コラム

フレックスタイム制における労使協定締結のポイント

フレックスタイム制を導入する際、労使協定にはどのようなことを記載する必要があるのでしょうか?

労使協定には①~⑥の6つの事項を定める必要がありますが、労働基準法違反とならないよう、項目ごとに適切な記載をしなければなりません。

①対象となる労働者の範囲

②清算期間

③清算期間における総労働時間

④標準となる1日の労働時間

⑤コアタイム・フレキシブルタイム

⑥有効期間の定め

そこで今回は、労使協定の例をご紹介しつつ、項目ごとに注意すべきポイントを分かりやすく解説します。

なお、労使協定は、使用者を労働基準法違反から免れさせる効力を持つだけに過ぎません(=免罰効果といいます)。そのため、労働契約を規律する「規範的効力」はありません。民事上の義務を生じさせるには、労働協約や就業規則等の根拠が必要とされています。

フレックスタイム制に関する労使協定書の例(清算期間を1か月単位とする場合)

 

フレックスタイム制に関する労使協定書(例)

 株式会社〇〇と株式会社〇〇労働者代表△△とは、労働基準法第32条の3の規定に基づき、フレックスタイム制について、次のとおり協定する。

(フレックスタイム制の適用労働者)

第1条 総務課所属の従業員を除く、全従業員にフレックスタイム制を採用する。

(清算期間)

第2条 労働時間の清算期間は、毎月1日から末日までの1か月とする。

(総労働時間)

3条 清算期間における総労働時間は、「1日8時間」に「清算期間中の所定労働⽇数」を乗じて得られた時間数とする。

1日の標準労働時間)

4 1日の標準労働時間は、8時間とする。

(コアタイム)

5条 必ず労働しなければならない時間帯は、午前10時から午後3時までとする。

(フレキシブルタイム)

6条 適⽤社員の選択により労働することができる時間帯は、次のとおりとする。

     始業時間帯=午前6時から午前10時までの間   終業時間帯=午後3時から午後7時までの間


(超過時間の取扱い)

7条 清算期間中の実労働時間が総労働時間を超過したときは、会社は、超過した時間に対して時間外割増賃⾦を⽀給する。


(不足時間の取扱い)

8条 清算期間中の実労働時間が総労働時間に不足したときは、不足時間を次の清算期間にその法定労働時間の範囲内で繰り越すものとする。


(有効期間)

9条 本協定の有効期間は、〇〇年〇⽉〇⽇から1年とする。

※厚生労働省HPおよび、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」に掲載されている労使協定書をもとに作成

「適用労働者」を記載するときのポイント

第1条 総務課所属の従業員を除く、全従業員にフレックスタイム制を採用する。

全社員一律で適用させる必要はないため、「Aさん、Bさん」のように個人ごとや、「企画課」のように部署ごとの適用も可能です。

「清算期間」を記載するときのポイント

第2条 労働時間の清算期間は、毎月1日から末日までの1か月とする。

清算期間の起算日を明確にする必要があります。清算期間が1か月を超える場合には、「労働時間の清算期間は、4⽉、7⽉、10⽉、1⽉の1⽇から翌々⽉末⽇までの3か⽉間とする。」という書き方をします。

◆また、清算期間が1か⽉を超える場合であっても、使⽤者は1か⽉ごとに実際に労働した時間を労働者に通知するなどの対応に努める必要があります。

「総労働時間」を記載するときのポイント

第3条 清算期間における総労働時間は、「1日8時間」に「清算期間中の所定労働⽇数」を乗じて得られた時間数とする。

フレックスタイム制を通しての所定労働時間を明記します。

◆総労働時間は、「法定労働時間の総枠」の範囲内に収める必要があります。法定労働時間の総枠は下記の式で求めます。

1週間の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7

※厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」より

1日の標準労働時間」を記載するときのポイント

第4条  1日の標準労働時間は、8時間とする。

◆有給休暇を取得した日に、働いたとみなす労働時間を定めます。清算期間における総労働時間を、期間中の所定労働⽇数で割った時間を基準として定めます。

◆フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1⽇取得した場合には、その⽇については、「1日の標準労働時間」を労働したものとして取り扱わなければなりません。

「コアタイム」「フレキシブルタイム」を記載するときのポイント

第5条 必ず労働しなければならない時間帯は、午前10時から午後3時までとする。

第6条 適⽤社員の選択により労働することができる時間帯は、次のとおりとする。

    始業時間帯=午前6時から午前10時までの間   終業時間帯=午後3時から午後7時までの間

コアタイム・フレキシブルタイム

※厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」より

◆コアタイム・フレキシブルタイムともに設定は任意ですが、これらを設ける場合には、その時間帯の開始・終了の時刻を協定で定めなければなりません。また、コアタイムを設けない「スーパーフレックスタイム制」を導入すること可能です。

◆コアタイムの時間帯は、協定で自由に定めることができます。そのため、コアタイムを設ける日と設けない日があっても構いません。また、日にちや曜日ごとに時間帯を変更することも可能です。

◆始業・終業時刻を労働者自身が自由に決定するという趣旨に反する場合には、フレックスタイム制とはいえません。例えば、「コアタイムの時間帯が1⽇の労働時間とほぼ同じになる」、「フレキシブルタイムの時間帯が極端に短い」という設定は認められないということです。

「超過時間の取り扱い」を記載するときのポイント

第7条 清算期間中の実労働時間が総労働時間を超過したときは、会社は、超過した時間に対して時間外割増賃⾦を⽀給する。

◆ここで注意したいのは、「実労働時間」と「総労働時間」および「法定時間の総枠」の関係です。

「実労働時間」が「総労働時間」を超えているものの、「法定時間の総枠」は超えていないケースを考えます(図②)。

法定労働時間を超えていないため、原則でいうと割増賃金は不要です。例外として、就業規則や雇用契約書において「実労働時間が総労働時間を超えた時には、割増賃金を支払う」と定めた場合には、法定労働時間の総枠の範囲内であっても割増賃金の支払い義務が発生します。

「不足時間の取り扱い」を記載するときのポイント

第8条 清算期間中の実労働時間が総労働時間に不足したときは、不足時間を次の清算期間にその法定労働時間の範囲内で繰り越すものとする。

◆不足時間分を繰り越す時であっても、「総労働時間」は「法定労働時間の総枠」の範囲内に収める必要があります。総枠を超過した場合は時間外労働となりますので、割増賃金の支払いが発生します。

◆月の途中での入・退職、休職によって実労働時間が大きく不足する際は、「不足した時間分を賃金から控除する。」という記載方法もあります。

「労使協定の有効期間」を記載するときのポイント

第9条 本協定の有効期間は、〇〇年〇⽉〇⽇から1年とする。ただし、有効期間満了の1か月前までに、会社、従業員代表いずれからも申し出がないときは、さらに1年間の有効期間を延長するものとする。

清算期間が1か月を超える場合には、労使協定の有効期間を定めます。これは、会社と従業員との合意がない限り、労使協定が解約できなくなることを防ぐことを目的としています。特に法的な決まりは無いものの、1年間の有効期間を定めるのが一般的です。有効期間を過ぎる時は、新たに労使協定を締結する必要がありますが、自動更新を規定することも可能です。

(参考:労働調査会「労働基準法解釈総覧【改訂16版】」および昭63.1.1基発1号、平11.3.31基発168号、平31.4.1基発040143号)

◆労使協定の締結は、フレックスタイム制導入の要件です。そのため、有効期間の始期より前に締結しておく必要があります。一部でも遡った期間がある場合、その協定全体が無効となるため注意が必要です。なお、締結日と有効期間の始期が同日となっても問題ありません。

遡るのはNG

 

このように、フレックスタイム制を導入するための労使協定締結にあたっては、法的に考慮することが多く、項目ごとに適切に記載しなければなりません。そして、誤った運用を続けてしまうと、長期にわたって給与未払いや過払いが発生するなどのリスクも生じます。こうしたリスクを避けるため、専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、その中でフレックスタイム制の導入実績もございます。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所

 

また、「顧問契約というほどではないが専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人ではお受けしております。企業様のご相談のほか、個人の方からのご相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表がご相談内容を伺い、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスをさせていただきます。

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