もくじ
人事制度は、戦後に年齢給や能力給中心の体系となり、現在も様々な変遷を遂げてきている歴史を重ねてきているものですが、特に中小企業では6割以上が整備されていない状況であり、ニュースにもなりました。
中小企業に人が来ないワケ 人事評価制度、6割が持たず_日本経済新聞
背景には、制度設計に必要な専門知識の不足、日常業務に追われ制度整備の優先度が下がる、制度を作っても運用できるか不安などの様々な理由があります。
そこで今回は人事制度の必要性が挙げられる背景や考えを見ていきます。
人事制度とは
まず人事制度とは何か、広くとらえるか狭くとらえるか、人によってとらえ方は異なります。広い意味では働く人に関わる制度全般になりますが、特に重要な基幹制度として挙げられるのが等級制度(役割・能力の区分)、評価制度(成果・行動の測定)、報酬制度(給与・賞与の基準)のため、今回はこの3つの制度を中心に考えていきます。
経営をするうえで人は必ずかかわっていきますので、この3つの制度を整備することは、会社を支える人材の処遇や育成を支える土台をつくることに繫がります。
もし、制度が未整備のまま運用が行われると、期待される役割が属人的に解釈されてしまい、評価は上司の主観によって決められ、給与は説明できない基準で決まることになる可能性が高くなります。そうなると従業員は納得感を得られずモチベーションが下がり、最悪の場合退職に繫がることになります。
また、経営者や人事担当者が採用などの人事施策を考える際にもどのような影響があるか考えるきっかけにもなりますので、制度を整備することは事業にも密接にかかわるとが言えます。

組織と人材を取り巻く構造変化
ではなぜ人事制度がこれほど注目されているのか考えてみると、企業を取り巻く環境は近年大きく変化してきました。現在は、顧客ニーズの多様化、デジタル化の急速な進展、人材獲得競争の激化などにより従来の前提が大きく崩れています。このような構造変化を踏まえると、属人的なマネジメントでは限界があり、組織として明確な基準に基づいて人材を育成・評価し、適切に処遇していく仕組みの重要性が高まっているといえます。
正解がなく変化の速い競争激化時代への突入
現在はVUCA時代と呼ばれ市場変化のスピードは速く、過去の成功モデルを踏襲するだけでは成果が出ない時代となっています。従業員には、決められた手順を守るだけではなく自ら情報を取りに行き、考え、判断し、新たな価値を創る役割が求められ、競争力を維持していかなければならない状況という特徴があります。
※VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、環境変化が激しく過去の成功法則が通用しにくい時代のことを指します。
従業員のキャリアに対する考え方や価値観の多様化
一社完結型のキャリアや終身雇用が前提だった時代と異なり、働く目的や期待する成長は個人によって大きく異なってきています。ライフステージや価値観の違い、副業やフリーランスを考える方など、多様な働き方は広がり続けている状況と言えそうです。
また、現在政府において約40年ぶりの労働基準法の改正についても議論されていることから、さらに多様化は進んでいくとみられます。
管理職に対する負荷の高まり
働き方改革やデジタル化など現場の複雑化に伴い、管理職は組織業績責任を負い、人材育成や労務管理などを同時に行う必要があります。その中で、部下のモチベーションの維持やスキル向上、定期的なフィードバックなどのコミュニケーションといった目に見えない業務など負荷が高まっています。しかし制度が曖昧であれば、管理職は何を軸に部下を指導すべきか、自身は「管理職として」なにを求められているのかが分からず、結果として育成と評価が属人的になってしまいます。

エンゲージメントやコミットメントとの関係
人事制度の適切な運用によりエンゲージメントを高める
前回のコラムにおいて、「エンゲージメント」とは従業員が自発的な意志にもとづき活力や熱意をもって仕事に没頭し、組織へ貢献しようとする持続的な心理状態を指し、コミットメントは、組織への忠誠や目標達成に対する約束といった義務的・外発的な動機を基盤とするものであり、両者は類似しつつも根本的に異なる性質を持っていることをお伝えしました。
この違いは、根底にある倫理観に表れています。エンゲージメントは、他者のニーズに応答し関係性を維持・強化する「ケアの倫理」に基づき、自発的責任から生じる主体的な行動が特徴です。それに対しコミットメントは、義務やルールを重視する「正義の倫理」に近く、法的義務や評価基準といった外部要因によって行動が規定されます。
この観点からみると、人事制度が曖昧な環境では、従業員は「何をすれば評価されるのか」という他者基準に依存した行動に傾きがちになり、やがて承認競争や長時間労働といった不健全な働き方が生まれます。これはコミットメントの「義務」への偏重が強まり、エンゲージメントの「自発性」が損なわれる典型的な構造です。
つまり、人事制度を整備することの意義の1つには、単に評価や給与の基準を明確化するだけではなく、従業員が自らの意志で成長し貢献しようとするエンゲージメントを高める基盤をつくる点にあることがいえます。等級・評価・報酬を一貫したロジックで設計し、期待役割を明確に示すことで、義務的なコミットメントではなく「自発的に働きたい」という内発的動機を支える環境をつくることが求められることになります。
小松製作所の取り組み事例
こうした体系的な仕組みづくりの重要性は、企業事例からも確認できます。小松製作所では社員エンゲージメントの向上が会社の持続的な成長に欠かせないものと考えており、公正・適正な評価や社員の能力・業績を正しく評価した人事制度をつくるとともに、管理職・一般社員それぞれに対するフィードバック体制を徹底することで、能力・業績を正しく処遇へ反映する運用を行っています。
また、全世界の社員を対象に定期的なエンゲージメントサーベイを実施することで、適正な評価が行われているか、納得感があるかなど部門ごとに課題を抽出し改善に取り組んでいます。エンゲージメントサーベイのグローバルスコアは2025年現在では81%(コマツレポート_統合報告書より)と高水準を維持しており、現在も改善を続けています。
多様な能力開発機会の提供とエンゲージメントの向上_小松製作所
企業の成長に繫がる人材への投資
人事制度は、企業にとって単なる仕組みではなく、企業の理念に基づき「どのような人材に、どのように活躍してほしいのか」を示すものです。環境変化が激しく、働く価値観が多様化する今、働く人に関わる課題は毎日のように出てきています。その中で属人的な判断では組織は持続的な成長を実現するのは難しいと考えられます。だからこそ、役割を明確にし、成長に向けた育成に取り組み、経営者と従業員が双方納得できる処遇を行う制度づくりが必要になります。制度の整備は「コスト」ではなく、企業と従業員双方の成長を支える「人に対する投資」です。今後の変化に対応し、強い組織を築くためにも、自社らしい制度づくりを進めていきましょう。
こうした制度の役割を踏まえると、組織の実態に合った人事制度を確実に機能させるためには、制度そのものの設計だけでなく運用体制の整備が欠かせません。役割定義・評価基準・処遇ルールを明確にし、企業が適切に運用できるよう仕組みとプロセスを整えることで、制度は初めて組織の成長を支えるツールとして機能します。
プラットワークスでは、企業の事業戦略や組織課題に合わせた人事制度の構築と、運用を定着させるための支援を行っております。等級・評価・報酬制度の設計はもちろん、評価者研修や運用プロセスの整備など、実務に落とし込むための支援も含めて対応しております。
制度導入・整備をご検討の際には、ぜひご相談ください。
制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
また、すぐに契約というほどではないが「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人では受けております。企業様のご相談のほか、個人の方からの相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表が相談内容を聞き、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスを行います。




