過去のコラムでは、「解雇」について解説してきましたが、他に、労働契約の終了の形として「雇止め」があります。近年、新型コロナの影響で非正規雇用社員の「雇止め」がニュースとして報道されていました。では、「雇止め」と「解雇」との違いはなんでしょうか。また、雇止めが有効となるケース・無効となるケースはどんな場合か、そしてその判別はどのようにして行うのでしょうか。また、近年増えている高年齢者継続雇用における雇止めの可否についても、根拠となる法律について学びながら解説していきます。
雇止めとは
「雇止め」とは、有期労働契約について、使用者が労働者からの申し込みがあった契約の更新を拒否し、契約期間満了により雇用契約を終了させることをさします。雇止め自体は違法ではありませんが、労働者保護のため、労働契約法第19条の「雇止め法理」にて様々な規制がされています。以下の通り、雇止めにおいても解雇と同様に「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上の相当性がある」と認められる場合においてのみ使用者からの雇止めが有効となります。また、過去に何度か労働契約が更新され、無期労働契約と同視される場合(第1項)、労働者が当然契約が更新されると思える合理的理由がある場合(第2項:合理的期待)、雇止めは労働契約法第19条に違反するため、無効となります。
【労働契約法19条】有期労働契約の更新等
第十九条 第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。 |
具体的には、長年にわたり契約が更新され、業務内容が他の無期契約労働者・正社員と変わらないような場合、使用者から雇用継続を期待させる言動があること、期間満了による雇止めの事例がないことなどは、労働者において、契約が当然継続されると期待を生じさせるため、雇止めが無効となる場合が高いです。なお、この期待は有期労働契約の期間満了時点において判断されます。
無期転換ルールについて
このように、有期雇用として働く人たちは、「次回も更新がされるのか」という雇止めのリスクを常に抱える不安がありました。解雇権濫用の法理により解雇事由が制限されている無期雇用労働者と比較し、有期雇用労働者は賃金や人事評価制度が整備されておらず、人員調整の対象となりやすいため、経済的自立や長期的なキャリア形成が難しい問題がありました。
そこで、有期契約の労働者においては、こういった雇止めの不安があることから、有期労働契約が5年を超えて反復して更新された場合、有期契約労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換させる仕組みを設けました。これを「無期転換ルール」と呼びます。これは、上記のような労働者保護の観点で、平成25年の労働契約法第18条の改正により制定されました。なお、無期転換の労働契約を申し込むには、以下のような要件があります。
①同一の使用者であること
②2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超えること
③労働者が有期労働契約の契約期間終了までに、無期転換申し込みの権利を行使すること
※厚生労働省「無期転換ルールについて」より
解雇との違いと雇止めの予告期間
では、解雇との違いはどういった点でしょうか。解雇は前回のコラムで学んだ通り、「契約期間中に使用者からの一方的な意思表示により雇用契約を終了させること」をいい、雇止めは「契約期間の満了時に雇用契約を更新しない」、「複数回の有期契約を更新していた場合に、次の更新をしないこと」という違いがあります。
また、会社が従業員の雇用契約を終了し次の更新をしない場合、雇用契約が3回以上更新されている場合や、最初の雇用から1年を超えて継続勤務している場合においてのみ、少なくとも雇用契約の終了に際して30日前に雇止めの予告をしなければならないとされます。雇止めの予告後にその理由について労働者が証明書を請求した場合、遅滞なく交付しなければなりません。また、その雇止めの理由は契約期間の満了とは別の理由とすることが必要です。
高年齢者の継続雇用と雇止めについて
では、定年を迎えた高年齢者の再雇用の際、雇止めはどのような観点で認められるのでしょうか。なお、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に基づき、使用者は65歳までの高年齢者について雇用確保措置を講ずることが義務付けられているため、60歳で定年を定めている場合は、就業規則で定める解雇・退職事由がない限りは継続して雇用する必要があります。ただし、解雇・退職事由があっても、これらの事由が「客観的に合理的な理由」があり、雇止めが「社会通念上相当である」必要があります。
そのため、高年齢者の雇止めに関しては、就業規則に年齢の更新上限を設ける、心身の故障や勤務状況の著しい不良などの継続雇用しない事由を定めることで可能となります。
以上の通り、労働者を雇止めしようとする場合、雇止めが認められる「合理的な理由」の判断基準は必ずしも明瞭ではないため、安易に判断し万が一トラブルに発展した場合、労働者側から訴訟などに労力がかかるおそれがあります。そのため、雇止めに関する判断は労務問題に詳しい専門家に相談した上で、行うとよいでしょう。
弊法人では、人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。従業員の解雇、判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
さらに、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。職場における心身の健康に不安を感じている従業員にとって、相談することで心の負担を軽くするプラットフォームとして活用いただくことができます。また、「Plattalks」を活用したオンラインの再就職支援サービスを提供しており、一部の企業への実施義務付けが示唆されている「再就職支援」についても対応可能です。
再就職支援 | Plattalks