2024年4月より、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)の改正に伴い、事業主による障害者への合理的配慮の提供が義務化されました。障害の有無にかかわらず、その人らしさを認め、共に生きていく社会の実現に向けて、障害のある人が日常生活や仕事を含む社会生活をしていくにあたって障壁がある場合、双方にとって合理的で納得のできる対応策を考えていくことが必要となります。
では、合理的配慮とはどのような配慮をさし、どのような経緯で生まれた概念なのでしょう。また、なぜ合理的配慮が必要となるのでしょう。また、企業側として合理的配慮の提供とは、どのような対応をしていく必要があるのでしょうか。合理的配慮の概念が生まれた歴史を追いながら解説していきます。
合理的配慮とは?
「合理的配慮」とは障害のある人とそうでない人の機会や待遇を平等に確保し、支障となっている事情を改善・調整するための措置です。障害者からなんらかの助けを求める意思表明があった際に、過度な負担になりすぎない(合理的)範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な配慮をさします。
合理的配慮の文言自体は、1977年の「リハビリテーション法」の施行規則に初めて記載され、その後、1990年に「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act of 1990)」で明確に定義されました。世界的には2006年に国連で「障害者権利条約」が採択され、合理的配慮「Reasonable accommodation」の考えが記載されたことが始まりです。
障害者権利条約の第2条では、合理的配慮を「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」としているように、合理的配慮は障害のある人が社会生活や日常生活を送るうえで調整が必要であると申し出た場合に行い、かつ過度の負担を課すことのない配慮と定義しています。
その後、日本では2016年に施行された「障害者差別解消法」によって行政機関の「合理的配慮の提供」義務、事業者の「合理的配慮の提供」の努力義務が定められました。そして、今回2024年4月の法改正で、事業者も「合理的配慮の提供」が義務づけられました。では、なぜ合理的配慮が必要となるのでしょうか?障害へのとらえ方のヒントとなる、「社会モデル」「社会的障壁」の観点から解説していきます。
なぜ合理的配慮が必要?
合理的配慮を考える上で大切な考え方として「障害の社会モデル」が挙げられます。
従来は障害者にとっての障壁は、障害者自身の心身の働きのみが原因であるとされ、金銭的補償や医学的治療を行う保護対象としての視点が多くありました。これは「医学モデル」と呼ばれる考え方で、障害によって生み出された障壁は個人の責任であり、治療を行うことで社会生活に適応すべきという考えでした。
これに対し、障害者自身ではなく、社会的な障壁に着目した新しいモデルが「社会モデル」です。「社会モデル」とは、障害のある人が日常生活、社会生活で受ける様々な制限が、障害のある人自身の心身の障害のみが原因なのではなく、社会の側に様々な障壁(社会的障壁)があることによって生じるものという考え方です。
具体的には、物的な障壁(移動や動作などを行う上での障壁)、制度面での障壁(受験資格や飲食店への入店権利)、文化や慣行面の障壁(障害のある方を意識していない文化や慣習)、意識上の障壁(障害のある方への偏見)といった障害者を取り巻く社会の側に様々な障壁があり、これらが障害によって生み出される障壁となっています。そして、この「社会モデル」の考えを反映したものが、2006年に国連で制定された「障害者権利条約」です。
「障害者権利条約」の採択を機に障害者は心身に欠陥があり、治療していくことで社会生活に適応すべきという考えから、障害者へ直面している障壁は、障害者を取り巻く環境や社会制度、周囲のとらえ方にも原因があり、障害者自身が主体性をもって生活できるように周囲が配慮すべきという考え方へと変化していきました。このような社会モデルを合理的配慮の考え方はすべての人が障害の有無に関係なく生活を送れるようにする上でとても大切な考え方となります。
対象になる「障害者」とは
今回の義務化の配慮対象となる「障害者」は以下の通り、障害者手帳を持つ人だけではなく、障害や社会の中にある障壁により、日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人すべてが対象となります。
・身体障害のある人
・知的障害のある人
・精神障害のある人(発達障害や高次脳機能障害も含む)
・そのほか心や体のはたらきに障害(難病起因の障害も含む)のある人
合理的配慮の例
実際に行う合理的配慮としては社会的障壁の種類に応じて以下が挙げられます。「過去例がないから」、「○○障害の人は〇〇だから」といった考え方で判断するのではなく、当人個人の要望や障害の状況などを鑑みて個別に判断するとよいでしょう。障壁の中でも最も解消が難しいのが意識上の障壁であり、定期的な社内研修などを通して、障害者への偏見に気づき、理解を深めることが大切です。
社会的障壁の種類 |
合理的配慮の例 |
① 物的な障壁 |
スロープやエレベーターの設置 |
② 制度面での障壁 |
法律やルールの見直し、周囲への理解促進 |
③ 文化や慣習面の障壁 |
点字、手話、タブレットの利用 |
④ 意識上の障壁 |
障害者への理解を深める研修など |
企業として気を付けること
では、合理的配慮の対象である障害のある人から配慮の申し出があった時、どのような点に気を付けて対応をしていくとよいでしょうか。主に以下二つの観点から判断するようにしましょう
①合理的配慮の範囲内であるか
…企業側の合理的配慮は以下3つを満たすものであるかを確認しましょう。
・必要とされる範囲かつ本来の業務に付随する対応に限られること
・障害のない人と比較して同等の機会の提供を受けるためのものであること
・事業の目的、内容、機能の本質的な変更は伴わないこと
例)飲食店従業員が食事介助を求められた場合、事業の一環ではないため、合理的配慮の提供義務はない
②過重な負担になっていないか
…以下要素から総合的客観的に事業主側への過度な負担となっていないか判断しましょう。以下の要素を鑑みて、障害者の申出を受けることで負担が大きい場合、申出自体を断ることは合理的配慮の提供義務に違反しません。
・事業への影響の程度(事業の目的や内容、機能を損なうものではないか)
・実現可能性の程度(物理的、技術的、人的、体制上の制約がないか)
・費用、負担の程度
・事務、事業規模
・財政、財務状況
障害のある人の障害特性や各自の置かれている状況によって、必要となる対応は異なってきます。また、合理的配慮は障害をもたない人が当たり前に享受できているものと同じものを得るために必要な調整のことを指し、過剰なサービスや特別扱いを求めるもの(わがまま)とは異なります。障害者より合理的配慮の申し出があった際も、わがままによるものではないか、慎重に判断が必要です。
このように、どのような点で配慮が必要なのか、どこまでが対応ができて対応が難しいのか、本人との対話による相互理解がとても大切です。障害者からの申し出自体への対応が難しい場合も、対話を通して、目的を把握し代わりの手段を見つけることができるからです。
今回のコラムでは、合理的配慮について、その歴史的背景を交えながら、どのような対応をしていくのがよいか、解説しました。障害者への理解を深めること、障害者との対話を重ねて双方にとって納得のいく配慮をしていくことが大切です。
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