フレックスタイム制は、企業側には良質な人材確保や離職率の低減、労働者側にはワーク・ライフ・バランスが整いやすくなるなど、両者にとって魅力的な制度です。しかし、誤った運用を続けることで、長期にわたって給与未払いが発生するなどのリスクも生じてしまいます。
こうしたリスクを発生させず適切な運用ができるよう、フレックスタイム制の導入手順や注意点について、プラットワークスの社労士が解説します。
フレックスタイム制は普及しているのか?
2019年4月1日に働き方改革関連法が施行されたことで注目されつつある「フレックスタイム制」。
その歴史は意外にも古く、正式に導入されたのは1988年4月まで遡ります。
育児や介護といった個々の事情に応じた柔軟な働き方ができるため、仕事とプライベートの両立も可能です。働きやすさが向上し、企業にとっても労働者の生産性向上や雇用の安定などが期待できます。
しかし、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、フレックスタイム制を採用している企業の割合はわずか6.8%にとどまっています。
その理由として、制度が複雑なことに加え、導入するためにいくつかの手続きを経なければならないこと、労働時間の管理や残業代の時間計算が煩雑となることから運用が難しいなど、ハードルが高いと感じる企業が多いことが考えられます。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、清算期間(=3か月を上限とした一定期間のことで、1か月を単位として定めることが多い)の中で総労働時間を予め定めておき、労働者自身がその枠内で始業および終業時刻を決められる制度です。
2019年の働き方改革関連法施行に伴い、フレックスタイム制のルールが一部変更されました。具体的には、清算期間が従来の最長「1か月」から「3か月」に延長され、より長い期間で労働時間を調整できるようになりました(労働基準法32条の3第1項2号)。
清算期間を「1か月単位」とするのか「1か月を超えて3か月以内」とするのかによって、手続き方法・時間外労働の算定方法が大きく異なります。
フレックスタイム制の導入手順と注意点(清算期間を1か月単位とする場合)
清算期間を1か月単位とするフレックスタイム制を導入するには、2つの要件を満たす必要があります。
①就業規則等に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を規定する。
◆始業および終業、両方の時刻の決定を労働者に委ねる必要があるため、どちらか一方を委ねるだけでは足りません。例えば、全員集合して朝礼を行ってから業務に従事するという事業場では、始業時刻の自主決定とはいえないため導入できません。
②次表の枠組みを定めた労使協定を締結する。
◆1か月単位のフレックスタイム制である場合、協定を労働基準監督署に届出する必要はありません。
表:労使協定に定める事項とポイント
実労働時間に過不足が生じたら?(清算期間を1か月単位とする場合)
清算期間を1か月単位とするフレックスタイム制では、清算期間における労働時間のうち、「法定労働時間の総枠」を超えた時間が時間外労働となり、割増賃金の対象となります。
(引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」p.13)
①総労働時間より実労働時間が長い場合
時間外労働となるため、超過分の割増賃金が発生します。超過した労働時間を次期に繰り越すことは認められていません。なお、フレックスタイム制を取り入れている場合でも、時間外労働を行わせるためには労使協定(いわゆる36協定)の締結が必要です。
(引用:東京労働局労働基準部・労働基準監督署「フレックスタイム制の適正な導入のために」p.3)
【例】暦日数31日の月、1週間の法定労働時間40時間の事業場で、清算期間が1か月の場合を仮定します。
上図から「法定労働時間の総枠」は177.1時間と分かります。この月の実労働時間が180時間だったとすると、
180時間-177.1時間=「2.9時間」が時間外労働となります。
②総労働時間より実労働時間が短い場合
(A)不足時間分を賃金から控除する。
(B)不足時間分を翌月の総労働時間に加算して処理する。 (A)または(B)の方法で対応します。
また、深夜割増賃金と休日割増賃金についても、労働基準法の原則通りに適用されるため注意が必要です。
フレックスタイム制の労働者が22時から5時までの深夜時間帯に勤務すれば、深夜割増賃金(=1時間あたりの通常の賃金額×2割5分以上の割増率)が発生します。さらに、就業規則等で法定休日とされている日に勤務すれば、休日出勤手当(1時間あたりの通常の賃金額×3割5分以上の割増率)が発生します。
フレックスタイム制は権利ではないので、業務を拒否する権利はない!
会議や打ち合わせといった業務内容自体から時刻が定まる日の勤務については、フレックスタイム制の労働者であっても職務に専念する義務があります。そのため、フレックスタイム制を理由として、こうした会議や打ち合わせ時刻に遅れたり、業務を拒否してもよいということにはなりません。
このように、フレックスタイム制の導入に関しては、法的に考慮することが多く、その内容もケースバイケースで複雑であることが多いです。そして、誤った運用を続けてしまうと、長期にわたって給与未払いが発生するリスクも生じます。こうしたリスクを避けるため、専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、その中でフレックスタイム制の導入実績もございます。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
また、顧問契約というほどではないが「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人ではお受けしております。企業様のご相談のほか、個人の方からのご相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表がご相談内容を伺い、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスをさせていただきます。