【実務解説】雇用保険の特例適用が問いかける、マルチジョブ時代の組織対応

はじめに  

2022年1月1日に施行された雇用保険法の一部改正は、一つの事業所での週の労働時間が20時間未満であっても、複数の事業所での合計時間によっては雇用保険の適用を受けられるようにするものです。

この改正は、副業・兼業(マルチジョブ)の普及に対応したものであり、特に65歳以上の労働者雇用の安定セーフティーネットの確保を目的としています。企業には、この新しい働き方に対応した労働時間の管理人事制度の整備が求められています。

65歳以上マルチジョブホルダーの特例適用

従来の雇用保険の適用は、一つの雇用主に依存する構造でした。今回の特例は、複数の雇用主を持つ65歳以上の労働者を対象に、その問題を解消するための措置です。

【特例適用の要件】

以下の3つの要件すべてに該当する場合、労働者本人が厚生労働大臣に申し出ることで、特例的に高年齢被保険者となることができます。

  •  複数の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること。

  •  一の事業主における1週間の所定労働時間が20時間未満であること。

  •  二つ以上の事業主の適用事業(週の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数以上のものに限る)における1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること。

組織への影響と企業が確認すべき実務的課題

今回の雇用保険法の特例改正は、単なる事務手続の追加という側面に加え、企業に対して、労働時間管理と人事制度の柔軟性という根本的な課題を問いかけているといえます。

まず、複数の場所で働く労働者が増えることで、労働時間の通算健康管理に関する企業側の管理責任が複雑になることから、正確な労働時間の把握と、残業が発生しないための調整が不可欠となります。

加えて、報酬や待遇が他社と比較されやすくなるため、企業は、複数の組織で働く人材に対して、働きがいや貢献度が適切に評価され、維持されるような人事制度を構築が求められるようになります。

また、65歳以上の人材が持つ豊富な知識やスキルを、パートタイムや短時間勤務といった柔軟な形で活用し続けるための体制を整備することも求められます。

企業が取るべき具体的な対応ステップ

1. 法改正の周知と労働者への説明

対象となる65歳以上の労働者に対し、この特例の内容と、被保険者となるための申出が必要であることを正確に伝達し、必要な情報提供を行います。

2. 就業規則と人事制度の点検

  • 副業・兼業を前提としたルールの明確化
    就業規則における副業・兼業の取り扱い、特に労働時間の上限管理について、現行のルールが新しい働き方に対応できているか確認します。

  • 評価制度の見直し
    時間ではなく、成果や貢献度に焦点を当てた評価制度へ移行することで、マルチジョブホルダーの意欲と公平性を保ちます。

今回の雇用保険法の特例は、労働市場の変化を反映したものといえます。人事制度と労働時間管理体制が、この「マルチジョブ時代の新しい働き方」に対応し、従業員の意欲と公平性を維持できる設計になっているか、この機会に実務と制度の両面から点検を行うことをお勧めします。

組織に合った人事制度を実際に機能させるためには、制度設計だけでなく、その運用を支える体制づくりが不可欠です。期待される役割や評価基準、処遇の考え方を明確にし、それらを日常のマネジメントに落とし込む仕組みを整えることで、制度は初めて企業の成長を支える実効性のある仕組みになります。
プラットワークスでは、事業戦略や組織課題に応じた人事制度や株式報酬制度の設計に加え、運用が定着するためのプロセス整備や評価者研修など、実務に密着した支援を提供しています。
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現物給与価格の一部改正(令和3年4月改正)
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