【2026年9月追記】みなし労働時間制が「違法(無効)」とされないために~基礎知識から2026年の実務リスクまで~

労働基準法では、使用者に対して、労働時間を適正に把握・管理する責務を求めています。
それにも関わらず、みなし労働時間制が認められているのはなぜでしょうか?

今回は、みなし労働時間制が認められている理由や背景、そして実務上で「違法(無効)」と判断されないためのポイントを解説していきます。

 

1.みなし労働時間制の基礎知識(事業場外みなしと裁量労働制)


労働時間の算定は、実際に労働した時間(実労働時間)によって行うのが原則です。
この例外として、実際に労働した時間にかかわらず、労働者が特定の時間を働いたものとみなすことが定められています。これを、みなし労働時間制といいます。


労働基準法における「みなし労働時間制」には、主に以下の3つの種類が存在します。(労働基準法38条の24に規定)
※「フレックスタイム制」は変形労働時間制の一種ですので、みなし労働時間制には含まれません

事業場外みなし労働時間制

外回り営業や在宅勤務リモートワーク)など、会社の外で業務を行い、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の把握が難しい場合に適用されます。

専門業務型裁量労働制

研究開発やデザイン、ITエンジニアなどの専門業務において、業務遂行の手段や時間配分を大幅に労働者の裁量に委ねる制度です。

参考記事:専門業務型・企画業務型裁量労働制の違いを労働基準法の条文構造から読み解く

企画業務型裁量労働制

事業運営に関する企画、立案、調査および分析を行う本社機能等の労働者を対象とした裁量労働制度です。

参考記事:【2026年8月追記】裁量労働制の見直しポイント総まとめ(専門型・企画型の変更点と手続き)

 

 

2.なぜ「実労働時間主義」の例外として創設されたのか?

みなし労働時間制がどのような経緯で創設された制度なのか、その背景を解説します。

高度経済成長期を通じて、第三次産業の就業者数が伸び続けたこと。そして、技術革新の進展、経済のサービス化・情報化等に伴い、使用者の具体的な指揮監督が困難で、通常の方法による労働時間の算定が適切でない業務が増えたこと。こうした「時間では測ることができない新しい仕事」に従事する労働者が、労働時間の枠にとらわれず自主的・自律的に働けることを目指して1987(昭和62)年の労働基準法改正で創設されたのがみなし労働時間制です。

ちなみに、この年は、法定労働時間が週48時間から週40時間へ短縮されたり、フレックスタイム制が創設されるなど、現在の労働環境に近い改正が行われた年でもあります。

 

3.【実務例】出張や直行直帰で「事業場外みなし」を適用する際の考え方

一般的に出張は、直行・直帰の場合には「自宅を出発した時~自宅に帰着するまで」が出張時間とされています。

出張は抽象的な使用者の支配下の業務遂行であるため、多くの企業で「事業場外労働のみなし労働時間制」が適用され、「所定労働時間労働したものとみなす」運用が広く行われてきました。

 

4.【法学コラム】「みなす」と「推定する」の違いと反証の不可能性

労働関係の法律では、「みなす」と「推定する」という語が頻出します。
両者は一見、同じ意味のように感じられますが、「決まったことを覆せるか否か(反証の可否)」という点で明確な違いがあるため、条文上で明確に使い分けられています。

 

 「みなす」とは


「本来は異なるものを、法律上は同じものとして取り扱う」という意味です。法的効果・権利義務を確定させるため、当事者がこれと違う事実を主張して覆すことは原則できません

例えば、労働基準法第38条の2では、下記のような規定が置かれています。

≪労働基準法第38条の2
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。・・・(略)

ある労働者が労働時間を詳細に記録しており、後になって「実は自分の時間外労働はこうだったんだ!」と申し出たとしても、反証は認められないため、原則として所定労働時間が覆ることはありません。

労働基準法上で「みなす」を用いている規定は全部で10か所あります。労使関係はトラブルに発展しやすいため、争いが生じた際でも第三者(裁判所)の介入を待たずに、一刻も早く法的効果・権利義務を確定させられるようにという意図があります。

 

「推定する」とは


一方、「反対の事実や証拠がない限り、ある事実について法令がとりあえずこのように取り扱う」という意味です。事実と異なる反証があれば、その推定の効果が覆される余地を残しています。

例えば、労働者災害補償保険法第10条には下記のような規定があります。

≪労働者災害補償保険法第10条≫
船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった際現にその船舶に乗っていた労働者若しくは船舶に乗っていてその船舶の航行中に行方不明となった労働者の生死が三箇月間わからない場合又は・・・(略)・・・その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった日又は労働者が行方不明となった日に、当該労働者は、死亡したものと推定する

これは、航行中に行方不明となって生死が3か月間分からない労働者を「とりあえず」行方不明になった日に死亡したものとして扱う規定です。ただし、後になって生存が確認できた場合は、その事実に従って効果が覆ることになります。

5.【2026年9月追記】近年の労基署監督基準と「つながらない権利」

スマホ・PC・GPS支給下での「事業場外みなし」否認リスク


近年、外勤営業や直行直帰の社員に対し、スマートフォンやPC、GPS機能を搭載した端末を支給することが一般的になりました。しかし現在、これが「事業場外みなし労働時間制」の適用を否定される最大の要因となっています。

チャットアプリ(SlackやTeams等)で随時指示を送り、GPSや通信ログで位置情報を把握できる環境下では、裁判所や労働基準監督署から「使用者の具体的な指揮監督が及んでおり、労働時間の算定は困難とはいえない(=実労働時間で計算すべき)」と判断され、みなし適用が無効(残業代の追加支払い命置)とされるケースが急増しています。

「常時指示できる環境」が引き起こす2つのリスク


1. 法的リスク(残業代請求):指揮命令下にあるとみなされ、「みなし労働」が無効化されるリスク
2. 労務リスク(過重労働):時間外や休日にも心理的拘束が及び、社員が休まらないリスク

心理的拘束からの解放:「つながらない権利」の視点


業務時間外や事業場外にいるときでもデジタルツールに通知が届く状態は、目に見えなくとも実質的な拘束となり得ます。この課題への解決策として世界的に注目されているのが「つながらない権利」です。

つながらない権利とは、「勤務時間外のチャットや電話といった連絡を拒否しても不利益を受けない権利」を指し、現在日本でも導入の機運が高まっています。

参考記事:労働時間とは~人的資本を最大化するための再定義~

プロフェッショナルとしての自律を促すための「みなし労働」や「裁量労働」であるはずが、ツールの使い方を誤ると、単なる「24時間見えない拘束」に陥ってしまいます。
一律に通信を遮断するだけでなく、労使で「どの程度の指示・報告を求めるのか」「時間外の連絡をどう扱うか」という、双方に納得感のある基準を制度化していくことが、制度の有効性を保つ上でも不可欠です。

6. まとめ:みなし労働時間制が「違法(無効)」とされないために

 

労働基準法第32条では、「休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて、また、1日について8時間を超えて労働させてはならない。」と定めています。違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される規定があることからも、第32条が労働時間の大原則であることが分かります。

また、第108条(賃金台帳の保管)や第24条(賃金全額払い)など、使用者には労働時間を適正に把握・管理する責務が課されています。

制度として認められている「みなし労働時間制」自体は違法ではありません。しかし、以下の運用上の注意点を怠ると、違法と判断されるおそれがあります。

 

休憩・休日・深夜労働の規定は排除されない


みなし労働時間制であっても、8時間を超える場合は1時間の休憩が必要であり、深夜時間帯(22時~翌5時)に労働させた場合は深夜割増賃金の支払いが必要です。


36協定の締結・届出が必要


みなし労働時間が1日8時間を超える設定をする場合は、通常の労働時間制と同様に36協定の締結・届出と時間外割増賃金の支払いが必要です。

 

このように、みなし労働時間制の運用には法的に考慮すべき点が多く、特にデジタルツールの普及に伴う「算定困難性の判断」は厳格化しています。誤った運用による未払い残業代リスクや指導を防ぐためにも、専門家へのご相談をおすすめします。

弊法人では人事労務アドバイザリー業務を行っております。制度の導入や自社の運用の点検に迷われた際は、ぜひお気軽にご相談ください。

人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

また、「顧問契約というほどではないが専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人ではお受けしております。企業様のご相談のほか、個人の方からのご相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表がご相談内容を伺い、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスをさせていただきます。

スポット相談プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

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