コラム

安全配慮義務とは?~違反に伴うリスクとその対策について~

昨今は時間外労働に伴う過労死問題、多種多様なハラスメント問題が増加し、問題視されています。このような労働者に対して仕事を通して起きる心身の健康問題は、使用者である企業に対しても「安全配慮義務違反」として、責任を問われることがあります。では、「安全配慮義務」とはどのような義務を意味し、どういった基準で「安全配慮義務違反」となるのでしょうか。

安全配慮義務とは

「安全配慮義務」とは労働者が安全かつ健康に働くことができるよう配慮しなければならない企業の義務のことをさします。平成203月に施行された労働契約法第5条で初めて明文化されました。使用者は労働者と労働契約を結ぶ際に、労働契約に基づき労働者に賃金支払い義務を負うほか、労働契約上に付随して安全配慮義務を負うことを規定しています。

 

労働契約法第5条「労働者の安全への配慮」
5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

 

なお、労働安全衛生法第3条1項においても下記の通り、労働者の安全と健康を守らなければならない旨の記載はありますが、労働者が働く環境づくりに焦点を当てる記載となっている点で、労働契約法とは異なります。

労働安全衛生法第31項「事業者等の責務」
31項 事業者は、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。

 

安全配慮義務が規定化された背景

使用者は労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているとされていますが、民法や労働安全衛生法などの規定から、明らかになっていないという現状がありました。そして使用者が、労働者が安全に勤務にあたることができるよう配慮する義務を怠っていた事例(陸上自衛隊事件)等を通じ、労働契約法第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うとする旨を初めて規定しました。

【陸上自衛隊事件 (昭和50年2月25日最高裁第3小法廷判決)】

陸上自衛隊員が自衛隊内の車両整備工場で車両整備中、後退してきたトラックにひかれて死亡した裁判例。公務員が公務を遂行するために、国が場所や設備等を供給する場合は、国は公務員の生命や健康に危険が生じないよう、物的人的環境を整備する義務があると示された。

これに伴い、使用者(国)の従業員(公務員)に対する「安全配慮義務」が認定され、判例法理として確立されることとなった。

 

この「安全配慮義務」とは、労働者の肉体的に危険な作業に注意するだけでなく、業務遂行によって心身に不調をきたすことのないよう、予見できる事態を避けるために企業として取り組まなければならない義務です。当初の「安全配慮義務違反」でよく見受けられたのは、労働災害による傷病や死亡が主体となるものでしたが、近年は過労やハラスメントに伴う脳心臓疾患や精神疾患の発症によるケースが増えてきています。

安全配慮義務違反の判断基準

では、どういったケースが「安全配慮義務違反」となるのでしょう?その判断基準をみていきましょう。

なお、労働契約法上は具体的な基準が明文化されてないため、「安全配慮義務違反」は労働安全衛生法等の法律や政令などの法令、通達告示を参照しながら個別事情に応じて判断されます。なお、安全配慮義務違反の判断基準は法令、通達告示の順に適用範囲が広くなります。

 

                        ※安全配慮義務違反の判断基準図

 

・危険な労働現場における事故

危険な場所での作業にもかかわらず、現場での事業主の適切な配慮、措置を講じてなかったことに対して、危険有害防止措置義務違反となる。

 

・過労死ラインを超える時間外労働・過重労働

長時間の労働や過重労働が常態化しているにもかかわらず、対策を怠り、身体疾患や精神疾患の発症、過労死等をひきおこした場合。例えば、過労死ラインを超える時間外・休日労働(月100時間超、もしくは26か月平均80時間超の)を行っていたにもかかわらず、面接指導を行わなかった場合、安全配慮義務違反になりうる。また、時間外労働・休日労働が月45時間を超えた場合でも面接指導が望ましいとされている。

 

・職場におけるハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラ等)

労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法等に基づき、不利益な取り扱いは禁止されており、相談窓口の設置や対応フロー整備など雇用管理上必要な措置を行う義務は明文化されている。よって、ハラスメント行為が発生した際にそのような措置が行われていない場合、事業主の安全配慮義務違反となりうる

安全配慮義務違反に伴うリスク

安全配慮義務違反を犯した場合、労働契約法による罰則は課せられません。労働契約法は民事的なルールをもとに制定された法律であるためです。しかし、以下のようなリスクがあるといわれています。

①労働者による損害賠償

事故などにより労働者が重い後遺症を負ったり、死亡したりした場合、被災労働者やその遺族から損害賠償を請求される。

②会社のイメージの低下

コンプライアンス遵守をより一層求められる社会で、報道により企業ブランドのイメージ低下につながることで、顧客や取引先の離脱を引き起こしてしまう。

③職場環境の悪化

ハラスメント、長時間労働などが横行することで、労働環境が悪化し、既存の従業員の離職が増加する恐れがある。

安全配慮義務違反を防ぐ取り組み

従業員が安全かつ健康に働くことができ、安全配慮義務違反を起こさない企業となるために、どのような対策が必要となるのでしょうか。下記の取り組みをみていきましょう。

・従業員の心身の状態の把握

定期的な健康診断、ストレス実施の実施、産業医の受診。

・労働時間の適切な把握と管理

労働時間の把握と十分な休憩、休日、休暇の付与を行う。

・労使間のコミュニケーション

労使が労働条件等に関して対等な立場で話し合うことで、労働者視点での労働環境における課題を使用者が把握し、改善に生かすことで安全配慮義務違反を未然に防ぐ。

※安全委員会・衛生委員会の実施

労働安全衛生法において一定基準に該当する事業場について「安全委員会」、「衛生委員会」の設置を行うことが義務付けられている。「安全委員会」とは労働者の危険を防止するため、「衛生委員会」とは労働者の健康障害を防止するために実施され、審議事項として「長時間労働者の健康障害の防止や労働者の精神的健康保持増進を図るための対策の樹立」などが定められている。なお、労働安全衛生法第17条、18条に明文化されているように、安全委員会、衛生委員会の実施を怠ると安全配慮義務違反になりうる。

・ハラスメント防止策

ハラスメントの予防や再発防止策(研修の実施、基本方針の明確化と社内外への周知、相談体制の整備等)を実施する。

・危険な労働現場における安全対策

作業環境の整備、危険物の除去、安全装置の設置、設備の更新等。

 

このように、職場の従業員の労働時間や心身の健康など、従業員が安全かつ健康に働くことのできる環境の整備がされているか実態の把握を行い、それを通じて労使間のコミュニケーションを行うことで、従業員が安心して働くことのできる安全対策や労働時間の管理、ハラスメント対策などの実施につなげていくことが大切です。

 

弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。職場における心身の健康に不安を感じている従業員にとって、相談することで心の負担を軽くするプラットフォームとして活用いただくことができます。

Plattalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、職場環境に問題がある場合は相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

Plattalks - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

 

また、弊法人では、職場における従業員の安全と健康を確保するために、従業員のメンタルヘルス不調防止に向けた「安全衛生管理体制の構築支援」や、「休職制度の見直し」などの支援も行っておりますので、ぜひご活用ください。

健康管理 - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

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