もくじ
前回のコラムでは仕事と介護の両立支援制度のひとつである「介護休業制度」について解説しました。「介護休業制度」と同じく育児介護休業法に定められている制度として所定労働時間の短縮措置「短時間勤務制度(時短勤務)」があげられます。
介護のための短時間勤務制度は、介護休業と合わせて、仕事と介護の両立において有効な制度ではありますが、現状はあまり活用されていないのが実態です。
今回のコラムでは介護をしている労働者の「短時間勤務制度」について、概要とともに、現在の制度上の問題点と制度活用のために事業主として対応すべきことについて解説していきます。
短時間勤務制度の成立と関係法令
「短時間勤務制度」は介護休業制度と同じく1991年に制定・1992年に施行された、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(旧「育児休業法」、現「育児・介護休業法」)に基づき「所定労働時間の短縮等の措置」のひとつとして、育児介護休業法第23条の3項に定められています。また、介護による短時間勤務制度が利用できるのは、当初は最大93日まで(介護休業と合わせて)でしたしたが、2017年の法改正により3年以上の期間にわたり2回以上利用可能とするように改正されました。
短時間勤務制度の概要
「短時間勤務制度」とは、労働者が要介護状態(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族を介護するための、所定労働時間の短縮等の措置のことです。
対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上取得することができます。
対象者と条件
対象者は日々雇用を除く、対象家族を介護する男女労働者となります。
ただし労使協定により以下の労働者は対象外とすることができます。
①継続雇用1年未満の労働者
②週所定労働日数が2日以下の労働者
対象家族の定義は、介護休業と同様に配偶者(事実婚含む)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母となり、対象家族が「要介護状態」の要件(2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態)を満たしている必要があります。
利用可能期間と回数
また、利用期間と回数は、対象家族一人につき連続する3年以上の期間に2回以上利用できるようにする必要があります。つまり、3年間だけではなく、3年以上の期間においていつでも利用できる制度ということです。介護休業や通常の勤務と組み合わせて利用が可能です。
育児と異なり、介護については終了する期間が厳密にわからないため、取得可能な期間は定めていません。
短時間勤務制度の種類
・1日の所定労働時間を短縮する制度
1日あたり8時間勤務だったところを1日あたり6時間勤務にする等、日中の労働時間を短くする働き方
・週又は月の所定労働時間を短縮する制度
週全体の労働時間を減らす働き方(一日当たり6時間、週30時間としたい場合に月曜日は7時間勤務、火曜日は5時間勤務等を組み入れる)
・週又は月の所定労働日数を短縮する制度
週2~3日勤務などの勤務日数を少なくする働き方
・労働者が個々に勤務しない日又は時間を請求することを認める制度
短時間勤務制度利用における課題
仕事と介護を両立するうえで、短時間勤務制度の利用は重要な制度である一方で、実際の利用にあたっては以下のような課題に直面しているのが現状です。
①介護を行う労働者の負担
・収入の減少
多くの企業では「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づき、勤務を短縮した分だけ給与がカットされます。さらに、残業代もなくなるため、手取り額が激減し、介護費用の捻出が困難になるという矛盾が生じます。
現状、育児時短と異なり、介護時短に対しては給付金が支給されません。今後は介護時短給付金の新設など、公的な支援の強化が必要といえます。
・キャリア形成の阻害
また、介護に伴い勤務時間に制限が生じることで、特に労働時間という量的な軸で評価がされがちな日本企業においては、責任のある仕事から外されたり、昇進・昇格の対象から漏れたりするキャリア形成上での問題が生じがちです。
・労働者の身体的、精神的な負担の増大
また、介護を行う労働者本人の身体的、精神的な負担も問題として挙げられます。勤務時間は短くなっても、こなすべき業務量が変わらない場合、結果として密度が上がり、かえって精神的なゆとりがなくなるケースが散見されます。
②職場環境
職場環境に影響する最も大きな問題としては周囲への業務負荷の偏りです。短時間勤務者がカバーできない業務が同僚に回ることで、周囲に不満が溜まり、職場での居心地が悪くなる可能性があります。
また、介護に伴い会議等への欠席、情報共有の遅れが発生しやすいため、チーム全体の生産性に影響が出ることがあります。
さらに、介護に対する理解不足も大きな問題です。育児と異なり、介護は「終わりが見えない」「突発的な事態(急病など)が多い」という特徴がありますが、これが上司や同僚に正しく理解されていないことが多いです。
③制度設計と運用上の問題
法定では「利用開始から3年以上の期間で2回以上」とされていますが、企業独自に就業規則に定めることが可能です。具体的には、「利用開始から10年までの期間で6回まで利用可能」と定めることも可能です。
しかし、この定めが不明瞭であることから、多くの企業では従業員に対しての説明や理解が難しいこともあり、制度利用自体少ない状況といえます。また、制度設計がされていたとしても、多くの企業では「利用開始日から3年間で2回までの範囲内で利用できる」等の利用可能上限を設定した定めをしており、実際の介護期間は平均10年と言われており、制度期間終了後の両立支援が不十分になってしまう可能性があります。
また、 介護は身体的介助だけでなく、ケアマネジャーとの打ち合わせや病院への付き添い等、平日の日中にしかできない活動が多くあります。「1日数時間減らす」だけでは、これらのニーズに柔軟に対応できない場合があるため、リモートワークやフレックスタイム制などの他制度との活用しながらの運用が求められます。
また、介護休業と同様に、そもそも自社にどのような制度があるのか、自分が対象になるのかを知らない労働者が多く、活用が進んでいません。企業側で積極的な周知が必要となります。
短時間勤務制度利用にあたって企業に求められること
上記にあげた介護を行う労働者の短時間勤務制度利用における問題点を踏まえて、企業には以下の対応が求められています。
①効果的な制度設計と制度の個別周知および意向確認
テレワークや時差出勤、フレックス等他の柔軟な働き方に関する制度を掛け合わせて運用するなど、本人および関与する職場内のメンバーにとって、業務負荷や心身の負担が偏らない制度設計が重要です。
また、2025年4月の育児・介護休業法の改正に伴い、従業員から家族の介護が必要になった旨の申し出があった場合、企業は短時間勤務制度を含む仕事と介護を両立するための各種制度の個別周知と制度利用の意向確認を行う義務があります。介護休業や短時間勤務制度等の社内制度の周知と説明、利用希望者本人が『どう働きたいか』という自発的な意向を確認することも大切です。
②従業員の精神的負荷を軽減できる職場環境整備
また、短時間勤務者はもちろんのこと、周囲の従業員も業務のカバーに回ることにより、心身の負担が大きくなります。介護を理由とした従業員に対するハラスメント(ケアハラスメント)の防止のためにも、日ごろからコミュニケーションのとりやすい心理的安全性の高い職場環境づくりや気軽に相談できる相談体制づくりが必要です。
真に仕事と介護の両立ができる職場環境の整備のために
近年は法改正によりテレワークの努力義務が導入されるなど、国全体で仕事と介護の両立に向けた制度整備を進める動きはあります。
また、企業においても労働者の環境を把握し、制度利用ができる環境整備を取り組みはじめている一方、今回紹介した「介護のための短時間勤務制度」は制度としては仕事と介護の両立に資する制度であるものの、内容がわかりにくく、実際にはあまり使われない状況です。
なぜなら、説明をしている企業も制度設計の制約が大きいことや、解釈が難しいことから説明の負担を感じている実情があること、また、説明を受ける従業員も理解できていない現状があるためです。
国も企業に説明や理解を求めることは重要でありつつも、現代の労働社会においては、職場環境を構築する企業も含め、国全体でケアの倫理を踏まえた企業・労働者を取り巻く環境・実態に応じた制度設計が必要とプラットワークスは考えています。
今回のコラムでは介護を行う労働者における短時間勤務制度の概要と制度運用にあたり企業に求められる対応について解説しました。短時間勤務制度を含む仕事と介護の両立支援制度は依然として認知度が低く、実際にはあまり活用されていないのが現状です。このような制度認知の他、介護に直面する労働者が希望するタイミングでの制度利用ができ、働き方について困った時には気軽に相談ができる職場環境整備も必要となります。このような時には企業の労務管理に精通し、企業の実態に応じたアドバイスのできる専門家のサポートが重要となります。
プラットワークスでは社内の規定改定のご支援や人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、このような例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
また、弊法人は「社会保険労務士」とメンタルヘルス面の支援にかかわる「公認心理師(臨床心理士)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlaTTalksを運営しております。仕事と介護の両立において生じた精神面での負担軽減のために、外部の専門家のメンタルヘルスケアをぜひご活用ください。




