コラム

脳・心臓疾患の労災認定基準②~過重業務・異常な出来事とは~

前回のコラムでは、脳・心臓疾患の労災認定の概要と3つの「業務による明らかな過重負荷」による認定要件について解説しました。今回のコラムではこの各認定要件について、詳しく説明していきます。

【認定要件:以下いずれかの業務による明らかな過重負荷】

1)長期間の過重業務:発症前長期間にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労した

2)短期間の過重業務:発症に近接した時期において特に過重な業務に就労した

3)異常な出来事発症直前から前日までにおいて、発生状態を時間的および場所的に的確にしうる異常な出来事に遭遇した

1.長期間の過重業務

発症前に長期間(発症前おおむね6か月間)にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす、特に過剰な業務に就労したことをさします。

【疲労の蓄積とは】
恒常的な長時間労働の負荷が長期間にわたり作用した場合、「疲労の蓄積」が生じ、脳・心臓疾患を発症させることがあります。

【特に過重な業務の有無とは】
日常業務(通常の所定労働時間内の所定業務内容)に比較して、特に過重な身体的精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいいます。過重負荷があったかどうかは、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者(対象の労働者と職種、職位、年齢、経験等が類似する者)にとっても特に過重な業務であるかという点で客観的かつ総合的に判断します。

【労働時間の評価】
労働時間は発症日を起点とした1か月単位の連続した期間について、以下の3点を踏まえて判断します。

1)発症前1か月ないし6か月間にわたり、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合、  

  業務と発症との関連が弱いと評価する

2)おおむね45時間を超えた時間外労働が長くなるほど、業務と発症との関連が強くなる

3)発症前1か月間におおむね100時間または発症前2~6か月間にわたり1か月あたりおおむね80時間を超える

  時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連が強いと評価できる

 

【労働時間以外の負荷要因】

労働時間に基づく認定要件に該当しない場合、下記表に記載の労働時間以外の負荷要因について、一定の負荷が認められる場合は、労働時間の状況も加味し、業務と発症の関連が強いかを総合的に判断します。

労働時間以外の負荷要因                         ※厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」より

 

日常的に心理的負荷を伴う業務 ※厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」より

 

心理的負荷を伴う具体的出来事

                         ※厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定」より

 

2.短期間の過重業務

発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務に就労したことをさします。なお、過重負荷の有無の判断については、長時間の過重労働と同様に評価します。

 

【業務と発症の時間的関連性】

短時間の過重業務と発症の関連を見た場合、業務による過重な負荷は発症に近いほど影響が強いと考えられることから、次の業務と発症との時間的関連を考慮して判断します。

1)発症直前から前日までの間の業務が特に過重であるかどうか

2)発症直前から前日までの業務が特に過重でない場合でも、発症前おおむね1週間以内に過重な業務を継続して

  いる場合、業務と発症との関連があると考えられるので、この間の業務が特に過重かどうか

 

【業務の過重性の具体的評価】

次の場合は、業務と発症との関連が強いと評価できることを踏まえて判断します。

1)発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる

2)発症前おおむね1週間継続して深夜帯におよぶ時間外労働など過度の長時間労働が認められる

  ※手待時間が長いなど労働密度が低い場合を除く

 

【労働時間以外の負荷要因】

上記の労働時間の長さのみで過重負荷の有無を判断できない場合、労働時間と先述の労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して判断します。

3.異常な出来事

発症直前から前日までにおいて、発生状態を時間的・場所的に明確にしうる以下の異常な出来事に遭遇したことを指します。

精神的負荷:極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態

例)業務に関連した重大な人身事故、事故発生に伴う著しい身体・精神的負荷のかかる救護活動や事故処理に携わった、生命の危険を感じさせる事故や対人トラブル

身体的負荷:急激で著しい⾝体的負荷を強いられる事態

例)業務に関連した重大な人身事故、事故発生に伴う著しい身体・精神的負荷のかかる救護活動や事故処理に携わった、著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力の除雪作業、身体訓練

作業環境の変化急激で著しい作業環境の変化

例)著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業など

【過重負荷の有無の判断】

出来事の異常性・突発性の程度、予測困難性、事故や災害の場合、被害・加害の程度、興奮、緊張、驚がく等の精神的負荷の程度や、作業強度の身体的負荷の程度、気温の上昇または低下等作業環境の変化の程度等から判断します。

 

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