会社法の改正により、報酬として自社株を従業員に無償で譲渡可能にする制度の新設に向けて、法制審議会での検討が開始しました。
報酬として自社株を無償譲渡する制度は、現行制度では取締役にのみ認められています。今回の見直しは、その対象を従業員にまで拡大するものとなります。
今回は、従業員に報酬として自社株を与える制度について、現行の株式報酬制度と新制度との違い及びそのメリットについて解説していきます。
現行の株式報酬制度
株式を報酬として支給する制度には、いくつかの種類があります。主なものとして、「従業員持株会」や「ストックオプション」があります。
従業員持株会
従業員持株会は、給与天引き等で従業員が毎月一定額を拠出し、その拠出金をもとに持株会が自社株を購入し、それを持株会加入者の共有名義とします。従業員は持分に相当する分の株式を売却して利益を得ることができます。
ストックオプション
ストックオプションは、自社株を取得するための権利を与えることです。従業員に権利を付与し、従業員は権利行使が可能な期間内に、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で権利を行使し自社株を取得できます。
現行制度のもとで、上記のような形態をとらずに報酬として自社株を従業員に無償譲渡する場合、現物出資の形態をとり、一旦会社に対する金銭債権を渡し、それと引き換えに株式を支給する方法などが採用されています。
今回の新制度では、従業員が報酬として自社株を無償で受け取れるようになり、自社株を支給するにあたりこれまでのような複雑の方法で実施する必要はなくなります。これにより従業員の報酬の選択肢が増えることになります。
株式報酬制度のメリット
前述のような株式を報酬として支給する制度には多くのメリットがあります。以下で株式報酬制度のメリットを紹介します。
メリット
①企業の業績や従業員のモチベーションアップ
企業価値・株価が上昇することで従業員はその株の売却により利益を得ることができるので、企業の業績アップに向けて努力するようになります。
企業が利益を上げ、企業価値が上昇すると合わせて株価も上昇します。株価が上昇することで、従業員が報酬として取得した株式を売却した際の利益も大きくなるため、従業員は会社の利益拡大のために尽力するようになり、従業員のモチベーションアップにつながるほか、会社の業績アップも期待できます。
②優秀な人材の確保
株式報酬制度は、株価と連動させることで、その報酬額が非常に多くなる可能性があります。会社の利益を向上させるために、優秀な人材が集まりやすくなります。
③定着率の向上
株価は短期的に上昇するものではなく、中長期的に上昇していくものです。従業員は株価上昇に向けて日々の業務に従事しますが、株価が上昇するまではそれによって得られる利益は少ないといえます。そのため従業員は、より多くの株価上昇を期待して、長く会社にとどまるようになります。
また、会社によっては、一定期間、株式の譲渡を制限し、一定の勤続年数が経過すると譲渡制限が解除されるものや、譲渡制限が付された割合が勤続年数に応じて段階的に減少していく株式などを従業員に与えて、会社にとどまることのインセンティブを与えている例もあります。
④目標の明確化
従業員の努力が企業の利益につながり、それが株価という形で明確に可視化されるため、モチベーションアップにつながります。また、明確な数値目標として設定することも可能です。
スタートアップにおける活用
スタートアップでは、これまでストックオプションが多く活用されてきました。ストックオプションは、報酬を高く設定しにくいスタートアップでも報酬の一つとして支給でき、また会社の成長を促せることから活用されていました。
今回の従業員への無償譲渡の解禁により、より簡単に新たな報酬制度を構築でき、柔軟な報酬の支給が可能になります。
ただし、今回の規制緩和の対象に未上場の企業まで含まれるかは、今後議論がされていくことになります。
まとめ
従業員への株式報酬制度は、前述のような多くのメリットがあります。一方で、株価への影響や不特定多数の株主が増えるといったデメリットもあります。また、現在の給与制度とのバランスや通常の給与と株式による報酬の比率をどの程度にするかなどの、人事面の問題もあります。
株式報酬制度の導入に当たっては、多くの検討事項があり、自社だけで導入するのは難しいものになります。そのため、専門家に相談されるのをお勧めします。
プラットワークスでは、報酬制度の一つとしてストックオプションや株式報酬制度導入の支援実績が豊富です。会社の現在の給与体系に合わせて最適な制度設計をご提案します。
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