【くるみん認定取得に向けた法対応⑫】育児休業制度等の個別周知・意向確認義務~子育て関連規定を学ぶ~

くるみん認定基準において「子育てサポート企業」の認定を受けるために、すべての子育て世代の労働者にとって家庭の事情に応じて柔軟に働くことのできる働き方の整備が必要です。共働き世帯・多様な働き方を選択する労働者が増加し、育児と仕事の両立が重要な課題となっている現代において、多様化する課題に対応していくことが求められます。こういった育児と仕事の両立をより支援していくための制度の一つとして「育児休業制度の個別周知・意向確認義務」があげられます。従来は育児休業の取得には基本的に従業員が事業主に自ら申し出る必要があるため、従業員が育児休業制度を知らないまま休業取得をしないケースも多くありました。特に男性の育児休業取得率が女性と比較して低水準であることが長年課題とされていました。くるみんの認定基準のひとつである「男性の育児休業等の取得率」または「企業独自の育児目的休暇の取得率」が合計20%以上とされているように「育児休業制度の周知と意向確認」は「子育てサポート企業」の認定を受ける上でも重要となります。今回のコラムでは「育児休業制度の周知・意向確認義務」の概要について制度が成立した背景について、さらに202510月に施行される「柔軟な働き方を選択するための措置の個別周知・意向確認義務」「仕事と育児の両立に関する個別の意向確認・配慮」の義務化についても併せて解説します。

育児休業制度等の周知・意向確認義務成立の背景

育児休業に関する周知・意向確認は2017年の育児介護休業法の改正に伴い成立しました。この時より育児休業制度の周知は求められていましたが、「努力義務」に近い形でした。また、この周知について具体的な周知方法やタイミングについて法的な規定がありませんでした。そのため、企業によって対応にばらつきがあり、従業員が育児休業制度について詳しく知らないことも多く、従業員が自ら情報を入手して育児休業取得の意思表示を行う必要がありました。そこで、この2022年の法改正に伴い、育児休業に関する周知が「義務」となり、周知方法として口頭説明や書面交付、FAX、電子メール等での通知などにより具体的な手法が明文化されました
さらに、2024年の育児介護休業法の改正に伴い、育児休業制度の取得のみならず、仕事と育児の両立に関しても労働者の個別の意向確認を行うこと、それに応じて事業主が配慮を行うことも義務化されました。これにより、育児期の労働者がより各自の過程事情や希望に応じた柔軟な働き方を選択することが可能となりました。

育児休業制度の個別周知と意向確認義務とは

「育児休業制度の周知と意向確認義務」とは本人または配偶者の妊娠出産等を申し出た労働者に対し、事業主が育児休業制度等についての周知と育児休業取得意向の確認を個別に行う義務のことをさし、育児介護休業法第21条に明文化されています。この義務を履行しなかった場合は是正勧告や指導助言などの行政指導を受ける可能性があります。
そのほか、類似した周知・意向確認義務について「柔軟な働き方を選択するための措置」の個別周知・意向確認、「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮義務」があげられるため、比較しながら併せて解説します。

1.育児休業制度の周知義務
労働者本人または配偶者の妊娠出産を申し出た際に、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知を行わなければなりません。

・育児休業、出生時育児休業に関する制度内容
・育児休業、出生時育児休業の申出先
・育児休業給付に関して
・労働者が育児休業、出生時育児休業期間に負担すべき社会保険料の取り扱い

2.育児休業制度の意向確認義務
労働者本人または配偶者の妊娠出産を申し出た時、事業主は育児休業制度の利用について、労働者の意向を個別に聴取することが義務化されます。
確認方法については ①面談 ②書面交付 ③ファクシミリ④電子メール等(③④は労働者が希望した場合)のいずれかで行う必要があります。

3.「柔軟な働き方を選択するための措置」の個別周知・意向確認義務
以前のコラムで言及したように、「育児休業制度」のほかに「柔軟な働き方を選択するための措置」についても個別周知・意向確認義務があります。育児休業と同様に柔軟な働き方を選択するための措置に関連した以下の事項についての周知と取得意向の確認を行わなければなりません。
また事業主は育児休業制度の利用について、労働者の意向を個別に聴取することが義務化されます。労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、選択した措置等について制度利用の意向を個別に行わなければなりません。
確認方法については 育児休業制度と同様になります。

・選択した措置の内容
・対象措置の申し出先
・所定外労働、時間外労働、深夜業の制限に関する制度

4.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮義務
なお、この労働者への「個別の意向確認義務」については「育児休業制度」・「柔軟な働き方を選択するための措置」についてだけでなく「仕事と育児の両立」に関して定められた条件について、個別の意向聴取についても適用されます。これは改正育児・介護休業法(202510月施行)に基づいて開設されました。

また、その聴取した意向に応じて事業主が配慮すること(必要な措置を行う)も義務とされています。育児休業制度と同様に労働者本人または配偶者の妊娠出産を申し出た時に加えて、子が3歳になるまでの適切な時期(2歳11か月まで)に、事業主は労働者の意向を個別に聴取し、その意向について自社の状況に応じて配慮しなければなりません。育児休業制度と異なり、個別の意向確認だけでなく配慮を行うことが義務となっている点に注意が必要です。なお、育児休業後の復帰時や労働者から申し出があった時にも個別の意向を聴取することが望ましいとしています。

意向確認については、以下の労働条件について確認が求められ、確認方法は育児休業制度と同様の形をとります。なお、事業主が行う、個別の意向に応じた必要な配慮(支援策)の例としては、勤務時間帯や勤務地の調整、業務量の調整、労働条件の見直しなどがあげられます。

・始業、終業時刻
・就業場所
・両立支援制度(所定外労働・時間外労働の制限、深夜業の制限等)を利用できる期間
・その他仕事と育児の両立の支障となる事情が改善されうる就業条件
 (業務量の調整や労働条件の見直し)

※「育児休業制度」・「柔軟な働き方を選択するための措置」の個別周知・意向確認、「仕事と子育ての両立に関する制度」の意向確認・配慮事項

 

「育児休業制度」の個別周知・意向確認

「柔軟な働き方を選択するための措置」の個別周知・意向確認

仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮

周知・意向確認時期

・労働者本人または配偶者の妊娠出産を申し出た時

・子が3歳になるまでの適切な時期(211か月まで)

・労働者本人または配偶者の妊娠出産を申し出た時
・子が3歳になるまでの適切な時期(211か月まで)

周知事項

・育児休業、出生時育児休業に関する制度内容
・育児休業、出生時育児休業の申出先
・育児休業給付に関して
・労働者が育児休業、出生時育児休業期間に負担すべき社会保険料の取り扱い

・事業主が選択した措置

・申出先

・所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度

意向確認事項

・取得意向の有無








・取得意向の有無









・始業、終業時刻
・就業場所
・両立支援制度(所定外労働・時間外労働の制限、深夜業の制限等)を利用できる期間
・その他仕事と育児の両立の支障となる事情が改善されうる就業条件 (業務量の調整や労働条件の見直し)


育児休業制度等の周知、意向確認を行う上での注意点

「育児休業制度等の周知・意向確認」を行う際は、企業として以下の点に気を付けて対応するとよいでしょう。

・育児休業等の各種制度を利用しやすい職場環境の整備
育児休業等の周知および意向確認については、法律にのっとり形式的に行うのではなく、そもそも育児休業等の各種制度を利用しやすい職場環境を整備していくことが前提として重要です。例えば、育児休業を取得した従業員の代替要員の確保やインセンティブの検討、育児休業を取得しやすい職場環境の整備(時短勤務やフレックス勤務など)を行うことで男性従業員を中心とした育児休業等を取得する従業員の心理的な抵抗感の低減や取得自体を前向きにとらえることができるようになります。

・従業員視点を考えた周知・意向確認を行う等具体的整備設計を行う
また、「育児休業制度等の周知・意向確認」についての枠組みは整備されたものの、単に形式的な周知や意向確認を行うだけでは、従業員の制度理解が浅いまま労使のコミュニケーションが十分にされないため、育児休業の取得に至らない、育児休業を取得したとしても従業員が待遇や復帰後の労働条件に不満を抱く可能性があります。
従業員が育児休業制度についてより理解を深め、取得しやすいよう従業員とコミュニケーションを十分にとり、周知と意向確認をしていくとよいでしょう。
また、普段より育児休業取得等について従業員が自発的に相談しやすいように相談窓口を活用していくとよいでしょう。なお、周知や意向確認についての具体的な手法は労務管理に精通した専門家の意見を加味したうえで整備していくとよいでしょう。

今回のコラムでは「育児休業制度等の周知と意向確認義務」について解説しました。従業員が安心して各種制度の利用ができるよう、企業や人事労務担当者が従業員に対し制度の目的や要件を十分に理解し説明できるようになることはもちろん、制度を利用する従業員のサポートや周囲の従業員の負担を軽減できるような仕組みづくりをしていくことも大切です。上に述べた通り、育児休業制度の周知や意向確認の手法については、各企業の従業員の実態に応じた整備が重要となるため、このような各種制度や企業の労務管理に精通し、企業の実態に応じたアドバイスのできる専門家のサポートが重要となります。

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