組織の深層を引き出す傾聴力ー管理職が磨くべき、信頼形成の基盤ー

「若手がなかなか本音を話してくれない」
「1on1を重ねても、手応えがない」
「面接で”いい人”を雇ったはずなのに、すぐに辞めてしまう」
こうした”見えない不安”や”言葉にならない違和感”に、管理職はどこまで気付けているでしょうか。

制度や評価でカバーできるのは、”見える課題”まで。本当の離職リスクやエンゲージメント低下は、日常の”沈黙”や”語られない感情”の中に潜んでいます。

本コラムでは、そうした組織の深層を引き出すスキルとして、管理職が今こそ身につけたい「傾聴力」を掘り下げます。単なる聞き取りを超えて、共感・沈黙・再言語化による3層の対話を通じて、信頼・動機・成長の循環を生み出すヒントを整理しました。さらに「社内では聞き取れない声」に向き合う手段もご紹介します。

1 なぜ「聴く力」が、組織の未来を左右するのか

管理職は日々「人の声に触れる」仕事です。採用面接、新人フォロー、定着支援、1on1ーなど、あらゆる局面で”きく”ことが求められます。

しかし一口に「きく」と言っても、その深度には違いがあります。

きく 意味
聞く(hear) 音が耳に入ってくる状態
訊く(ask) 質問し、情報を得ること
聴く(listen) 相手の心に耳を傾け、感情や意図を汲み取ること

管理職が本当に磨くべきは、「話を聞いたかどうか」ではなく、その人が”どう聴かれたか”を実感できる質、聴く(listen)の力です。

心理学者カール・ロジャースは、信頼とは「自分が完全に理解されたという安心感」から始まると述べています。これはこのまま、人材の定着・育成・パフォーマンスに直結します。

つまり、「傾聴力」とは単なるヒューマンスキルではなく、”人材の可能性を引き出す基盤”であるとも言えるのです。

 

2 信頼を”養う”3層の傾聴力

では、どのように「聴く力」を実践に落とし込めばよいのでしょうか。傾聴力には、段階的に深まる3つの層があります。これらはバラバラなスキルではなく、相手の自己開示・内省・行動変容を自然に促すステップとして連動しています。

第1層:「共感」ー評価を手放し、感情に寄り添う

「前向きにいこうよ」や「大丈夫、気にしすぎだよ」といった善意の励ましは、時に相手の感情を否定し、心を閉ざさせてしまうことがあります。深い共感とは、評価を脇に置き、感情や文脈の”背景”に意識を向けることです。

・誤った応答❌:「そんなこと気にしなくていいよ」

・傾聴的応答⭕️:「その場面では周囲にどう思われるか不安で、力が入りすぎたのですね」

この応答が「ここなら何を話しても安全だ」と感じられる心理的安全性を生み出し、信頼の扉を開きます。

第2層:「沈黙」ー焦らず待ち、余白を守る

沈黙は気まずさではなく、相手が思考を深め、真意を抽出している集中の瞬間かもしれません。3〜5秒の「間(ま)」を持つ勇気が、相手に「時間をかけていい」という安心感を与えます。

沈黙の後に出てくる言葉は、急かされた言葉よりも本質的です。終わり際は「何かまとまりましたか?」と優しく促すだけで十分です。

第3層:「再言語化(リフレクション)」ー言葉にして返す”理解の証”

傾聴の最終段階は、相手の語りを自分の言葉で再構成して返す「再言語化(リフレクション)」です。

・例:「つまり、現状維持ではなく、自分のアイディアを試せる環境を強く望んでいるという理解でよろしいでしょうか。」

これは単なる要約ではなく、「私はあなたを理解しようとしている」という深い信頼シグナルであり、相手の内省を深め、次の行動につながります。

このように第1層の「共感」で安心の土台を養い、第2層の「沈黙」で考える余白を与え、第3層の「再言語化」で気づきを深めるー段階的に深まる3層の積み重ねが、信頼を育てる構造なのです。

 

3 「問題」を「可能性」として捉える人事力

一般的に人事評価は「できているか/いないか」の減点主義に傾きがちです。面談や1on1で「仕事が遅い」「協調性がない」と言った言葉が出てくると、多くの管理職はつい”問題”として捉えがちです。しかし、同じ特徴を別の文脈で意味づけ直すことで、まったく異なる可能性が見えてきます。

このように出来事や性格の枠組み(フレーム)を変えることで、新しい価値や強みとして再解釈する技法を、心理学ではリフレーミング(Refraiming)と呼びます。リフレーミングは、思考の柔軟性を高めると同時に、自己効力感やモチベーションを再生させる効果もあるとされています。

「問題」の一般的な評価 リフレーミングによる再解釈
仕事が遅い プロセスを丁寧に踏む・危機管理意識が高い
協調性がない 安易に同調せず、自分の意見を持てる
主張が強い 自分の考えを明確に表明できる

管理職がこのように”解釈のスイッチ”を入れ替えることで、面談や1on1は単なる評価や課題の確認の場ではなく、”可能性に焦点を当てた対話が成立する”未来の可能性を共に設計する時間”へと変わっていきます。

 

4 実務場面での傾聴実践例

採用面接志望動機を聴く際に「どんな場面でそう感じたのか」という背景や価値観まで掘り下げる

1on1面談「最近どう?」ではなく、「何がやりづらさにつながっていると思う?」と丁寧に聴く

面談終盤発言後に「今の話、こういうことかな」とようやくして返すことで安心感をつくる

 

5 まとめ:傾聴力は信頼と変容を生む”対話の基盤”

傾聴は、心理的安全性・組織学習・人材定着に不可欠な”対話の土壌づくり”です。

本コラムでは、管理職が日々の面談や対話で活用できる2つのアプローチを紹介しました。

3層の傾聴(共感→沈黙→再言語化(リフレクション))によって、本音と気づきを引き出す対話設計
リフレーミングによって、評価を超えて可能性に光を当てる視点

これらは単なるスキルではなく、信頼と変容を生む対話の基盤です。傾聴力を軸にした対話が積み重なることで、評価では見えない領域を耕す組織変容の起点となるのです。

 

6 おわりに:外部専門家の活用という選択肢

とはいえ、社内の立場関係がある中で本音を引き出すのが難しいと感じることもあるでしょう。そうした時に機能するのが、外部の専門家による「第三者視点による対話」です。

「プラットワークス」は、組織課題を客観的に診断し、構造的なアプローチで制度・評価・関係性を再設計するプロフェッショナルチームです。社労士と心理士が、職場全体の「関係の質」も踏まえて、人事・給与制度の構築を支援します。

組織構造と心の構造、その両方に対して働きかける人事支援が可能になります。貴社の”沈黙のサイン”を一緒に聴いてみませんか?

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