子ども性暴力防止法とは?~子どもが安心して生活できる社会にするために企業として対応すべきこと~

子どもに対する性暴力は子どもの心身の発達に生涯にわたって深刻な影響をおよぼす悪質な行為で、決して許されるものではありません。近年は教育者や保育者による強い立場を利用した子どもに対する性暴力が問題視され、性暴力対策のさらなる強化が急務となっています。
2024年6月に「子ども性暴力防止法」(学校設置者及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)が成立し、現在は20261225日の施行に向けて準備が進められています。
ではどのような背景で、この法律が制定されたのでしょうか。日本における子どもへの性暴力の実態と子どもの発達への影響の観点から成立された背景とともに、法律施行前に事業主としてできることについて解説していきます。

子ども性暴力防止法とは

子ども性暴力防止法」は、子どもに教育や保育を行う事業者に対して、その従事者による子どもへの性暴力を防止する対策を行うように義務付けた法律です。
イギリスの「DBS: Disclosure and Barring Service」をもとに制定されたため、「日本版DBS」ともよばれています。20246月に成立し、20261225日に施行されます。
制度対象となる事業主・業務・求められる措置は以下の通りです。

【対象事業者】
子どもが教育や保育を受ける場所で、子どもに接する従業者が勤務する事業者が子ども性暴力防止法の対象となる。学校、認可保育所、認定こども園、児童福祉施設などの公的な性質が強い事業者は法的義務がある。放課後児童クラブ、学習塾、スポーツクラブ、芸能事務所などの民間教育事業者も国の「認定」を受ければ同様の措置を行う義務が生じる


<特定事業者と認定事業者の違い>
対象となる事業者は特定事業者(法定事業者)と認定事業者があげられ、法的位置づけの違いによって以下の通り分けられています。

事業者の種類

特定事業者(法的義務)

認定事業者(任意)

事業者の例

学校、保育所、幼稚園、特別支援学校、児童養護施設等

学習塾、スポーツクラブ、放課後児童クラブ、芸能事務所等

法的位置づけ

必ず法的に定められた措置を行う義務があり、怠ると国からペナルティがある

任意だが、国の認定を受ければ特定事業者と同様の措置が義務となる

 

対象業務】
教員や保育士、児童支援員等の日常的に子どもと接する職種は一律で対象となる。
事務職員やスクールバスの運転手、清掃員、警備員などは対象外だが、子どもに継続的に接する可能性がある職種は現場判断で対象とできる。

※雇用形態によらず、短時間労働者やボランティアも対象。 

<対象業務を満たす3要件>
なお、対象業務としては以下の要件を満たすものを範囲としています。
支配性
:子どもを指導、養育するなど、支配的・優越的立場にある
継続性
:時間単位のもの含め、子どもと共に生活するなど、継続的に密接な人間関係をもつ
③閉鎖性:親等の大人の監視が届かない状況下で預かり、教育・養護するもので、他者の目に触れにくい状況を作ることが容易である。(従事者一人に対し児童が複数の場合も含む)

対象事業者に求める措置

「子ども性暴力防止法」においては対象事業者に対して過去に性犯罪を行った人を排除するだけでなく、今働いている従事者の管理(性暴力を起こさせない)や万が一性暴力が発生した時の体制整備も含め「安全確保措置」をとる義務が発生します。

1.安全確保措置
①犯罪事実確認(再犯防止策)
過去に性犯罪歴のある人が教育や保育の現場に入らないようにするために行われる措置です。事業者は子どもと接する業務の従事者について、過去の性犯罪歴の確認が必要になります。現職の従事者だけでなく雇い入れや配置転換の際にも必要となり、従事者が対象業務に従事することが確定した段階で行います。

確認の対象となる性犯罪歴の基準は?

「特定性犯罪」を犯し、
・拘禁刑の執行後20年経過していないもの

・拘禁刑の執行猶予判決確定し10年経過していないもの

・罰金刑の執行後10年経過していないもの

特定性犯罪とは
不同意わいせつ、児童買春、児童ポルノ所持、痴漢、盗撮、未成年淫行等をさし、痴漢や盗撮等の迷惑防止条例違反についても特定性犯罪に含める点が特徴です。


②子どもへの性暴力を防ぐための取り組みと性暴力が起こった時の対策(初犯防止策)
・性暴力につながる不適切な行為の防止
・子どもと接する職種の従事者に性暴力を防ぐための研修実施
・日常的な観察を通じた子どもの心身や行動異変の確認
・子どもや保護者がすぐ相談できる相談窓口の設置
・性暴力のおそれのある事象(不適切な行為)には、該当従事者が子どもと接することができないよう防止措置の実施

性暴力の例(性犯罪の他、子どもを不快にさせる性的言動も含む)
不同意性交、性的部位への接触、わいせつな言動、児童買春、児童ポルノ撮影所持、のぞき、盗撮
不適切な行為例
子どもとSNSを通じた私的やりとり、私物のスマートフォンで子どもを撮影、不必要な身体接触

2.情報管理措置
子ども性暴力法における情報管理措置とは、国への照会により得られた「従業員や求職者等の性犯罪歴」という個人情報を漏洩や悪用から守るために、事業主に義務付けられる法的措置です。
事業主は以下の措置をとることが義務付けられています。

①犯罪事実確認記録等の適正な管理「閲覧できる人を『最小限』に」
…事業主は国から提供された紹介結果を取り扱う担当者を必要最小限の人数に特定しなければなりません。また、配属先の同僚等、一般従業員に対象従業員の犯罪歴の事実を伝えてはいけません。

②犯罪事実確認記録等の利用目的の制限及び第三者提供の禁止「目的以外で利用しない」
…国から提供された犯罪事実確認記録は「その従業員を子どもと接する業務に就かせるか否か」の判断のためのみに使われなければなりません。他社への共有やブラックリスト化して事業所内で利用するなど悪用してはいけません。

③犯罪事実確認書及び情報漏洩等の報告と廃棄「物理的、デジタル的な情報の安全管理の徹底」
…事業者は犯罪事実確認の情報が盗まれたり漏洩したりないよう、書類やデータの保管を施錠やパスワード暗号化などにより厳密に行う必要があります。また、万が一情報漏洩した場合、事業者はただちに子ども家庭庁に報告する義務があります。

法律が成立した背景

では、なぜこの法律が制定されたのでしょうか。
それは、近年子どもに対する性暴力犯罪が増加・悪化している現状があげられます。そして、幼少期の性被害の経験が子どもの発達への大きな影響を及ぼすことがあげられています。

1)子どもに対する性暴力犯罪の増加、悪化傾向
近年の子どもに対する性暴力犯罪の傾向として、「認知件数の増加」、「低年齢化」、「SNSを起因とする手口の悪化」があげられます。
内閣府男女共同参画局の調査によると、日本の性犯罪の認知件数のうち、「子ども・若者」の被害割合が突出して高く、暴力被害にあう子どもの低年齢化が深刻となっています。
具体的には強制性交等罪の2022年の認知件数(1,655件)のうち、被害者の4割以上が10代以下であることと、特に012歳の低年齢児については2018年と比較し1.4倍になっています。

強制性交罪の認知件数 内閣府男女共同参画局「子ども・若者の性被害に関する状況等について」より

2)子どもの発達上のリスク
また、子どもの発達心理学的視点から見ても、子どものころに受けた性被害は、子どものその後の人格形成や心身の発達、そして社会生活においても大きなダメージを与えてしまいます。

<愛着形成障害による自己認知のゆがみと健全な対人関係の障害>
子どもは幼少期に身近な大人を信頼することで愛着を形成し、「この人といれば大丈夫だ」と大人が安全基地として認識します。しかし、性被害体験により愛着形成が阻害されてしまうと、「大人は信じられない」といった自己認知のゆがみが生じる可能性がありますまた、他者との信頼関係の形成が難しくなってしまうため、不登校や引きこもりといった対人関係の障害が起きてしまいます。
このような自己認知のゆがみや対人関係の障害により、成人後の就労生活においても、キャリア生活における挑戦を経て成長する機会を失ってしまうことや、職場内でのコミュニケーションに大きな支障がでてしまうこと等、成人後の社会生活にも大きな障害が生じてしまいます
このことから、性暴力が与える子どもの人生への影響はとても大きく、決して看過できません。

<トラウマ体験による精神疾患の発症リスク>
また、性暴力被害は心身に大きな恐怖とストレスを及ぼすため、将来的にさまざまな精神疾患の発症リスクを著しく高めることが様々な医学的・心理学的研究でも明らかにされています。特に子どものころに受けた性被害は単一の症状にとどまらず、複数の精神疾患が併存するケースにつながることが多くあります。主に以下の精神疾患・症状が誘発されやすいといわれています。

①PTSD(心的外傷後ストレス障害)/複雑性PTSD
事件そのものの記憶がよみがえる「フラッシュバック」や激しい不安・恐怖に襲われ、特に加害者が身近な大人であり、被害が長期に及ぶ場合「複雑性PTSD」に発展しやすく、感情のコントロールが困難になる、「自己否定感」に悩まされるなど心理面での発達に大きな影響を及ぼします。

②うつ病・不安障害
慢性的なストレスにより脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることでうつ状態やパニック障害、不安障害などを引き起こします。

③解離性障害
耐え難い苦痛から身を守るため、一時的に意識や記憶、自分という感覚を切り離す症状で、日常化すると記憶障害や多重人格(解離性同一性障害)状態になることもあります。

④パーソナリティ障害
上述した通り、性被害により「身近な大人が安心できる存在である」と認識する健全な愛着形成がされなかった場合に、大人になってからも他者を信じられず極端な衝突や依存する対人関係を繰り返してしまいます。

⑤摂食障害、自傷行為、依存症
言語化できない苦痛や自己嫌悪を、過度に体形をコントロールしたり、リストカット等で自分の体を傷つけたりすることで紛らわす不適切なコーピング行動を行います。

このように、子どもに対する性暴力は子どもの健全な発達においても大きな影響をおよぼしてしまうことが問題視されてきたことで、子ども性暴力防止法の制定にいたりました。

認定事業者マーク(こまもろうマーク)

こまもろうマーク」とは「子ども性暴力防止法」に基づき、国の認定を受けた事業者や学校、認可保育所等に表示される認定事業者マークです
「子ども性暴力防止法」の施行に向け、子どもを性暴力から守る対策を適切に行っている事業者であることの目印として、このマークが制定されました。
国が認定をした事業者は子ども家庭庁のウェブサイト上で公表され、認定の証としてこのマークをメディア広告やパンフレット、名刺等に使用することができます。

                   ※「こまもろうマーク」子ども家庭庁より

 

法定事業者(特定事業者) 

認定事業者 

マーク

  ピンク色の四角型

    青色の丸型

対象者

・学校
・認可保育所
・幼稚園
・児童養護施設

・学習塾
・スポーツクラブ
・放課後デイサービス
・習い事教室

内容

法令基準を満たす場合のみ表示可能(法令基準を満たすのは義務)
→法的義務を果たしている事業者を示すマーク

こども家庭庁の認定審査を受けて基準に適合する場合に表示可能となる(法令基準を満たすのは任意)
→自主的に子どもの性暴力防止・安全対策に取り組む事業者を示すマーク


<認定基準>
認定には法律(子ども性暴力防止法)で定められた性暴力を防ぐ取り組みや犯罪歴情報を適正に管理する取り組みを適切に実施する体制が必要です。

①犯罪事実確認体制の整備
…採用時や現職の従業員に対して性犯罪歴がないか適切に確認手続きを行うための責任者の選任とフロー整備、また採用条件に性犯罪歴がないことを明示するルール作り

②早期発見のための措置
…こどもたちの異変や被害に早期に気づき、早期に察知する仕組みづくり(面談、アンケート、巡回など)

③相談体制の整備
…子どもや保護者、従業員が性暴力について相談できる窓口の設置(匿名性の確保)

④こどもへの性暴力等への対処規定(対応フロー整備)
…性暴力(もしくはその疑い)が生じた際に、調査・保護・支援の対応手順を定めた対処規定の作成

⑤従事者への研修の実施
…従業員に対して性暴力に関する研修を定期的に実施する

⑥情報管理措置
…犯罪事実確認の結果を厳格に管理する情報管理規定の策定と、情報へのアクセス制限やセキュリティ対策を講じる

<マーク取得のメリット>
このマークを取得すると、事業所やウェブサイト、パンフレットや求人広告、従業員の名刺等に表示することができます。それにより、子どもの保護者や求職者などに対して安心して子どもを預けられる、安心して働ける事業所であることのアピールができるため、以下のようなメリットがあります。

①保護者からの信頼と「競合との差別化」
…子どもとかかわる従業員の性犯罪の増加、悪質化などを受けて、保護者の安全意識はとても高まっています。認定マークを公表することで、従業員の性犯罪歴のチェックや相談窓口の設置等を通して、安全対策を徹底している事業者であることが認識されるため、子どもを預ける保護者からの信頼性の担保になります。また、競合の事業者との差別化にもつながります。

②優秀な人材の確保
…性暴力を許さない職場環境であることのアピールは従業員にとっても安心材料です。高いコンプライアンス意識がある働きやすい環境であることは、優秀な人材を確保する上でも有効です。また性犯罪の潜在リスクのある悪質な求職者のスクリーニングにもつながります。

③組織内の管理体制の強化
…認定マークを取得する過程で、社内規定の作成やスタッフへの研修が義務付けられるため、結果として会社の管理体制が強くなり、性暴力につながるトラブルを未然に防ぐだけでなく、トラブルが生じそうな場合でも、明確な対処規定によって問題が大きくなる前に対処することができます。

子ども性暴力防止法施行に向けて会社に求められること

2026年1225日の施行に向けて、法的義務が定められている特定事業者はもちろんのこと、認定を予定している事業者は、いまから段階的に準備を進めていく必要があります。
法律施行後にスムーズに運用ができるよう、今から以下の3ステップについて準備を行うとよいでしょう。

①労務・就業規則の整備
…性犯罪歴や性暴力確認後に性犯罪歴が判明した従業員への対処ルール(配置転換や内定取り消し、懲戒処分等)を就業規則・契約書に明記しておく。また、性犯罪歴の紹介結果の管理者や管理方法についての情報管理規定も併せて作成する。

②現場の安全管理ルール(防犯ルール、相談体制の整備)
…現場での防犯ルール(11で個室にならない等)の整備の他、子どもや保護者・従業員から性暴力についての相談を受ける際の窓口・担当者を決定し、相談体制の整備を行う。

③採用フローや募集要項の変更、現従業員への説明実施
…求人票や募集要項に性犯罪歴の確認を行う旨を記載し、求職者に伝達する。内定誓約書に性犯罪歴がないことを誓約させる書類や、採用後に国への性犯罪歴照会を行うことへの同意書の作成。現在の従業員に対しても照会の対象となることから、事前に同意を得るための説明の機会を確保する。

今回のコラムでは、子ども性暴力防止法の概要と成立の背景、そして事業主に今から求められる対応について解説しました。就業規則の改定や採用、従業員の説明、相談体制の整備など今から求められる対応は多岐にわたります。このような対応を行っていく際は労務管理に精通した専門家のアドバイスをうけるとよいでしょう。

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