介護職員等処遇改善加算とは~制度ができた背景とその要件について~

2025年4月より「介護職員等処遇改善加算」の要件が改定され、新要件における処遇改善加算の申請がはじまります。そもそも「処遇改善加算」とはどのような制度で、いつから設立されたのか、認定を受けるためにはどのような要件を満たす必要があるのか、介護福祉サービス業界の歴史と現状を踏まえて解説していきます。

介護職員等処遇改善加算とは

介護職員等処遇改善加算」は賃上げとともに、介護現場における生産性を向上し、業務効率化や職場環境の改善を図ることにより、職員の離職の防止・職場定着を 推進することを目的として2012年に設立された加算制度です(参考:厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会(第243回)資料3)。
「処遇改善手当」などの名称で介護等職員の給与に上乗せして支払われます。

介護サービスの現状と制度設立の背景

介護サービスは高齢者の生活全般を支え、日々の暮らしに寄り添うサービスですが、急激な高齢化に伴い、その充実が課題となっています。2036年には国民の3分の165歳以上の高齢者となるといわれ、介護の担い手を増やしていくことは重要な課題となっています。

一方、少子高齢化で労働人口が減少していることや専門性が高く求められる一方で心身への負担が大きく、人材不足感の強い業界です。国の推計では、2040年度までに約280万人の介護人材が必要とされ、2019年度の211万人から約69万人増やすことが必要とされています。厚生労働省の調査では、約9割の事業所が「採用が困難」であることを人材不足の理由としています。

また、処遇改善も大きな課題となっています。全産業の平均給与と比べて、介護職員は低い給与水準となっており、「経験を積んでも賃金があがらない」、「キャリアの先行きへの不安がある」などの課題があげられます。

介護職員の賞与込み給与※参考:厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 令和5年9月8日資料


今後、介護福祉サービスにおける人材確保のためには、多様な人材を活用し参入を促進すること、介護職員の能力や役割に応じたキャリアパスをつくり、長く働けるような労働環境・処遇改善、職員の専門性を高めて限られた人材を有効活用するなどが求められます。

そのため、働きやすい職場環境の整備や給与の改善、キャリアアップの仕組みづくり、未経験者が介護業界に参入しやすくなる仕組みづくりが必要でしょう。この政策として「介護職員等処遇改善加算」の制度は2009年に前身の交付金制度としてはじまり、2012年に報酬への加算に組み込まれる形にて設立されました。

処遇改善加算の3要件

処遇改善加算は「処遇改善加算」、「特定加算」、「ベースアップ等加算」の3加算で構成されていました。
しかし、加算を算定しない事業所もあり、特定加算にいたっては取得状況が6-7割程度にとどまりました。この理由として、賃金改善の仕組みの定め方がわからない、制度が複雑でわかりにくいなどが多くあげられました。これらの課題をふまえ、2024年6月より「介護職員等処遇改善加算」として一本化し、加算区分はⅠ~Ⅳの4段階(移行措置でⅤも存在)に整理されました。
この新加算の区分にかかる要件は以下の3要件です。これらの要件をどの程度満たすかによって、加算Ⅰ~Ⅳに分類されます。

①キャリアパス要件
介護職員が将来キャリアアップできるように研修体制や職場環境、賃金体系を整える要件です。
全部で以下の5要件があり、要件Ⅰ・Ⅱについてはすべての加算区分において満たす必要があります。

・キャリアパス要件Ⅰ:任用要件・賃金体系(区分Ⅰ~Ⅴ)
 介護職員の職位や職責、職務内容などの任用要件を定め、それらに応じた賃金体系の整備などを定める

・キャリアパス要件Ⅱ:研修の実施等(区分Ⅰ~Ⅴ)
 介護職員の研修に関わる要件。具体的な研修計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または機会の確保をする

・キャリアパス要件Ⅲ:昇給制度の整備(区分Ⅰ~Ⅲ)
 経験に応じた昇給の仕組み、資格等に応じた昇給の仕組み、一定の基準に基づいた昇給の定期判定の仕組みのいずれかを整備する

・キャリアパス要件Ⅳ:改善後の賃金額(区分Ⅰ・Ⅱ)
経験や技能のある介護職員のうち1人以上は、改善後の年間賃金額が440万円以上の見込みであること

・キャリアパス要件Ⅴ:介護福祉士等の設置(区分Ⅰ)
介護福祉士等の福祉専門職員を、一定割合以上配置することを求める要件


②月額賃金改定要件
介護職員の賃金ベースアップを目的として作られた算定要件で、以下の2要件があります。

・月額賃金改善要件Ⅰ:
加算Ⅳ区分の加算額の2分の1以上を基本給や毎月決まって支払われる手当の改善にあてる

・月額賃金改善要件Ⅱ:
旧ベースアップ加算を未取得の事業所において、加算Ⅳ区分のうち旧ベースアップ加算相当の3分の2以上を基本給や毎月決まって支払われる手当の改善にあてる


③職場環境等要件
職員の健康管理やICT活用に関する取り組みなど職員が働きやすい職場環境の整備が求められています。
区分としては以下があげられます。

①入職促進に向けた取組

②資質向上やキャリアアップに向けた支援

③両立支援・多様な働き方の促進

④腰痛を含む心身の健康管理

⑤生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組

⑥やりがい・働きがいの醸成

介護職員等処遇改善加算、3要件、キャリアパス要件、職場環境等要件、月額賃金改善要件※参考:介護職員の処遇改善:TOP・制度概要 | 厚生労働省 介護サービス事業者の皆さまへ


今回のコラムでは、介護職員等処遇改善加算について制度が生まれた背景と概要の解説を行いました。次回のコラムでは各加算要件について詳しく解説していきます。このように制度の内容や活用に際して必要となる要件は非常に細かく複雑であるため、制度の理解や活用にあたっては人事労務分野に精通した専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。

弊法人では、処遇改善加算の計画書作成から実績報告までの代行業務やアドバイザリー業務を行っております。業務の代行が必要な場合はぜひ弊法人にご相談ください。

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