もくじ
労基法では、法定労働時間、休憩、休日に関する基準を定めています。
しかし、事業や業務の種類によっては、そうした規制を一律で適用することが、なじまない業種・職種があります。
このような事業の特性や、多様な働き方に対応して、労基法が特別に取り扱いを定めているのが、労基法第41条の「適用除外」の規定です。
本コラムでは、監視・断続的労働の法的ルールを整理しつつ、長時間拘束のリスクも踏まえて、監視・断続的労働の活用方法を解説します。
1.労働基準法における「適用除外」の内容
(1)適用除外とは何か
労基法第 41 条は、事業や業務の性質又は態様が法定労働時間や週休制を適用するに適しないとして、その事業 又は業務に従事する、以下の労働者について、労働時間、 休憩及び休日に関する規定を適用しないことを定めています。
労働基準法第41条1号 農業(林業を除く)又は畜産、養蚕、水産の事業 に従事する者
2号 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地 位にある者(管理監督者)又は機密の事務を取り扱う者
3号 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行 政官庁の許可(労基法施行規則第 34 条)を受けた者
なお、除外されるのは労働時間、休憩及び休日に関する規定のみです。年少者の深夜業禁止(第 61 条)、深夜業に対する割増賃金(第 37 条)や年次有給休暇(第 39 条) は適用されます。
こうした規定の基になっているのがILO条約です。ILO第1号条約(1919年)で採択された「工業的企業における労働時間を1日8時間且1週48時間に制限する条約」は、現代の労働時間の礎になったものです。
第2条(a)においては、「監督若しくは管理の地位に在る者又は機密の事務を処理する者」には条約を適用しないと明記されており、「本質上間欠的なる作業に従事する或種の労働者」については、各国が恒久的な例外規定を設けることを認めています。
農林業や水産業については、自然現象が相手であり、天候に左右されるため、性質上一律の規制がなじまないため、労働時間、休日に関する条約は未だ採択されたことがなく、1920年の「漁業に於ける労働時間、休日に関する勧告(第7号)」では、8時間労働制を可能な限り実施すべきという努力目標に留めています。これらの農林水産業については、労働基準法第41条1号に適用除外として規定されています。
今回のテーマである、監視・断続的労働について日本の歴史をみていくと、戦前の工場法では適用除外の規定はありませんでした。
鉱夫就業扶助規則(1926改正)第5条において、坑内で「監視を主とする業務又は間欠的なる業務に従事する者」につき鉱業権者が許可を受けたときは、鉱夫をして1日10時間の坑内労働の制限を受ける事なく坑内労働に従事させることができることとされていました。
これは、命に関わる激務と、監視の静的な業務を同じ物差しで測るのは不合理である、という「労働密度」の観点から定められたものと考えられます。
監視又は断続的業務に従事する者は、通常の労働者と比較して労働密度が低く、心身への負担も少ないことから、労働時間を規制しなくても健康上問題ないと考えられ適用除外とされています。
ただし、適用除外とするには、事業場を管轄する行政官庁(労基署長)の許可が必要となります。
(2)なぜ監視・断続的労働(3号)のみ許可が必要なのか
なぜ、3号のみ許可が必要なのでしょうか。
1号の農林水産業は天候や動植物の生育といった自然環境に業務が左右されるため、人為的な時間管理が馴染まない性質を持っています。また、2号の管理監督者は経営者と一体的な立場にあり、自己の裁量で職務を遂行する権限を持つことから、一律の労働時間規制に縛られないことが妥当とされており、通常の労働者と比べて保護の必要性が低いと考えられています。
3号の監視・断続的労働は、その実態が千差万別であり、一般の労働と明確に区別できる客観的基準もありません。企業の恣意的な判断に委ねると、労働条件に著しい不利益を及ぼす可能性があります。
また、外形的には負荷が軽く見えても実際には長時間立ち続ける等身体的負荷が高い業務や、不測の事態に備えた緊張が続くなど、精神的負荷の高い業務もあります。
無制限に適用除外を認めると、労働者の健康や安全が脅かされるおそれがあります。これを防ぐため、行政官庁(労基署長)による事前の審査・許可が必要とされているのです。
2.「監視・断続的業務」の許可の対象
労基署長の許可を得るためには、その業務が対象業務に該当するかどうか確認が必要です。
(1)監視に従事する者
原則として、一定の部署で監視を本来の業務とし、常態として身体の疲労、精神的緊張が少ないものが対象です。例えば、門番や守衛、メーターを監視する業務などです。
したがって、以下のような業務は身体的・精神的緊張の少ないものでないと認められないため許可の対象となりません。
・交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場の監視等の精神的緊張の高い業務
・プラント等における計器類を常態として監視する業務
・危険又は有害な場所における業務
(2)断続的労働に従事する者
作業自体が本来間欠的に行われるもので、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行われ、また中断するというように繰り返されるものをいいます。「休憩は少ないが、手待時間(指示があれば即座に動ける待機時間)が多い」状態を指します。修繕係等通常は業務閑散であるが事故に備えて待機するものや、寄宿舎の賄人等で手待ち時間が実作業時間を上回るものが許可の対象となります。学校用務員、役員専属運転手、マンション・施設の管理人や守衛などが典型例です。
したがって、以下のような業務は許可を受けることができません。
・特に危険な業務、相当の精神的緊張を要する業務
・断続的労働と通常の労働とが1日の中において混在し、又は日によって反復 する業務 (本来の業務外において付随的に宿直・日直業務を行う場合は、「断続的な 宿直・日直勤務」に従事する者の労働時間等に関する規定の適用除外許可 申請の対象となります。)
例えば、新聞配達員、タクシー運転手、常備消防職員は許可されません。
許可申請の際は、以下の資料が必要になり、労働の実態があるか労働基準監督署の審査が行われます。
■対象労働者の労働の態様が分かる資料*
・所定労働時間内におけるタイムスケジュール
・対象業務の業務マニュアル、作業規定、業務日報等
・巡回の業務がある場合は、巡回経路を示す図面
・業務の従事場所や、休憩スペースがある場合はその図面
*申請後に、個別の事案に応じて追加の資料の提出を求められる場合があります。
■対象労働者の労働条件が分かる資料
・労働条件通知書、雇用契約書の写し、賃金台帳
実態が制度の趣旨と異なる場合、許可の取り消しや是正指導が行われる可能性があります。
「許可」という形式的な判断以上に、行政が重視するのは、常態として身体の疲労又は精神的緊張が少ないかという業務の実態です。
たとえ法的な許可基準をクリアしていたとしても、長時間の拘束がもたらす心身への影響には配慮が必要です。
3.監視・断続的労働における健康リスク
監視・断続的労働は、労働時間に関する法規制の対象外となるため、生活の大部分を仕事が占めるような「長時間拘束」に陥りやすいリスクがあります。作業密度が低いとはいえ、「いつ何が起こるかわからない」という精神的緊張を伴う待機状態が長く続くことは、蓄積された疲労が脳や心臓の深刻な疾患を引き起こす大きな要因となります。
(1)長時間労働による脳・心疾患のリスク
厚生労働省が公表している「脳・心臓疾患の労災認定基準(2001年)」では、業務の過重性を評価 する具体的な負荷要因(労働時間、交代勤務・深夜勤務、精神的緊張を伴う業務など7つの項目)が示され、長期間の過重業務の負荷要因としては労働時間が 最も重要と判断されました。長期間にわたる時間外労働時間注 1 と脳・心臓疾患 の発症との関連を評価する目安が示されています。

(2)睡眠不足
長時間労働や夜型生活による短時間睡眠(睡眠不足)、交替勤務(シフトワーク)による不規則な睡眠リズム、不眠症や閉塞性睡眠時無呼吸などの睡眠障害は生活習慣病の罹患リスクを高め、かつ症状を悪化させると言われています。
交代勤務に従事している人は、不眠や眠気のほか、胃腸障害、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、発がん、そして死亡のリスクが高いことが知られています。

また、2007年には、WHOの関連機関である国際がん研究機関(IARC)が「サーカディアンリズム(概日リズム)を乱す交代勤務」を発がん性リスクが2番目に高いグループ(2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある暴露状況)に認定しています。
健康リスクを放置すれば、従業員のパフォーマンス低下や、予期せぬ健康被害に直結します。
4.監視・断続的労働に従事する従業員に対して、企業に求められるサポート
こうした監視・断続的業務に従事する従業員に対して企業として何ができるでしょうか。
長時間勤務となる場合は、休む場所の提供も重要です。ソファなどではなく、遮光・防音・適切な温度管理がされた個室で、横なって休める場所を整備することで、仮眠の質が向上し、業務中の集中力維持にもつながります。
シフト制勤務の場合、特に家庭を持つ従業員にとって、仕事と家庭の両立が難しくなることがあります。深夜勤務や早朝勤務がある場合、家族との時間が取れなくなり、ストレスが溜まる原因となります。企業は、家庭とのバランスを考慮したシフトの調整や、柔軟な勤務形態の導入も検討すると良いでしょう。
深夜業(22時〜翌5時)に「常態として週1回以上、または月4回以上」従事する従業員には、配置換えの際および6ヶ月以内ごとに1回、健康診断の実施が法律により事業者に義務付けられています(特定業務従事者の健康診断)。健康診断の結果を単なる記録として終わらせず、産業医等と連携し、診断結果に基づいた労働密度の調整や、仮眠の質を向上させるための休憩室の整備など、具体的な対策について話し合いの場を持つことも重要です。こうした取り組みが、従業員が健康を維持しながら長く働き続けることにつながります。
心身が整った状態でこそ、人は高い集中力と責任感を発揮できます。
監視・断続的労働の許可を得て活用するだけではなく、「人が最も良い状態でいられる環境」を整備することが、中長期的に企業価値向上につながります。
適切な環境整備をし、従業員のウェルビーイングを高めることは、結果としてサービスの品質向上になるなど、組織全体の競争力を強固なものにするのです。
プラットワークスは人と組織が、もっと自由にしなやかに高め合える関係性を大切にしています。
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制度構築 - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
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