フレックスタイム制を法定通りに運用していても、労働基準法違反となるケースがあります。
1日8時間相当の労働であっても、曜日の巡りによっては、清算期間における「総労働時間」が「法定労働時間の総枠」を超えてしまうことがあるからです。この点に気づかずに運用を続けてしまうと、労働基準監督署から指摘を受け、罰則が課されることもあります。
今回のコラムでは、法令違反とならないフレックスタイム制の運用ポイントを解説します。
残業していないのに時間外労働?
1日8時間相当の労働であっても、曜日の巡りによっては、清算期間における「総労働時間」が「法定労働時間の総枠」を超えてしまうのは、どのような状況が考えられるでしょうか?具体例を挙げて解説します。
≪例≫土・日・祝日を休日とする完全週休2日制の事業場において、
1日(月初):月曜日 暦日数:30日 1日の所定労働時間:8時間 所定労働日数:22日 休日:8日と仮定
清算期間における「総労働時間」は176時間(8時間×22日=176時間) …A
「法定労働時間の総枠」は171.4時間(40時間×30日÷7日≒171.4時間)…B となります。
上記カレンダー通りに労働すると、残業が一切発生していないにもかかわらず、「約4.6時間が時間外労働(A-B)」になってしまうという、不合理な事態が発生してしまいます。
完全週休2日制の事業場におけるフレックスタイムの特例
こうした事態を解消するために、労働基準法第32条の3第3項では、特例が設けられています。
1週間の所定労働⽇数が5日の労働者を対象として、労使協定を締結することで、「清算期間内の所定労働日数×8時間」を労働時間の限度とすることが可能となります。また、次の式で計算した時間数を「1週間あたりの労働時間の限度」とすることができます。
【(8時間×清算期間における所定労働日数)÷(清算期間における暦日数÷7)】
(平成30.9.7 基発0907第1号)
上記の≪例≫を用いて具体的に解説すると、
「清算期間内の所定労働日数22日×8時間=176時間」を労働時間の上限とすることができます。
また、1週間あたりでは、41.06時間を超えない範囲内で労働させることができます。
「(8時間×清算期間の所定労働日数22日)÷(清算期間における暦日数30÷7)≒41.06時間」
こうすることで、清算期間における「総労働時間」が「法定労働時間の総枠」に収まるため、曜日の巡りによって不合理な時間外労働が発生しなくなります。
≪参考・労働基準法第32条の3第3項≫ 1週間の所定労働日数が5日の労働者について第1項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定に読み替えて適用する場合を含む。)中「第32条第1項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第2項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を7で除した数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第1項」とする。 |
派遣労働者にもフレックスタイム制を適用できるのか?
派遣労働者を派遣「先」でフレックスタイム制の下で労働させることは可能です。ただし、派遣「元」の使用者が次の①~③の措置を講じる必要があります。
① 派遣元事業場の就業規則その他これに準ずるものにより、始業および就業の時刻を派遣労働者の決定に委ねる旨を定めていること。
② 派遣元事業場において労使協定を締結し、所要の事項(※)について協定すること。
(※)所要の事項については、前回のコラム「フレックスタイム制における労使協定締結のポイント」に解説しています。
③ 労働者派遣契約において当該労働者をフレックスタイム制の下で定める旨を定めること。
(昭和63.1.1 基発1号)
このように、完全週休2日制の事業場でのフレックスタイム制の運用にあたっては、法的に考慮することが多くあります。そして、誤った運用を続けてしまうと、労働基準監督署から指摘を受け、罰則が課されるなどのリスクも生じます。こうしたリスクを避けるため、専門家に意見を聞くことが大切です。弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、その中でフレックスタイム制の導入実績もございます。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
また、「顧問契約というほどではないが専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人ではお受けしております。企業様のご相談のほか、個人の方からのご相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表がご相談内容を伺い、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスをさせていただきます。