コラム

ノーワーク・ノーペイの原則とは~法的根拠と具体例①~

労働者が遅刻した場合、企業は欠勤分の給与を支払わないといけないのでしょうか。このように労働者が何らかの理由で働くことができない場合、多くの企業では事業主には賃金の支払い義務が発生しないことを原則としており、これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。

自らの意思で働かない場合のほか、労働者都合の理由による遅刻や欠席、育児・介護休業など、事業主と労働者どちらの責任でもない不可抗力による休業にも、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されます。その一方、どのような場合でも働かなければ賃金が支払われないわけではなく、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されないケースもあります。

では、そもそも「ノーワーク・ノーペイの原則」とはどんな概念であり、どのような場合に適応され、どのような場合に例外的に適用されないのでしょうか。関連する条文をみながら解説していきます。

ノーワーク・ノーペイの原則とは

「ノーワーク・ノーペイの原則」とは簡単に言うと「働いてない分の賃金は発生しない」という原則です。先ほど述べた通り、遅刻や体調不良など私用で早退したケース、出産や育児・介護休業、労災に伴う不就労についても適用されます。

関連する法律としては労働基準法第24条、民法第624条が該当します。

労働基準法第24条では以下の通り、労働者が支払う賃金に対しては、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならないと明記されています。

【労働基準法第24条(賃金の支払い)】

1「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」

 

ただし、労働基準法第24条では賃金の支払いについてのみ定められているため、ノーワーク・ノーペイの根拠となる法律は民法第624条とされています。
民法第624条では「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない」と規定しており、報酬を請求できるときは、労働が終わった後とされています。これは「労働者が使用者との間で約束した労働の内容を提供しなければ、報酬をもらう権利が発生しない」ことを意味するため「労働をしなければ、給与の支払いがない」とするノーワーク・ノーペイの原則の根拠といえます。

【民法第624条】

第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

 

ノーワーク・ノーペイの原則の適用範囲と例外

では「ノーワーク・ノーペイの原則」の適用範囲はどの程度になるのでしょうか。また働かなくても賃金が支給される例外のケースはあるのでしょうか。現行法では、2つの法令で「ノーワーク・ノーペイの原則」の例外が設けられており、例外の1つ目として民法第536条に記載があります。

【民法第536条(債務者の危険負担等)】例外のケース

第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 

民法第536条第1項によると「使用者・労働者双方の責めに帰することができない事由で労働者が労働できなくなったときは、使用者は賃金の支払いを拒むことができる」としており、使用者・労働者の責めに帰するべき理由がない場合、使用者は労働者に賃金の支払いを行わなくてよいとしています。

また、民法第536条第2項によると「(労務の債権者である)使用者の責めに帰すべき事由で労働者が労働できなくなったときは、労働していなくとも、使用者は賃金の支払いを拒否できない」としており、使用者の責めに帰すべき理由がある場合に限り、例外的に労働者が賃金の支払いを受けることができます。

そして、例外の2つ目として労働基準法第26条が挙げられます。

【労働基準法第26条(休業手当)】

第二十六条使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

このように労働基準法第26条では「使用者の責めに帰すべき事由により労働者が働くことができなくなった場合」に60%の休業手当を支払うべきことを規定しています。

なお、例外の1つ目の民法第536条第2項と労働基準法第26条では、同一の文言「使用者の責に帰すべき事由」が用いられますが、労働基準法第26条では、労働者の保護を目的としてこの「使用者の責めに帰すべき事由」を民法536条第2項より広く規定しており、「使用者の故意や過失による責めに帰すべき事由」だけでなく、「天変地変などの不可抗力」によるものを除いて原料、資金などの関係から起こった休業(経営難など)についても使用者の責めに帰すべき事由としています。(参考判例:ノースウエスト航空事件(最高裁昭和62717日))

民法第536条と労働基準法第26条における「使用者の責めに帰すべき事由」の範囲をまとめると以下の通りとなります。

 

「使用者の責めに帰すべき事由」の範囲

 

今回のコラムでは「ノーワーク・ノーペイの原則」について概要と根拠となる法律、適用範囲と例外について解説しました。
次回のコラムでは様々な働けなくなったケースについて「ノーワーク・ノーペイの原則」の適用と賃金の支払いについてどうなるのか、事例をもとに見ていきましょう。

 

「ノーワーク・ノーペイの原則」に関わる問題は、ケースバイケースで複雑であることが多いため、時には専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、このような例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

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