コラム

ノーワーク・ノーペイの原則とは~法的根拠と具体例②~

前回のコラムでは「ノーワーク・ノーペイの原則」について概要と根拠となる法律、適用範囲と例外について解説を行いました。

では、様々な事情により労働者が働くことができなくなった時、労働基準法第26条、民法第536条第1項・第2項、民法第624条、いずれの法律を適用とするのでしょうか。そして賃金の支払い義務はどうなるのでしょうか。様々な事例をもとに見ていきましょう。

様々な働けなくなったときの対応~賃金の支払いはどうなる?

①適用例:ノーワーク・ノーペイの原則にのっとる=使用者に賃金の支払い義務はない

・遅刻、早退:労働者の責任により労働者が働いていないため、労働がされなかった時間については賃金の支給はありません。(民法第624条) 

・電車遅延:労働者に非がない場合も、電車遅延による労働者・使用者双方の責めによらない不可抗力により労働者が働いていない時間は、使用者が賃金を支払う義務はありません。(民法第624条、民法第536条第1項)

・自然災害:天変地変により、労働者・使用者どちらの責任でもない不可抗力により労働者が働けない時間について、使用者は賃金の支払い義務はありません。(民法第624条、民法第536条第1項)

・ストライキ:労働者自身が行うケースについては労働者が自らの意思で労働を提供していないので、使用者は賃金の支払い義務はありません(民法第624条)また、労働者がストライキに巻き込まれたケースについては労働者・使用者双方の責任ではないので、使用者は賃金の支払い義務はありません。(民法第536条第1項)

 

②適用の例外(ノーワーク・ノーペイの原則の例外):使用者は賃金の支払い義務がある
※準拠する法律によって6割(労働基準法第26条)と10割(民法536条第2項)の賃金の支払い義務となる

・生産設備の故障:使用者の故意・過失が認められない場合は、労働者は労働していないので、給料は支払われませんが(民法第624条・民法第536条第1項)、経営上の障害という点で労働基準法上の使用者の責めに帰すべき事由に該当するため、使用者は給料(6割)を支払わなければなりません(労働基準法第26条)

・自宅待機自宅待機を命じた理由によって、以下の2パターンが考えられます。

1)使用者の判断による懲戒処分前の自宅待機など、使用者の故意・過失が認められる場合
使用者は民法第536条第2項の使用者の責めに帰すべき事由に該当するため、使用者は給与(10)を支払わなければなりません。

2)経営悪化による休業、事業場閉鎖等で自宅待機を命じた場合等
使用者の故意・過失が認められない場合は、民法第536条第1項に該当し、民法上は使用者の給与支払義務はありません。ただし、労働基準法上の使用者の責めに帰すべき事由に該当するため、使用者は給料(6)を支払われなければなりません。(労働基準法第26条)

・新型コロナウイルス感染症:
新型コロナウイルスに感染した場合のように、双方の責めに帰すべき事由でない事由で労働ができなくなった場合、原則給料が支払われませんが(民法第536条第1項)、発熱などの症状があることをもって、労働者に休業を命じる場合のように、使用者の自主的な判断によって労働者を休ませる場合、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」に該当し、使用者は給与(6割以上の休業手当)を支払わなければなりません。
また、コロナウイルス感染症の影響で労働者を休業させたりなどの措置を行い、休業手当を支給し、労働者の雇用を維持した場合には、労働基準法第26条の休業手当の支払い義務の有無を問わず、国から使用者へ雇用調整助成金の支給を行いました。

・有給休暇:労働者保護の目的で設立された休暇制度のため、そもそも有給休暇取得日は、労働者の労務提供義務が免除されるため、ノーワーク・ノーペイの原則の適用の例外となります。(民法第536条)

 

労働基準法は強行法規(当事者の意思に左右されずに強制的に適用される規定)であり、民法は任意法規(当事者間の合意により適用を排除できる)であるという違いがあります。そのため、労働契約や就業規則など当事者間の取り決めにより、民法第536条の適用を排除することも可能です。
また、労働基準法第26条については強制適用となります。

このように、原則として「ノーワーク・ノーペイ」が適用されるものの、民法第536条第1項・同条第2項及び労働基準法第26条が適用されることで、使用者は、給与(又は休業手当)を支払わなければならないケースもあり、事案に応じて個別・具体的に確認する必要があります。

 

今回のコラムでは、「ノーワーク・ノーペイの原則」について概要と適用の範囲と具体例について、関連する法律をあげながら解説しました。

「ノーワーク・ノーペイの原則」は例外が多く、適用できるケースは意外と少ないです。そのため、労働者が働くことができない様々なケースは、例外の規定についても確認し判断する必要があります。また、賃金の支払いが絡み労働者と使用者間のトラブルが起きやすいケースもあるため、使用者は慎重に判断を行う必要があります。

 

このように、「ノーワーク・ノーペイの原則」に関わる問題は、ケースバイケースで複雑であることが多いため、時には専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、このような例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

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