もくじ
AIの進展により、
これから人に求められるのは、正解のない状況で判断し、周囲と連携しながら仕事を進めることです。現場では常に状況が変化し、その都度判断が求められます。こうした状況では、従来のように指示を細かく出し、結果だけで管理するマネジメントは、次第に機能しにくくなってきました。
そこで注目されているのが、人を管理するのではなく、現場の判断を支えるマネジメント、すなわちサーバントリーダーシップ(
サーバントリーダーシップとは何か
サーバントリーダーシップとは、リーダーが指示や統制によって人を動かすのではなく、現場が主体的に判断し、行動できるよう支えることを重視するリーダーシップです。
この考え方は、1970年代にロバート・K・
トップダウン型リーダーシップが「指示・統制」を軸とするのに対し、
グリーンリーフは、サーバントリーダーが備えるべき特性を10項目に整理しています。これらは、リーダーの人柄を示すものではなく、リーダーが日常的に取るべき具体的な関わり方を示したものです。
例えば、部下の話をよく聞くこと(傾聴)、その背景や状況を理解しようとすること(共感)、命令ではなく対話を通じて合意を得ること(説得)。また、目の前の業務だけでなく、仕事の意味や方向性を言葉にして共有すること(概念化)や、短期的な成果だけでなく人の成長を重視する姿勢も含まれます。
引用:スピアーズによるサーバントリーダーの10の属性
これらに共通しているのは、リーダーが前に立って指示する存在ではなく、現場が考えて動けるよう支える立場に立つという点です。サーバントリーダーシップは、個人のカリスマ性に依存するものではなく、日常の関わり方として実践可能なリーダーシップとして位置づけら
「義務」に基づく管理の限界と「自発性」の必要性
従来の日本型マネジメントは、組織への忠誠や、与えられた職務を遂行する「義務」を前提として機能してきました。上司が指示を出し、部下はそれに従って役割を果たすこの構造は、業務内容が比較的安定していた時代には有効でした。
しかし近年、業務の進め方は大きく変化しています。業務の途中で状況が変わり、その都度判断が必要になる仕事が増える中で、指示された範囲内だけの行動では、成果が伸びにくくなっています。
このような仕事では、業務を進めながら判断し、必要に応じて動きを変えることが成果に直結します。AIでは代替できない価値は、個人が状況を見て判断し、
サーバントリーダーシップにおいて、リーダーの役割は「
義務によって動かすマネジメントから、自発性を引き出すマネジメントへの転換が、変化の激しい時代において、組織が成果を出し続けるための前提となります。
過去のコラムで詳しく:人事制度を「義務」から「自発性」へと変える組織原理とは?
「組織コミットメント」から「ワーク・エンゲージメント」へ
これまで人事施策では、組織への帰属意識や愛着を重視する組織コミットメントが重視されてきました。これは、「組織に属し続けたい」「会社の一員である」という意識に着目した考え方です。
しかし、業務内容や働き方が多様化する中で、組織への帰属意識だけでは、仕事への主体性を維持することが難しくなっています。仕事への主体性が弱まると、自ら考えて行動することが減り、個人の能力が業務に反映されにくくなります。
そこで注目されているのが、ワーク・エンゲージメントです。ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対して活力を感じ、意味を見出し、没頭して取り組んでいる状態を指します。2000年代初頭にシャウフェリらによって提唱された概念です。
ワーク・エンゲージメントは、命令や評価制度によって高められるものではありません。仕事の意味が理解でき、一定の裁量があり、困ったときに相談や支援が得られると感じられる環境の中で、徐々に育まれます。
サーバントリーダーは、このようなワーク・エンゲージメントが高まる環境を整える役割を担います。部下を管理して行動を引き出すのではなく、仕事の意味や役割を共有し、判断や相談ができる関係性を築くことで、一人ひとりが仕事に主体的に関われる状態を支えます。その結果、仕事は「指示された業務」ではなく「自ら考え、関与し、価値を生み出す活動」として捉えられるようになります。
過去のコラムで詳しく:エンゲージメントの定義と3類型
「ケアの倫理」を基盤とする理由
サーバントリーダーシップが有効に機能する背景には、
仕事の現場では、業務量や役割の重さ、
ここで重要になるのが、現場の一人ひとりが、自分で判断して行動してよいと感じられるかどうかです。リーダーが部下の状況を把握し、話を聞きながら、
このように、発言や判断に不安を感じずに関われる状態を、心理的安全性と呼びます。心理的安全性が確保されているからこそ、人は意見を出し、
ワーク・エンゲージメントは、
サーバントリーダーは、
過去のコラムで詳しく:ケアの倫理から労働の倫理を問い直す
自発性を制度として支える「役割貢献制度」
サーバントリーダーシップやワーク・エンゲージメントは、理念や姿勢だけでは組織に定着しません。自発性を一部の個人任せにせず、
そこでプラットワークスが提唱しているのが、「役割貢献制度」です。役割貢献制度では、「決められた職務をどれだけ正確に遂行したか」ではなく、その状況の中で、どのような役割を担い、
ここでいう「役割」とは、あらかじめ定められた職務内容のことではありません。その時々の状況に応じて、誰がどこまで関与し、どの判断を担うかという、仕事への関わり方そのものを指します。
この考え方のもとでは、リーダーの役割も変わります。リーダーは評価で人を管理する存在ではなく、部下が役割を引き受け、
なお、サーバメントリーダーシップについては、「支援や関係性を重視するあまり、成果が軽視されるのではないか」という批判が指摘されることがあります。
しかし、役割貢献制度は成果を軽視するものではありません。成果は成果として、賞与などを通じて明確に報いる設計を採用しています。その上で、成果が出るまでに、誰がどの役割を担い、どのように仕事を進めたのかを評価の対象として正当に扱う点に特徴があります。
つまり、役割貢献制度は、サーバントリーダーシップで重視される「支援」「対話」「関係性」を日常のマネジメントで実際に機能させるための仕組みであり、成果と自発的な関与を成果につなげるための制度設計です。
人を細かく管理するのではなく、一人ひとりが役割を担って判断しながら働ける状態を支えることで、変化に強い組織運営を可能にします。
おわりに
人事労務の実践を通じて明らかになるのは、人は管理されることで力を発揮するのではなく、
AIが業務を代替しても、
だからこそ、義務による統制や結果だけでの管理から、
サーバントリーダーシップは、人を動かすための手法ではなく、現場が判断し、役割を引き受けていける状態を整えるための考え方です。役割貢献制度は、その考え方を理念にとどめず、日常のマネジメントとして機能させるための仕組みです。プラットワークスは、役割貢献制度を通じて、




