コラム

精神障害の労災認定基準とは?~認定までの流れ~

近年、仕事によるストレスが関係した精神障害の労災認定が増えています。厚生労働省の調査によると、令和5年度に精神障害の労災認定を受けたのは883にのぼり、統計を初めて以降過去最多の件数となりました。

また、厚生労働省では、労働者に発病した精神障害のうち、仕事が主な原因と認められる(労災認定)判断の基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。この認定基準は令和59月に改正されました。では、そもそも労災とはどういった災害をさすのか、そしてそのうち精神障害の労災認定はどのようにしてなされるのか、また、精神障害の労災が発生した場合、企業としてどのような対応をしていく必要があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

                           ※厚生労働省「精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移」

 

労災(労働災害)とは?

「労災(労働災害)」労働者が業務遂行中に業務に起因して受けた「業務上の災害」のことで、業務上の負傷、業務 上の疾病及び死亡をいいます。事故による身体的なケガだけでなく、熱中症、過労死、パワハラや長時間労働などによりうつ病などの精神障害を発症した場合も、労災となりうるケースがあります。このコラムでは特に近年増加傾向にある、精神障害の労災の認定について学んでいきましょう。

「業務上の災害(業務災害)」とは、労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。 業務災害とは、業務が原因となった災害ということであり、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることをいいます。

業務災害の保険給付は、労働者が、労災保険の適用される事業場に雇われて、事業主の支配下にあるとき(業務遂行性)に、業務が原因となって発生(業務起因性)した災害に対して行われます。

 

労災の認定基準

上記の通り、労災の保険給付を受けるためには、下記の「業務遂行性」「業務起因性」という2つの認定基準を満たす労災として認定を受ける必要があります。

①業務遂行性:労働者が労働契約に基づき事業主の支配・管理下にあることをいいます。これは、事故や病気が「業務中に起こったかどうか」という観点のことで、労働者が事業主の指揮命令下で業務を遂行している最中に発生した事故や疾病であるかを判断します。具体的には、仕事の内容に直接関係する作業中や、通勤中・休憩中であっても、業務の一環として認められる場合もあります。

②業務起因性:業務と傷病の間に一定の因果関係があることをいいます。これは、事故や病気が「業務そのものが原因で起こったかどうか」という観点のことで、業務の内容や環境が直接的な原因であるかどうかを判断します。たとえば、業務のストレスや過労が原因で心臓発作が起こった場合や、化学物質を扱う仕事で有害物質に長期間さらされた結果として疾病が発生した場合が該当します。

 

精神障害の労災の認定要件

精神障害の労災は主に以下の3つをすべて満たした場合に認定されます。各要件について、厳密な判定基準があるため、それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.認定基準の対象となる精神障害を発病している

2.認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月間業務による強い心理的負荷が認められる

3.業務以外の心理的負荷や個体的要因により発病したと認められない

 

                   ※厚生労働省「精神障害の労災認定フローチャート」

1.認定基準となる精神障害を発病している

認定基準の対象となる精神障害は疾病及び関連保険問題の国際統計分類第10回改訂版(ICD-10)第Ⅴ章「精神及び行動の障害」に分類される精神障害であって、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)及びアルコールや薬物による障害(F1)は除きます。業務に関連して発病する精神障害として、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)が代表的なものとして挙げられます。

 

                          ※厚生労働省「精神障害の労災認定」パンフレット

 

2.発病6か月以内に認定基準となる業務による強い心理的負荷が認められる

労働基準監督署の基準に基づき、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、厚生労働省「業務による心理的負荷評価表」により「強」と評価される場合、認定要件を満たします。評価手順としては以下の通りです。

1)「特別な出来事」に該当する出来事がある場合

心理的負荷が極度である出来事:生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした 等

極度の長時間労働:発病直前1か月前おおむね160時間を超える時間外労働を行った、発病直前3週間におおむね120時間を超える時間外労働を行った 等

2)「特別な出来事」に該当する出来事がない場合

出来事と出来事後の状況の全体を検討して総合評価を行い、心理的強度を「強」「中」「弱」と評価する。

まず、業務による出来事が厚生労働省別表の「具体的出来事」のどれにあてはまるか、あるいは近いかを判断する。その上で、「具体的出来事」の欄に示されている内容に事実関係が一致する場合その強度で評価する。あてはまらない場合「心理的負荷の総合評価の視点」の欄と「総合評価の留意事項」に示す事項を考慮し、個々の事案ごとに評価する。

3)出来事が複数ある場合

複数の出来事が関連して生じた場合、その全体を一つの出来事として評価する。最初の出来事を具体的な出来事とし、関連して生じた出来事は出来事後の状況とみなす。

なお、関連しない出来事が複数生じた場合は、それらの出来事の近接程度、各出来事と発病との時間的近接、継続期間、内容等を考慮して全体を総合的に評価する。

例)強+中または、 中+中または

 

 

 

 

 

 

 

                                                          ※厚生労働省「精神障害の労災認定」パンフレットより一部抜粋「業務による心理的負荷評価表」

 

3.業務以外の心理的負荷や個人的要因で発病したと認められない

業務以外の心理的負荷の評価で、強い心理的負荷のある出来事(強度Ⅲ)が認められない、かつ顕著な個人的要因がないことが、認定の要件となります。業務以外の心理的負荷の強度については、厚生労働省「業務以外の心理的負荷評価表」を用いて心理的負荷の強度を評価し、それが発病の原因であるかを判断します。

顕著な個体要因とは精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがある場合に、顕著な個体的要因がある場合、それが発病の原因であるか判断します。

下記の通り、「自分」の出来事、「家族・親族」の出来事、「金銭関係」の出来事などがあげられます。

 

                                               ※厚生労働省「精神障害の労災認定」パンフレットより抜粋「業務以外の心理的負荷評価表」

 

今回は、労災の定義と認定基準および精神障害の労災認定基準について解説しました。次回のコラムでは、従業員が労災を申請した場合、企業としてどのような対応をしていくとよいか説明していきます。

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人事労務アドバイザリー - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)

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