近年、若い世代を中心に瞬く間にブームが広がっているMBTI。SNSやネット記事等で一度は目にしたことのある方、実際に使おうとした方も多くおられるかもしれません。意外なことに、MBTIには、実は50年以上にわたる歴史があり、現在、30言語に翻訳され、50カ国で利用されています。インターネットでは、「MBTI」をうたうサイトも多数見受けられますが、公式には、国際規格に基づいた心理学的性格検査で、日本では日本MBTI協会の認定を受けた専門家である「MBTI認定ユーザー」の支援のもとでのみ受験することが可能です。欧米諸国をはじめ各国で、自己理解、他者理解、キャリアカウンセリング、カウンセリング、リーダーシップ開発、チームビルディング、組織開発、教育などさまざまな場面で利用されており、2000年9月から日本にも正式に導入されました。
正しい理解が普及する前に、近頃の流行の中では、本来の意図とは異なる使い方がなされてしまうことも増えており、人事採用において「MBTIもどき」を判断基準にすること等を指す「MBTIハラスメント」というような言葉も聞かれます。MBTIを使いこなすことができれば、組織運営とは本来大変相性が良いはずです。MBTIをどう捉え、どのような点に気をつけて導入すれば、組織人事において有効に活用することができるのでしょうか。本記事では、心理士監修のもと、そのためのヒントを示していきます。
MBTIとは何か
MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)は、心理学者カール・グスタフ・ユングの「心理学的タイプ論」を基に、1940年代にアメリカのキャサリン・クック・ブリッグスとその娘イザベル・ブリッグス・マイヤーズによって開発された性格診断ツールです。MBTIは、個々の性格を4つの主要な指標に基づいて16のタイプに分類します。
1. 外向性 (Extraversion)か内向性 (Introversion)か
他者との交流からエネルギーを得るか、内省や自己の世界からエネルギーを得るかを示します。
2. 感覚 (Sensing)か直観 (Intuition)か
情報を収集する方法として、具体的な事実やデータを重視するか、全体像や可能性を重視するかを示します。
3. 思考 (Thinking)か感情 (Feeling)か
意思決定の際に論理と客観性を重視するか、人間関係や感情を重視するかを示します。
4. 判断 (Judging) か知覚 (Perceiving)か
構造化された計画的な生活を好むか、柔軟で即興的なアプローチを好むかを示します。
これらの4つの指標の組み合わせにより、例えば「ENTJ」や「ISFP」といった16の性格タイプが形成され、それぞれ異なる特徴と強み、弱みを持つとされています。
MBTIを組織運営に活かすメリット
1. 自己理解と他者理解の向上
MBTIを導入することで、従業員が自身の性格傾向やコミュニケーションスタイルを理解することができます。これにより、他者との関わり方やチーム内での役割を認識しやすくなり、より効果的な協力が促進されます。外向的なタイプ(E)は、ミーティングやグループディスカッションで積極的に発言する傾向がある一方で、内向的なタイプ(I)は時間をかけてじっくりと考えた後に意見を出す傾向があります。このような性格の違いを理解していると、適切なコミュニケーション方法を選択しやすくなり、誤解や対立を減らすことができます。
2. チームダイナミクスの最適化
MBTIを活用することで、各メンバーの強みや弱みを把握でき、役割分担が適切に行えます。例えば、計画を緻密に進めることが得意な「J(判断)」タイプをプロジェクトマネージャーに、柔軟で即興的な対応が得意な「P(知覚)」タイプを臨機応変に対応が必要な場面に配置したり、思考型のメンバーが論理的な判断を担当し、感情型のメンバーが人間関係やモチベーションを管理することで意思決定のバランスを取ったりすることが可能です。このように多様性を理解し合うことで、相互信頼と協力が促進され、チームのパフォーマンス向上につながります。
3. リーダーシップの向上
MBTIを通じてリーダーが自らの性格タイプを知ることで自己改善に役立てるだけでなく、部下の性格タイプを理解することで、より効果的なリーダーシップスタイルを選択することができます。例えば、内向的な部下には個別のフィードバックやメールを用いたコミュニケーションが効果的かもしれませんし、外向的な部下には対面でのダイナミックな議論が適しているかもしれません。このような調整がリーダーシップの質を高め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。
MBTIを活用するデメリット
1. 科学的妥当性への批判
MBTIは広く利用されている一方で、心理学界ではその科学的妥当性に対する批判もあります。特に、MBTIのテスト結果は状況や環境によって変動することがあり、一貫性に欠けると言われることもあり、また、MBTIが予測できるのは個人の傾向に過ぎず、実際の行動や職務パフォーマンスを正確に予測することは難しいという点も指摘されています。
2. 性格タイプの固定観念を生むリスク
MBTIは個々の性格の一面を理解するのに役立ちますが、診断結果が固定観念を助長するリスクがあります。例えば、「この人は内向的だからリーダーには向いていない」などの判断がされがちです。しかし、実際には人間の性格は状況や経験によって変化し、MBTIの診断結果だけで全てを判断するのは適切ではありません。誤った解釈により人材育成の可能性が狭まる恐れがあります。
3. 過度な依存による組織運営の硬直化
MBTIにあまりに依存した判断が下される場合、個人の成長や柔軟な対応が阻害される可能性があります。たとえば、メンバーが特定の性格タイプに基づいて固定された役割を持ち続けると、他のスキルや能力を開発する機会が制限されるかもしれません。組織がMBTIに頼りすぎることで、適応力のある柔軟な職場環境の構築が妨げられることも懸念されます。また、特定の性格タイプが理想的とされ、そのタイプに該当しないメンバーが不利に扱われたり、評価が偏ったりすることが懸念されます。これは、職場の公平性やインクルージョンの観点からも問題となりうるため、組織としては注意が必要です。
結論
MBTIは組織運営において、コミュニケーションの改善やチームビルディング、適材適所の人材配置に大変役立つツールではありますが、その限界やリスクも理解した上で活用することが重要です。科学的な信頼性に疑問があることや、性格タイプの固定観念に囚われすぎないように、MBTIを補助的なツールとしてバランスよく活用し、柔軟かつ多様性を尊重する組織運営を心掛けることが望まれます。
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(公認心理師・臨床心理士監修)