教育訓練休暇給付金とは?~日本における教育訓練の歴史から学ぶ~

厚生労働省は雇用保険の改正により202510月に「教育訓練休暇給付金」を創設することを決定しました。
対象となる休暇は就業規則などで設けた制度による休暇で、労働者が自発的に取得を申し出、事業主が承認したものに限るとしました。教育訓練休暇給付金とはどのような制度か、また、なぜ教育訓練休暇給付金が創設されるに至ったのでしょうか。日本における教育訓練に関する歴史と現状を踏まえて解説していきます。

日本における教育訓練に関する歴史と現状

教育訓練の主体は「企業主導」か「個人主導」かという点で議論されており、海外では「個人主導」の教育訓練を主流としているのに対し、日本では「企業主導」の教育訓練が主流とされる傾向にあります。
この理由としては日本では終身雇用制度が一般的であり、従業員が自社で生産性を高めて長く働くことができるよう組織内で教え合い育成していく教育訓練が重視されてきたこと、「現場力」「知的熟練」など高い生産性を有する従業員が長く働くことで企業の高い競争力につなげることができると考えられたためです。それらによって、日本は高度経済成長を遂げることができたと考えられています。

しかし、近年は終身雇用制度が主流ではなくなりつつあり、働き方や価値観も多様化し転職者も増加していることで、高いスキルを獲得した人材の獲得競争が激しくなり、労働市場も大きく変化しました。この傾向を踏まえ「リスキリング」という言葉が話題となっているように、中高年層の労働者を中心とした企業に頼らない「個人主導」の能力開発がトレンドとなりつつあります。企業主導の能力開発が中心であった日本においても、「企業に頼らず主体的にキャリア構築をするために、自ら学び行動する」個人主導で能力開発をしていく流れが来ている一方、転職などの人材流出を促し、組織力の低下やそれに伴う生産性の低下などの懸念もあります。

そこで、従業員が自身の可能性を広げ主体的に能力開発ができるよう、企業も主体的に従業員の能力開発を促す支援体制が引き続き求められています。例えば、社内公募・FA制度や社内体制の整備や、以下にあげる国の制度活用、キャリア相談の窓口設置などが挙げられます。こういった取り組みを行うことで、企業でも個人の能力開発を行いつつ、個人が身につけたスキルを職場で最大限に発揮できる体制が整備され、従業員のモチベーションの向上と定着、組織の活性化や生産性の向上につなげることができます。

なお、国として教育訓練に関する支援制度ができたのは、1998年です。この年に完全失業率が4%を超えたため、雇用保険法が改正され、労働者の主体的な能力開発の取り組みや中長期キャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的として、厚生労働省が指定する教育訓練を終了した際に受講費用の一部が支給される「教育訓練給付制度」が開設されました。現在、以下の3つの給付制度が運用されています。

教育訓練給付金

雇用保険の保険給付のひとつであり、原則雇用保険に加入している人が一定基準を満たすと支給をうけることができる給付金です。以下の3種類があり、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練については、給付内容が202410月より拡充されました。

①一般教育訓練広く認知されている資格やスキルを習得する講座が対象。

②特定一般教育訓練より専門性の高い資格や技能を取得する講座が対象。

③専門実践教育訓練高度な専門知識や技能を要する国家資格や専門職の取得を目指す講座に適用。

 

一般教育訓練給付金

特定一般教育訓練給付金

専門実践教育訓練給付金

対象者

  雇用保険の被保険者

支給要件

  在職中または離職後1年以内に受講を開始したこと+雇用保険の被保険者期間3年以上

給付内容

受講費用の20%(10万まで)を受講終了後に支給。



 

受講費用の40%(20万まで)を受講終了後に支給。

受講終了後1年以内に資格取得などし、就業している場合、受講費用10%(年5万まで)追加支給。
※2024年10月以降受講開始の場合



受講費用の50%(40万まで)を支給。受講終了後1年以内に資格取得などし、就業している場合、受講費用の20%(16万まで)を追加支給。

訓練終了後、賃金が受講開始前と比較し5%以上上昇した場合、受講費用の10%(年8万まで)を追加支給。
※2024年10月以降受講開始の場合


また、上記のような労働者が自発的に能力開発を行う際に支援する企業の取り組みとして、「教育訓練休暇制度」が挙げられます。教育訓練休暇制度については、職業能力開発法の第十条の四に規定され、労働者が主体的に職業に関する教育訓練や職業能力検定を受ける機会を確保するために、労働者に休暇を付与し、自発的な職業能力の開発及び向上を促進させようとするものです。
休暇の種類としては有給の教育訓練休暇、1か月以上の長期間に及ぶ教育訓練休暇、再就職のための準備としての再就職準備休暇があげられます。

<能力開発基本法第十条の四>

第十条の四 事業主は、第九条から前条までに定める措置によるほか、必要に応じ、その雇用する労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するために必要な次に掲げる援助を行うこと等によりその労働者の職業生活設計に即した自発的な職業能力の開発及び向上を促進するものとする。

一 有給教育訓練休暇、長期教育訓練休暇、再就職準備休暇その他の休暇を付与すること。
二 始業及び終業の時刻の変更、勤務時間の短縮その他職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける時間を確保するために必要な措置を講ずること。


しかし、厚生労働省の「令和5年能力基本調査」によると、教育訓練休暇制度を導入している企業は8%とかなり少ないのが現状です。また、創設されている教育訓練休暇制度も多くは無給であるために、労働者としても取得しづらい現状があります。このように、労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事から離れる際の生活費の支援の仕組みがなかったため、今回の雇用保険法の改正で「教育訓練休暇給付金」が創設されました。

教育訓練休暇給付金

教育訓練休暇給付金」は労働者が自発的に教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援する仕組みとして創設されました。雇用保険の被保険者が教育訓練を受けるために無給の休暇を取得した場合、離職時の基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する給付金です。202510月より施行となります。

 

教育訓練休暇給付金

対象者

 雇用保険の被保険者

支給要件

 雇用保険の被保険者期間5年以上かつ、教育訓練のための休暇(無給)を取得すること

給付内容

 離職した場合に支給される基本手当の額と同じ

給付日数

 被保険者期間に応じて90日(10年未満)、120日(10年以上20年未満)、150日(20年以上)を上限

人材開発支援助成金

なお、従業員の能力開発のために教育訓練休暇を付与した事業主には「人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース)」の付与を受けることができます。従業員に教育訓練のための休暇を付与した場合、事業主はその間の賃金相当額の助成を受けることができます。この助成金を活用することで、企業が教育訓練に伴うコストを助成金でカバーすることができます。また、今回の教育訓練休暇給付金を活用することで、従業員も生活費の保障をうけながらスキルアップにつなげることができます。

参考:人材開発支援助成金|厚生労働省

今回のコラムでは、日本における教育訓練の歴史を学びながら、教育訓練休暇給付金の概要について解説しました。終身雇用制度が衰退していく一方で労働市場が流動化し、個のスキルアップが重視されつつある現代においても、企業主導で教育訓練を実施していくことは引き続き重要視されていくでしょう。そのため、今後は労働者・企業ともに主体的な能力開発機会を確保するよう、給付金制度の活用や、社内の体制整備をしていくことが重要となっていきます。こういった制度活用や整備においては、専門家のサポートをうけるとよいでしょう。


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制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

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Plattalks - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

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