コラム

日本における解雇の今~解雇権濫用法理から金銭的解決へ~

近年、企業の倒産に伴う従業員の解雇が話題となっています。もし、自分の働く会社が倒産となり、突然解雇されることになってしまったら、給料はどうなるのでしょうか。また、解雇はどのような種類があり、企業側として従業員に対してどのような対応をしていく必要があるのでしょうか。根拠となる法律について解説を交えながら学んでいきましょう。

解雇とは

解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解約を指します。労働契約の終了には解雇の他、自己都合退職や勧奨退職、定年退職、期間満了退職などがあります。

なお、解雇に関しては民法と労働契約法が主に根拠となる法律となっております。以下の通り、解雇においては「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上の相当性がある」と認められる場合においてのみ解雇は有効となります。これを解雇権濫用の法理といい、労働契約法第16条に明文化されています。解雇は会社側の一方的な意思に伴い行うことができるため、労働者が解雇により生じる不利益に対して解雇されることを制限するためにこのような定めがあります。

【民法627条・628条】

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条
 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。

 

(やむを得ない事由による雇用の解除)

第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

【労働契約法16条】労働契約の継続および終了

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


では、「客観的に合理的な理由」、「社会通念上相当である」とはどのような状態をさすのでしょうか。
「客観的に合理的な理由」とは従業員の能力不足、経歴詐称、度重なる遅刻・欠勤、業務命令違反などの従業員の性質に照らし合わせて第三者が見ても解雇となってもやむを得ない理由をさします。

ただし、単に合理的理由が存在するだけでなく、会社側で従業員に対して解雇を回避するための対処(例えば従業員の能力不足であれば、部署異動や教育訓練等を行う)を行った上で、解雇をせざるを得ないことを証明する必要があります。

「社会通念上相当である」とは、「解雇」という対応が適当であるという状態です。従業員が行った行為や状況について相当な対応をしている、ということです。従業員に対する処分が妥当であるか、ほかの従業員と比べてバランスがとれているか、従業員の事情を加味して相当の処分としているか等を検討します。

解雇予告手当とは

では、解雇となった場合、給料はどうなるのでしょうか。適法な解雇であれば、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、解雇を言い渡された以後に給料は発生しなくなります

また、会社が従業員を解雇する場合、労働基準法第201項に基づき、労働者の生活の困窮を防ぐため、30日前に解雇する旨の予告をしなければならないとされています。
ただし、30日前に予告ができない場合、予告期間(30日)に対して不足する期間に応じて平均賃金を支払わなければならず、これを「解雇予告手当」といいます。

解雇の種類

解雇の種類としては先ほど解説した合理的な理由に基づき、主に3つが挙げられます。解雇の種類によって手続きにも違いがあります。冒頭であげた倒産による解雇では、整理解雇が該当となります。

①普通解雇勤務状況が不良で十分な労務提供ができない、病気などで業務遂行ができないなどによる

②整理解雇会社の経営上必要とされる人員削減のため行う雇用契約の終了による、倒産に伴う解雇も該当する

③懲戒解雇従業員が重大な問題行動(業務上の地位を利用した犯罪行為や会社の名誉を著しく害する犯罪行為)を起こしたとき

整理解雇の4要件

冒頭で述べたような会社が不況・経営不振などによって整理解雇を行う際は、会社側の都合による解雇となるため過去のコラムで述べた通り、整理解雇を実施する際は以下の四つの要件を満たす必要があります。

①経営上の人員削減の必要性があるか経営不振など、やむを得ない事情により人員削減を行うことがわかる場合、整理解雇は有効と判断されます。

②解雇回避努力を尽くしたか整理解雇は最終手段とし、それまでに経費削減、新規採用の停止、配置転換、給与の減額、希望退職者の募集など、整理解雇を避けるための手段を尽くす必要があります。これらの手段を尽くしたうえで整理解雇が有効と判断されます。

③人選に合理性があるか整理解雇の対象者は基準を設定した上で、客観的かつ合理的に選定する必要があります。

④労働者と事前に説明・協議を実施したか整理解雇の実施にあたっては、労働組合や労働者に対して、整理解雇の必要性や時期、方法などについて事前に説明と協議を行う必要があります。この手続きをもって整理解雇を行う場合、有効とされます。

解雇の金銭的解決とは

このように、現在の日本の法制度では弱い立場に置かれることが多い労働者の権利を保障するために「解雇が無効となった場合、労働契約の継続につながり従業員を解雇せずに雇用を継続する」ということが原則となっています。一方で、訴訟まで行った従業員が雇用主の企業と友好な関係を築くことが難しいため、解雇が無効となった場合でも職場復帰ができないケースが多いです。

労働環境が多様化している現代において、このようなケースを踏まえて厚生労働省を中心に「解雇の金銭的解決」の導入が検討されています。
「解雇の金銭的解決」とは、会社が従業員を解雇した際、裁判でその解雇が無効となっても従業員が復職する代わりに本人の同意により一定の補償金を支払うことで労働契約を解除できるという仕組みです。

この制度は一見すると会社側にとって金銭を支払うことで解雇をしやすくなる、という点でのメリットが重視されがちですが、労働者にとっても労働者保護の観点で選択肢を増やすという点でメリットがあります。例えば、金銭解決に伴い従業員の生活が保護されることで無理に復帰する必要がなくなることや、不当解雇に対しても、金銭解決の制度があれば、泣き寝入りをせずに主張することができます。

以上の通り、日本における法律に基づいた解雇の条件とその種類から、導入が注目されている解雇の金銭的解決制度について解説を行いました。終身雇用を前提とした働き方が過去のものとなり、労働市場が流動化している現代においては、「解雇の金銭的解決」という選択肢が、労働者個人が一定の金銭的保障を受けながら自分の望んだキャリアを形成し、組織を選ぶ働き方を促進していくきっかけとなりうる可能性があるといえます。

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