日本の労働生産性を高める組織づくりとは~求められる「デジタル活用」と「人への投資」、「多様な就労環境」~

日本生産性本部によると、2024年の「日本の時間当たりの労働生産性」は60.1ドルで、OECD加盟国で38か国中28位と公表しました。この数値は主要先進国の中では最下位に近い数値で、日本の労働生産性は国際的にも長らく低迷していることが問題視されています。
「労働生産性」とは労働者1人、もしくは1時間あたりにどれだけ成果を生み出したかを表す数値です。日本では、少子高齢化に伴い人口の減少局面に入っているため、人材不足が深刻となっています。また、日本のGDP(国内総生産)は30年以上にわたりほぼ横ばいになるなど経済成長の鈍化が問題視されており、その原因として労働生産性の低下があげられています。現在の日本の労働市場においては、少ない人数や時間で成果を生み出すことは非常に重要なテーマとなっています。

国内総生産、GDP内閣府「統計表一覧」より~ほぼ横ばいで推移する日本のGDP~

今回のコラムでは、日本の労働生産性の低下に潜む問題と労働生産性の向上に向けて企業に求められる対応について解説していきます。

労働生産性とは

「労働生産性」とは労働者1人、もしくは1時間あたりにどれだけ成果を生み出したかを表す数値です。1人あたりの労働生産性は「経営目標」や「企業の稼ぐ力」を評価する際に用いられることが多く、年収や待遇の改善の際の指標として用いられることがあります。一方で、1時間あたりの労働生産性については、「働き方改革」や「国際比較」などでよく使用され、社内の業務効率化を目指す際に指標として用いられることがあります。労働生産性が高いほど、少ない人数と時間で多くの成果をだすことにつながるため、労働生産性の向上は経済成長や賃上げなどの国内の経済的豊かさをもたらす要因とみなされています。なお、「労働生産性」は計算の目的によって、主に「物的」と「付加価値」の2種類を使い分けます。

① 物的労働生産性
「個数」や「重さ」など、目に見える成果を対象にします。主に工場の製造ラインなどで、現場の作業効率を測るのに適しています。

計算式: 生産量÷労働量(人数 × 時間)

【例】5人の労働者が2時間で100個の商品を製造した場合の労働生産性
 100
÷(5×2)=10

 物的労働生産性は10/時間
 =労働者1人が1時間働くごとに平均10個の商品が製造される

② 付加価値労働生産性
「生み出した金額的な価値」を対象にします。単に作るだけでなく、「どれだけ稼いだか」というビジネスの質を評価します。

計算式: 付加価値額(粗利など)÷労働量(人数 × 時間)
※付加価値額 = 売上高 - 外部購入費用(原材料費など)

【例】5人の労働者が800時間で500万の売上(外部購入費用は200万)をあげた場合の付加価値労働生産性
   ※付加価値額:500-200=300

 300÷(5×800)=3,750/時間

 付加価値労働生産性は 3,750/時間
 =労働者1人が1時間あたり3,750円の付加価値を生み出す

労働生産性が向上すると、残業代の減少や光熱費の削減につながるため、コスト削減になり利益率が高まります。また、すくない人数で業務がまわることで、人材不足問題の解消につながります。さらに、短時間で成果をあげることで残業の減少と休日や給与の増加につながるので、従業員のワークライフバランスの向上、職場環境の向上によって職場に対しての満足度があがり、離職率の低下につながります。

日本の労働生産性が低い理由

では、なぜ日本の労働生産性は低いのでしょうか。主に以下の要因があげられます。
・長時間労働
日本では「長時間働くことが美徳」とする風潮が今でも根強く残っており、働き方改革が進められた現代でも残業が当たり前となっている文化の企業が依然として多く存在しています。
長時間労働が続くと従業員の集中力は低下し、判断や操作ミスが増加します。また、疲労の蓄積は精神疾患等の健康を害することにつながるため、企業にとっても大きな損失となってしまいます。

・業務の属人化

業務が特定の担当者に依存している「属人化」状態になっていることも問題です。知識やノウハウが特定の従業員にのみ蓄積されていることで、担当者が不在となった時や退職した時に業務が停滞してしまい、同じ作業を新たに学びなおす無駄が発生してしまいます。また、マニュアルの整備がされていないことで、担当者が得た知識やノウハウが共有されず、多様な視点をもって業務改善をする機会が失われてしまうため、個人としては効率よく見えても全体としての生産性が低下する原因となってしまいます。

・意思決定の遅さ

日本の企業では意思決定の際に多くの多くの関係者が関与し、複数の関係者の同意を得ることを重視している傾向にあるため、意思決定の際に決裁フローが多数存在することで、意思決定に時間がかかり、より業務が停滞してしまいます。

・デジタル化の遅れ

デジタル化を進める企業が増えているものの、紙ベースで業務を行う企業も多く、アナログで業務を行うことで、業務の効率も悪くなるため、労働生産性の低下につながります。また、デジタル化を進めていても部署ごとにシステムが異なっていることもあるため、かえって連携の手間などが生じてしまうこともあります。

日本の労働生産性を高めるために~企業にできること~

日本の企業が労働生産性向上のためにできることとしてどのようなことがあるでしょうか。対策として以下の2点があげられます。

① デジタル化の促進とアナログ業務との適切な併用
膨大なデータの処理や計算等の定型的な業務のデジタル化をすることが有効です。膨大なデータや定型的な業務は手作業だと時間もかかり、ミスが発生しやすいため、ITツールの導入・活用によって効率化を進めていけば、処理スピードが速くなり、ミスの減少にもつながります。そうすることで、従業員はより付加価値の高い仕事に集中することができるため、組織の生産性向上につながります。ただし、繊細な表現が必要な業務、コミュニケーションの素早い伝達・表現においては対面や紙に書く等のアナログで行う方が適切となることもあります。このようにアナログ業務をなくし、すべてデジタル化することがよいのではなく、業務の性質によってデジタルで行うか、アナログで行うかを使い分けていくことが大切です

② 人的資本経営(働きやすい職場づくり)
また、労働生産性を高めるためには労働力の質の向上も重要です。特に近年重視されている、人を資本と捉え、人的資本へ投資を行う「人的資本経営」が大切です。
過去のコラムで言及しているように、従業員へのエンゲージメントが高い企業ほど企業の業績がよいという結果がでていることからも、心理的安全性の高い働きやすい職場環境づくりや、従業員の自発性を高める人事制度設計が必要です。自発性を高めることで業務において創造性を発揮し、付加価値を創出することができ、生産性の向上につなげることができます。
(自発性を高める制度設計については過去コラム参照。)

③「場所」にとらわれない就労環境の整備
テレワークやサテライトオフィスでの勤務や社外のメンバーを含めたプロジェクトの組成など、場所や組織形態を多様化させることで、新たな価値を生み出し、生産性の向上につながります。たとえば、新しいアイディアの創出が必要となる、クリエイティブな業務においては直接職場で対面して仕事を行うことが効率的です。メンバーとの自然な会話や雑談の中から新しいアイディアがうまれることで組織のイノベーションを活性化することにつなげられます。
(組織的観念に基づいた「事業」概念については過去コラム参照)

人的資本経営の一環として、人事制度の設計や働きやすい職場環境整備などの労務戦略が必要となります。そして、働く人や働き方が多様化し、複雑化した現在の日本の労働市場においては、労務に精通した専門家のアドバイスを受けながら制度設計をしていくとよいでしょう。

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