「オフボーディング」とは従業員が退職の意思表示をしてから退職日を迎えるまでの一連のプロセスをサポートする取り組みを指します。欠員が発生した時の業務の引継ぎ、フォローや、退職者との関係構築などを行い、退職者へのサポートだけでなく欠員が発生した際の組織全体への取組も含みます。反対語として「オンボーディング」がありますが、従業員が入社時に新規で入社する人材に早く職場になじみ、仕事に慣れてもらうことを目的として行う取り組みを指します。
オフボーディングの必要性
では、なぜオフボーディングが注目されているのでしょうか。その背景として、終身雇用の崩壊、雇用の流動化、多様化した個人のキャリアが挙げられます。終身雇用制度が崩壊し雇用が流動化したことで、労働者も転職に対する心理的なハードルが下がり、パラレルキャリアやフリーランスなど個人の働き方が多様化していることで、労働者が退職・転職をしやすい時代となりました。そのため、欠員が発生した時に、円滑に業務の引継ぎやフォロー体制の整備をしていくことがより求められています。
また、近年はSNSの発達に伴い、退職者の投稿より容易に評判が拡散されるため、オフボーディングが不十分であると、悪い評判が世間に広まり企業イメージの悪化につながる可能性が高まります。オフボーディングにより、退職者が事業主に対して良好な印象をもっていれば、良好な評判にもつなげることができ、退職者の再雇入れや協業につなげることもできます。
アルムナイとは
オフボーディングに関連した言葉として、「アルムナイ」があげられます。アルムナイとは企業の離職者やOB・OGの集まりを指します。海外ではアルムナイを貴重な人材として再雇用する、協業するなどの活用事例が多くあり、このような「アルムナイ制度」について近年日本でも注目を集めています。この制度は人材の流動化や労働力人口の減少が起きている状況下で、自社とのミスマッチを防ぎやすいメリットがあります。労働者の働き方の多様化に伴い、労働者の多様なニーズに沿った「アルムナイ制度」の活用が求められています。
オフボーディングのプロセス
オフボーディングは以下の通り、従業員の退職の申し出受理から始まり、退職までのサポートだけでなく、退職後のフォローやアルムナイネットワークの活用・運営まで含みます。
オフボーディングのメリット
では、オフボーディングに取り組むことで、企業はどんなメリットがあるでしょうか。主には以下が挙げられます。
・従業員の定着率の向上:
退職面談などで退職者の退職理由をヒアリングし、それをもとに職場環境の向上などの対策をとることで、既存の従業員の定着率の向上につながります。
・業務引継ぎの円滑化:
オフボーディングのプロセスを体系化しておくことで、退職に伴う業務の混乱を軽減することができます。業務マニュアルなどの作成や十分な引継ぎ期間、フローの設定等を行います。
・再雇用につながる可能性:
退職者と良好な関係を維持することで、将来的に退職者を再雇用できる可能性が高まります。
・新たな人材紹介や新規のビジネス獲得:
退職者とのネットワークを構築・継続することで、そのネットワークを通じた新規の人材紹介や、退職者との協業や取引先としての関係が生じる可能性があります。
・企業イメージの向上、ブランディング効果:
オフボーディングに取り組むことで、退職者は良いイメージで退職するため、SNSなどでも企業の評判を悪く書かれることも少なく、ポジティブな評判を増やすことにつながります。求職者にとってもポジティブな印象をもってもらえる可能性が高まります。
オフボーディング導入にあたっての注意点
オフボーディング導入にあたっては以下の点を注意するとよいでしょう。
・退職面談での従業員への対応に注意する:
退職希望者との面談では、退職理由や今後のキャリアプラン、会社や組織への要望などを丁寧にヒアリングしていきます。適切な対応を行うことで退職者との円滑な関係構築、再雇用やブランドイメージの向上につなげることができます。
・情報漏洩、セキュリティリスクへの対応:
退職者のアクセス権限の段階的な制限、機密情報取り扱いの再確認、退職者に競業避止義務契約の締結や守秘義務契約の確認(秘密保持契約書の提出)を行っていくことで、退職に伴い社内の重要な情報が漏洩することを防ぎます。。
・残った従業員への影響を考慮する:
退職者への対応が不適切だと残留している従業員のモチベーションや信頼感の低下につながるおそれがあります。退職者へ適切な対応を行い、残留従業員の不安を軽減することや、退職者面談で得られたフィードバックをもとに社内の問題点を改善していくことで、働きやすい職場環境の構築につなげることができます。
・引継ぎフロー整備、引継ぎ体制の構築:
円滑な業務引継ぎのためには体系的で標準化されたプロセスの確立が必要となります。引継ぎ項目をリスト化し、引継ぎ資料の作成、引継ぎスケジュールを確保し後任者との面談などを行います。引継ぎにあたっては業務のマニュアル化、進捗管理を徹底すること等を通して引継ぎを滞りなく行う工夫をしていくとよいでしょう。また、後任者が業務を進めた後のフィードバックの実施も重要です。
・アルムナイネットワークの構築:
退職後も良好な関係維持のためにはアルムナイネットワークの構築が有効です。専任担当者の設置、SNSやオンラインプラットフォームを活用して、退職者と社員が交流する場(定期的な情報交流やイベント開催など)を設けることが大切です。
今回のコラムではオフボーディングの概要と重視される背景、そしてそのメリットや導入時の注意点について解説しました。企業にとって従業員の退職は大きな痛手ではありますが、適切にオフボーディングを実施することで、企業のイメージ向上や優秀な人材獲得、退職者の再雇用につなげるチャンスでもあります。
働き方が多様化している現代では、オフボーディング実施にあたっては、企業の実態把握や労務問題に精通した専門家にアドバイスを求めるとよいでしょう。
弊法人は日常的な労務管理に関するご相談から例外的な労務問題に至る労務相談対応や、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っております。ぜひご活用ください。
人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
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Plattalks - 社会保険労務士法人 プラットワークス - 東京都千代田区・大阪市北区の社労士法人 (platworks.jp)