜⑦は例示ではなく、限定的に列挙されているものです。つまり、①~⑦に該当しない賃金は、すべて算入しなくてはならないということです。また、①~⑤については、このような名称であればすべて算入しなくても良いわけではありません。算入するか除外するかどうかは、名称ではなくその実質によって判断するものとされています(昭22.9.13 発基17号)。
以下では、手当という名称であっても割増賃金の算定基礎となる賃金に含めなければならない具体例をご紹介します。
◆ 家族手当
扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給される場合は家族手当に該当しないため、割増賃金の算定の基礎に含めなければなりません。
【例】扶養家族の人数に関係なく、全員に一律、1か月1万5000円を支給する場合。
◆ 通勤手当
通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給される場合は通勤手当に該当しないため、割増賃金の算定の基礎に含めなければなりません。
【例】実際の通勤距離に関わらず、全員に一律、1日300円を支給する場合。
◆ 住宅手当
住宅の形態ごとに一律に支給される場合は住宅手当に該当しないため、割増賃金の算定の基礎に含めなければなりません。
【例】賃貸住宅居住者には2万円、持家居住者には1万円を支給する場合。
このように、「割増賃金の基礎となる賃金」に含める賃金、含めない賃金の区別は複雑です。誤った運用を続けてしまうと、長期にわたって支払うべき割増賃金が不足していたという問題が生じてしまいます。こうした問題を避けるため、専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
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