配偶者死亡時に受けられる2つの社会保険 ― 遺族年金・埋葬料の手続きと注意点 ―

配偶者が亡くなった場合、精神的な負担が大きい中で、死亡届の提出をはじめとする様々な手続きに向き合わなければなりません。社会保険制度では、主に「遺族年金」と「健康保険」の2つの手続きが関係してきます。これらはいずれも遺された方の生活を支える重要な制度ではあるものの、それぞれ受給要件や請求先が異なるため、分かりにくいと感じる方も少なくありません。
本コラムでは、配偶者が亡くなった場合に関係する主な社会保険制度について、厚生年金、国民年金、健康保険の順に整理し、制度の概要や手続き、注意点を分かりやすく解説します。

1.遺族厚生年金とは? 

配偶者が亡くなった場合、その方が厚生年金に加入していた、または一定の受給資格を有していたときは、遺族に対して遺族厚生年金が支給されます。遺族厚生年金は、亡くなった方の収入によって生計を維持していた遺族の生活を支えることを目的とした年金です。
なお、次章で説明する遺族基礎年金については、受給要件を満たす場合には遺族厚生年金とあわせて受給できることがありますが、要件によっては受給できない場合もあります。

(1)遺族厚生年金が支給される要件

遺族厚生年金は、亡くなった方が次のいずれかの要件を満たす場合に支給対象となります。

 ① 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき(※1)
 ② 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき(※1)
 ③ 障害等級1級または2級に該当する障害厚生年金を受け取っている方が死亡したとき
 ④ 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき(※2)
 ⑤ 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき(※2)

(※1)①および②の要件については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。ただし、死亡日が令和18年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ保険料納付要件を満たしたとされます。
(※2)④および⑤の要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)並びに65歳以降の厚生年金保険の被保険者期間を合算した期間が25年以上ある方に限ります。

(2)遺族厚生年金を受け取ることができる方

遺族厚生年金は、亡くなった方に生計を維持されていた遺族のうち、法律で定められた最も優先順位の高い方が受け取る仕組みとなっています。なお、遺族基礎年金の受給要件を満たす場合には、遺族厚生年金と遺族基礎年金を併せて受給することが可能です。

 ① 子のある配偶者
 ② 子(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)(※3)
 ③ 子のない配偶者
 ④ 父母(※4)
 ⑤ 孫(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)
 ⑥ 祖父母(※4)

遺族の優先順位

(※3)子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されません。
(※4)父母または祖父母は、55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。

(3)「子のない配偶者」に関する注意点

子のない配偶者については、年齢によって受給期間や受給開始時期に制限があります。子のない30歳未満の妻は、遺族厚生年金を受給できる期間が5年間に限られます。また、子のない夫については、55歳以上であることが要件とされ、実際の受給開始は60歳からとなります。ただし、遺族基礎年金を併せて受給できる場合には、55歳から60歳の間も支給されます。

≪注意≫
令和7613日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が成立したことを踏まえ、2028年4月に遺族厚生年金の見直しが行われる予定です。(2)・(3)で述べてきた内容のうち、「男女差」に関する部分が解消されます。詳細は、厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」をご覧ください。

(4)中高齢寡婦加算(40歳~65歳の妻)

中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金に上乗せされる加算給付の一つです。遺族基礎年金は、子のいない妻には支給されず、子がいる場合でも一定の年齢に達すると支給が終了します。そのため、夫が亡くなった時点で40歳以上65歳未満の子のない妻が受ける遺族厚生年金には、生活保障の観点から40歳から65歳までの間、年額623,800円が加算されます。期間が65歳までなのは、65歳になると、妻自身の老齢基礎年金を受給できるようになるからです。

(5)経過的寡婦加算(65歳以降の妻)

経過的寡婦加算は、遺族厚生年金に上乗せされる加算給付の一つです。遺族厚生年金を受給している妻が65歳に達し、自身の老齢基礎年金を受け取るようになった際に、65歳まで支給されていた中高齢寡婦加算に代わって加算されるものです。これは、老齢基礎年金の額が中高齢寡婦加算の額を下回る場合に、65歳到達前後で年金額が急に減少することを防ぐために設けられた制度です。加算額は、生年月日などに応じて個別に定められています。

(6)請求先と必要書類

遺族厚生年金は自動的に支給されるものではなく、請求が必要です。請求先は、最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターとなり、死亡の事実が確認できる書類や、生計維持関係を示す書類などを提出します。
なお、遺族厚生年金の支給額は、亡くなった方の厚生年金の加入期間や報酬額、受給状況などによって個別に算定されます。算出方法は複雑であるため、具体的な年金額については、最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターへお問い合わせください。

≪参考サイト≫
日本年金機構「遺族厚生年金の受給要件
日本年金機構「遺族厚生年金の請求手続き」

2.遺族基礎年金とは? 

遺族基礎年金は、国民年金を基礎とする年金制度で、子のある配偶者または子の生活を保障することを目的とした年金です。配偶者を亡くした場合であっても、子がいない場合には原則として支給されません。この点が、遺族厚生年金との大きな違いです。

(1)遺族基礎年金が支給される要件

遺族基礎年金は、亡くなった方が次のいずれかの要件を満たす場合に支給対象となります。

 ① 国民年金の被保険者である間に死亡したとき(※5)
 ② 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき(※5)
 ③ 老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき(※6)
 ④ 老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき(※6)

(※5)①および②の要件については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。ただし、死亡日が令和18年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ保険料納付要件を満たしたとされます。

(※6)③および④の要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間(カラ期間)並びに65歳以降の厚生年金保険の被保険者期間を合算した期間が25年以上ある方に限ります。

(2)遺族基礎年金を受け取ることができる方

遺族基礎年金を受け取ることができるのは、亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に限られます。ここでいう「子」とは、18歳になった年度の末日(331日)までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子をいいます。
なお、子のある配偶者が遺族基礎年金を受給している間や、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子本人には遺族基礎年金は支給されません

(3)遺族基礎年金の年金額(令和74月分から)

遺族基礎年金の年金額は、「子のある配偶者が受け取る場合」「子が受け取る場合」とで異なります。

 ① 子のある配偶者が受け取る場合:「年額約800,000円」に「子の加算額」が加えられます。
  ※子の加算額:1人目および2人目は各239,300円、3人目以降は79,800円。
   子の加算額も2028年4月より見直される予定です。

 ② 子が受け取る場合:「年額約800,000に子の加算額を加えた額」を「子の数」で割った額が、1人あたりの年金額です。

(4)請求先と必要書類

遺族基礎年金は、遺族厚生年金と同様に請求をしなければ支給されません。請求先は、最寄りの年金事務所または街角の年金相談センターです。遺族厚生年金の受給要件を満たす場合には、両方の年金をあわせて受給できることがあります

≪参考サイト≫
日本年金機構「遺族基礎年金の受給要件」
日本年金機構「遺族基礎年金の請求手続き」

3.健康保険における「埋葬料」・「埋葬の費用」 

配偶者が亡くなった場合、健康保険から「埋葬料」または「埋葬の費用」が支給されます。本コラムでは、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた場合を前提として、概要を説明します。健康保険組合に加入している場合は、付加給付が設けられていることがあります。また、市区町村が実施する国民健康保険の場合、「葬祭費」または「葬祭の給付」と名称や取扱いが異なることがあります。具体的な取扱いについては、加入している保険者へご確認ください。

(1)「埋葬料」が支給される場合

健康保険の被保険者が亡くなり、その方によって生計を維持していた遺族が埋葬を行った場合、健康保険法に基づき「埋葬料」が支給されます。埋葬料の金額は一律50,000とされており、実際にかかった葬儀費用の額にかかわらず、定額で支給されます。
ここでいう「生計を維持していた」とは、必ずしも健康保険上の被扶養者であることを意味するものではなく、同居や生活費の送金など、生活実態を踏まえて判断されます。

(2)「埋葬の費用」が支給される場合

健康保険の被保険者が死亡したが、当該被保険者に生計を維持していた遺族が存在しないなどの理由で埋葬料支給を受けるべき方がいない場合、実際に埋葬を行った方に対して 「埋葬の費用」 が支給されます。50,000円を上限に、実際に埋葬に要した費用の範囲内で支給されます。埋葬料と異なり、実費精算のため、埋葬に要した費用が確認できる領収書等の提出が必要です。

(3)請求期限と請求先

「埋葬料」や「埋葬の費用」は、年金同様に請求しなければ支給されません。協会けんぽの場合、請求権は次の期間で時効となります。

◆埋葬料:「死亡日の翌日」から2年以内
◆埋葬の費用:「埋葬を行った日の翌日」から2年以内

請求先は、事業所を管轄する協会けんぽの都道府県支部です。会社の総務や人事部門を通じて手続きを行うことが一般的ですが、遺族が直接申請することも可能です。

≪参考サイト≫
協会けんぽ「健康保険埋葬料(費)支給申請書」


配偶者が亡くなった場合に関係する年金や健康保険の手続きは多岐にわたります。それぞれ制度趣旨や受給要件、請求先が異なるため、「何が対象になるのか」「どこに相談すればよいのか」で迷われる方も少なくありません。弊法人では、社会保険に関するご相談から、給付手続きまで幅広く対応しております。判断に迷われた際には、ぜひ弊法人にご相談ください。

社会保険の手続き - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

また、「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人ではお受けしております。企業様のご相談のほか、個人の方からのご相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表がご相談内容を伺い、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスをさせていただきます。

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