もくじ
前回のコラムでは、人事制度が単なる評価や給与の仕組みではなく、企業として「どんな人に、どんな役割を期待し、どう成長してほしいのか」を示す大切な土台であることをお伝えしました。特に環境変化が激しい現在では、役割が曖昧なままでは育成も評価も属人的になり、組織運営に大きな負荷が生じるため、基準を明確にする重要性が高まっています。また、人事制度はエンゲージメントを支える重要な仕組みであることや、企業と個人が同じ方向に進むためのツールになるという点を説明しました。
今回は、企業がなぜ人事制度を構築・整備するのか3つの視点から整理し、その制度が実際の経営にどのような効果をもたらすのかをお伝えしたいと思います。制度が整うことで社員が自分の役割や求められている行動を理解しやすくなりますし、日々の判断がスムーズになります。また、育成や評価の基準が共有されることで、上司の指導がブレにくくなり組織全体として人材育成が進めやすくなります。さらに、処遇の根拠が明確になることで納得感が生まれ、社員が自分のキャリアを主体的に考えることができるようになる点もメリットですので、1つずつみていきましょう。
人事制度を構築・整備する3つの理由
人事制度は「その企業としての人の在り方」を示すものですので、単なる評価や給与の仕組みではなく、企業の理念をベースに、どのような人材に、どのような役割を期待し、どのように成長してもらうかをメッセージとして具体化したものと考えられます。環境変化が激しく、人材の役割や必要な能力が多様化する現在において、制度を整備する意義はより大きくなってきています。そこで特に重要となるのが、役割の明確化・戦略的な育成・公正な処遇という3つの観点をここでは見ていきましょう。
会社が求める役割の明確化
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自分が現在どのような役割を求められるか、将来どのような役割をする必要があるかが分かり、そのための行動、身に着けるべきスキルを認識できるようになり、自律的に動くことができるようになります。
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判断基準となる軸が明確になるため、何をすれば評価されるのか、どこを目指せばよいのか意思決定のスピードが向上します。
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役割や評価基準が明確になると、上司による「好き嫌い」で評価する属人的なマネジメントを避けることができ、部下にとっても何を基準に指導されているのか、仕事を任されているのか納得感の向上に繫がります。
事業戦略を実現する人材の育成
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上司にとって育成ポイントが明確になり、体系的に指導できることや、コミュニケーションの取りやすさに繫がります。
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明確な役割、公正な評価をベースにチャレンジの機会を適切に与えることで、自分らしく成長する適切な「自己実現」を満たすことができるようになります。
※過去のコラムでは、労働基準法が「自己実現のための土台」というお話をしましたが、それに対し人事制度は「自己実現のための環境」という、お互いが補完し合うものといえます。

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各事業・部門にとってどのような人材が求められるかを明確にすることで、戦略や事業計画を立てやすくなり、そのための育成計画が立てやすくなります。
適正な処遇の実現
処遇とは、企業が従業員に対して提供する勤務条件全般を指し、代表的には給与・賞与・昇給・昇格・福利厚生・働き方の条件などが含まれますが、近年ではストックオプションや株式報酬についても日本でも導入が増えており、企業の成長が自身の処遇向上に直接つながることなど、その内容も多様化してきています。繰り返しになりますが、企業としてどのような役割を評価し、どんな行動を重視し、どのように賃金・報酬を支払うのかは会社としてのメッセージといえます。
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職務の責任範囲と期待役割を整理し明確にすることで、従業員は「どのような評価に繫がる行動をすることで、どの処遇に到達するのか」を理解できます。それによりモチベーションの向上や自律的なキャリア形成に繋げることができます。
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明確な行動基準や成果基準が整備されていることで、評価のブレを防ぎ、公正な運用を実現することで、上司は部下に評価の説明がしやすくなり、部下にとっても納得感の向上につながります。
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評価と賃金が連動することに加えて、近年ではストックオプションや株式報酬を導入する企業も増えています。現行の会社法では対象が取締役や執行役のみとなっていますが、現在も会社法改正に向けた議論が行われており、近い将来従業員にも株式の無償譲渡が認められると思われます。これが実現すると、企業価値の向上がそのまま従業員の報酬向上につながるため、従業員の企業価値や株価に対する意識を高める効果が見込めるため、個人の成長と会社の成長を同じ方向に結びつける一体的な仕組みとして将来的に増えていくと考えられます。
詳しくは過去のコラムに載せておりますのでご覧ください。

他社の取り組み事例
日清食品 ―役割の明確化を軸とした人材活用とキャリア形成の仕組み―
日清食品ホールディングスでは、社員それぞれの役割を分かりやすくし、自分で成長していけるようなキャリアづくりをサポートする仕組みを整えています。2021年度の評価制度の見直しでは、これまでの組織目標に加えて、社員が自分で挑戦的な目標を設定する仕組みを取り入れ、半期ごとに上司と内容や達成基準をすり合わせる形にしました。これによって「自分は何を求められているのか」「どんな成果が評価につながるのか」が分かりやすくなり、成長につながる行動が取りやすくなっています。
また、非管理職の評価は「成長実感会議」で部門の管理職全員が議論して決め、強みや課題、次の育成ポイントまで整理した上で1on1で丁寧にフィードバックしています。公募制度では、自分の意思で挑戦したい仕事に手を挙げられるようにし、役割の選択に主体性を持てる環境を整えています。
さらに、表彰制度「NISSIN CREATORS AWARD」で多様な貢献を評価し、どんな行動が会社に価値を生むのかを具体的に示しています。管理職向けに導入された「日清流Job型」では、職務内容や求められる要件を全社員に公開し、期待される役割を明確にしました。プロフェッショナルコースも設け、専門性を生かしたキャリアも選べるようにすることで、適材適所をより進めています。
メルカリ ―企業価値の向上がそのまま従業員の報酬になる株式報酬制度―
メルカリが導入した譲渡制限株式ユニット「RSU(Restricted Stock Unit)」は、社員に株式をすぐ渡すのではなく、「一定期間働いたら株式を受け取れる権利」を付与する制度です。まず権利だけが付与され、決められた期間きちんと勤務するとその権利が確定し、初めて自分の株として受け取れる仕組みになっています。株式が交付されるまでの期間に会社の成長に貢献し、その成果を社員全員で分け合うという考え方です。
従来のストックオプション(SO)は決められた価格で株を買う権利であるため、株価が上がらないと利益が出ない制度でしたが、RSUは権利確定時の株価がそのままメリットになるため社員にとって価値が分かりやすい制度です。メルカリがSOを続けなかったのは、上場後は行使価格の優位性がなくなり、社員にとって魅力が小さくなるため、より合理的なRSUに切り替えたという背景があります。
インセンティブの総額はキャッシュと株式を半分ずつに分け、過去の成果にはキャッシュ、未来の貢献には株式という考えで設計されています。これは「成功も失敗もみんなで分かち合う」という創業時からの考え方に基づくものです。導入にあたっては多くの障壁がありましたが、「ベストな制度をつくる」という強い思いと、メルカリのバリューを軸に議論を重ね導入を実現しています。
日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏_メルカリ
人事制度は企業から従業員へのメッセージ
組織が持続的に成長していくためには、人材への期待や役割、評価の基準を丁寧に説明し、社員一人ひとりが自律的に動ける環境を整えることがとても重要です。今回取り上げた日清食品やメルカリの取り組みについて、全て同じ事をする必要はありませんが、参考にできる点があればぜひ自社の取組の参考にしてみてください。役割を明確にし、育成の方向性を揃え、公正な処遇を実現することで、社員の成長と企業の成長を一体で進めていく仕組みが機能していきます。人事制度は一見難しいものに見えますが、基本的な考えにあるのは「自社が進むべき方向性を考えたときに、どのような人に、どのように活躍してほしいのか」というメッセージです。自社に合った制度を整えることが、組織の未来を形づくる確かな第一歩になりますので、ぜひ自社の制度を考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。
組織に合った人事制度を実際に機能させるためには、制度設計だけでなく、その運用を支える体制づくりが不可欠です。期待される役割や評価基準、処遇の考え方を明確にし、それらを日常のマネジメントに落とし込む仕組みを整えることで、制度は初めて企業の成長を支える実効性のある仕組みになります。
プラットワークスでは、事業戦略や組織課題に応じた人事制度や株式報酬制度の設計に加え、運用が定着するためのプロセス整備や評価者研修など、実務に密着した支援を提供しています。
制度の導入や見直しをご検討の際は、ぜひお声がけください。
制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
また、すぐに契約というほどではないが「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人では受けております。企業様のご相談のほか、個人の方からの相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表が相談内容を聞き、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスを行います。




