インポスター症候群とは?~女性従業員が自信をもって活躍するために企業ができること~

女性活躍推進法の成立から10年がたち、女性の労働参加も大きく進み、日本の女性の労働力率は2024年に55.6%の過去最高値となりました。その一方で日本の女性管理職の割合は2024年時点で16.3%と国際的にも特に低いことが特徴的となっています(内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和7年度版」)。

この背景としては、組織体制や風土を原因とするものに限らず、女性自身が管理職を望まないケースも多くあります。その理由として「家庭と仕事の両立の難しさ」・「責任が重い」といった理由の他に「自分の能力に自信がない」という理由が上位に挙げられています。

※内閣府男女共同参画局「諸外国の就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合」

このように、実際に自分の能力を肯定できず過小評価する心理的状態を「インポスター症候群(Imposter Syndrome)」と呼びます。インポスター症候群の当事者は自身の能力について過小に評価してしまう傾向が強いことから、新しい業務や昇進を避ける等のキャリア形成を妨げてしまうケースもあります。これは本人だけでなく、組織においても大きな損失となりえます。
インポスター症候群は女性に多いといわれており、株式会社ヴィエリスの「インポスター症候群」に関する調査(2020)では女性の回答者の46.3%が自身を「インポスター症候群に当てはまる」と回答しており、約半数の女性が自身の成功を肯定できていない現状にあります。

今回のコラムではインポスター症候群の概要とその背景を解説し、能力のある従業員が安心して望むキャリアへ挑戦できる職場づくりについて解説していきます。

インポスター症候群とは

「インポスター症候群」(Impostor Syndrome)とは、自分の実力で成果を出したにもかかわらず自身を過小評価してしまう心理状態です。1978年にアメリカの心理学者であるポーリン・R・クランスとスザンヌ・A・アイムスによって命名されました。

具体的には、客観的にみて素晴らしい成果を出した際にも「自分は実力がない」「たまたま運が良かっただけ」と思い込み「本来の自分は実力がないのに、周囲をだましていることがばれてしまうのではないか」と不安になる状態のことです。インポスター症候群は、特に社会的に成功した人や女性に多いとされていますが、「70%の人は人生で少なくとも一度は経験する」とされており、誰もが経験する可能性のある現象です。インポスター症候群の人には以下のような特徴がみられます。

インポスター症候群にみられる特徴

①過小評価「誰でもできること」「自分なんてたいしたことない」と自分の価値を低く見積もる。

②外部要因への帰属成功理由を運、タイミング、周りの力等に帰属し、自分の能力を認めない。

③不安感「いつか無能な自分がばれるのではないか」と不安になる。

④完璧主義失敗を過度に恐れ、ミスを一つしただけで「自分はダメだ」と極端に落ち込む。

⑤挑戦へのためらい新しい挑戦を避ける傾向にある。昇格や昇進の打診を見送る。

インポスター症候群となる原因

インポスター症候群となる原因としては主に個人を起因とするものと、社会的・文化的背景に起因するものがあります。また、昇進や転職、起業などの自分の実力が未知の領域で試される状況下や、自分がマイノリティー(性別・人種・年齢・経歴など)の立場にある時におこりやすいといわれています。

1)個人によるもの(心理的要因、家庭環境)
・性格的傾向
…完璧主義で、責任感と誠実性が高く、神経症的傾向がある人は、極端な視点で成果を過小評価したり、過度に期待に応えようとしたり、物事に不安を感じやすいため、インポスター症候群になりやすいといわれています。

・過度に期待される生育環境
…例えば親や先生など周囲からの評価に敏感に育った人は周囲からの期待に応え完璧にこなさなければならないプレッシャーから失敗を過度に恐れます。兄弟や同級生と常に比較されることで、自己肯定感が低くなってしまう可能性があります。

2)社会的・文化的背景(国民性、性別差)によるもの
・謙遜を美徳とする日本特有の規範
…日本では自分の成果を堂々と誇るより一歩引いて「運がよかっただけです」などと謙虚な姿勢であることが好ましいとされています。自分の実力とせず周囲に感謝することは素晴らしい価値観である一方、それが強すぎると自分自身の能力を素直に受け入れる機会を失いやすくなります。

・ジェンダーステレオタイプ
…特に女性は性別に対する固定的な思い込み(女性は奥ゆかしくあるべき、女性は家庭を優先すべき等)により、自分の能力を正当に評価しない傾向にあります。近年は女性の社会進出が進み、女性管理職比率を高めようとする動き(ポジティブアクション)があることからも、女性従業員が昇進した際も「女性だから優遇された」意識からインポスター症候群になりやすいです。
また、男性が企業の中核をしめる職場では女性はロールモデルをみつけづらく、特に管理職においては少数派であることが多いため、よりインポスター症候群になりやすいです。

インポスター症候群になりやすい職場環境

上記の原因を踏まえて、組織で働く従業員がインポスター症候群になりやすい職場環境としては以下があげられます。過度なプレッシャーが大きく、失敗が許されない職場風土や評価基準があいまいで自己評価がゆらぎやすい評価制度、画一的で当事者がマイノリティになりやすい環境があげられます。

・失敗が許されない職場風土
…ミスを過剰に攻め、失敗を許さない「心理的安全性」の低い職場環境。上司が自分の失敗談や弱みを見せず、完璧思考が強い風土。

・評価基準が不透明な環境
…なぜ自分が評価されたのか根拠があいまいな評価制度。

例)上司の好みやお気に入りで評価を決定する、具体的なフィードバックがない等

・多様性に乏しく、ロールモデルのいない環境
…自分と似た属性の従業員で成功者がいない「マイノリティ」となる環境。同質性の高い組織の場合、能力があっても疎外感が強いため、インポスター症候群になりやすい。

例)「女性初」、「最年少」などの肩書がつくマイノリティとしての立場

インポスター症候群による影響

インポスター症候群は特に優秀な従業員が陥りやすいため、個人の心理的問題だけでなく、キャリア機会の損失や離職につながりかねないため、企業にとっても重大な損失になりえます。

・個人のメンタル不調
…インポスター症候群の従業員は常に不安感情を抱いているため、必要以上に努力をすることで、ある日突然燃え尽き症候群になってしまうことや、慢性的なストレス状態と自己否定からうつ状態に陥るリスクがあります。

・キャリア形成の阻害
…実力があるのにも関わらず失敗や批判を恐れてチャレンジをしなくなるため、昇進の打診を断ったり、難易度の高いプロジェクトへの参加を控えたりしまうため、キャリア形成の機会損失が生じます。

パフォーマンス低下と離職
…燃え尽き症候群やうつ状態が生じると、仕事のパフォーマンスが低下してしまい、最終的に離職を招いてしまう可能性があります。

企業にできること

インポスター症候群にある従業員に対しては、本人が自己肯定感を高め、自身の成功を客観的に認められるよう個人ベースでの支援も重要ですが、それだけでなく、企業側での職場環境整備や従業員自身の成功を客観的に認められる評価制度設計も重要です。企業側ができる対策としては以下があげられます。

①家庭と両立できる労働環境の整備
…特に女性従業員においては、家庭と仕事の両立問題がしばしば生じます。管理職や責任の重い職務を担うことで、家庭生活との両立が難しくなることに不安やプレッシャーを感じています。
「管理職は長時間労働が当たり前」といった考えはアンコンシャスバイアスであることを自覚し、管理職になっても短時間勤務や勤務時間帯の柔軟な変更ができるような、家庭と仕事が両立しやすい労働環境の整備が重要です。

②透明性と具体性の高い評価制度設計
…曖昧な評価基準や具体的なフィードバックのない評価制度は、たとえその評価が高かったとしても、インポスター感情を高めてしまいます。そこで、成果に対して与えられた評価に対して客観的に具体的なフィードバックを行うことと、評価制度の設計自体を従業員の価値貢献や成長段階を適切に捉えられるようにすることが大切です。また、評価制度の設計の視点として「役割の拡大と深化」が重要です。複数の役割を担いキャリアの幅をもたせること(拡大)と同じ業務でも安定したクオリティでこなせるようになること(深化)で、従業員は自身のキャリアにおける可能性に気づき、成長実感を得ることができます。(役割貢献制度については過去コラム参照)

③心理的安全性の高い職場環境整備
…インポスター症候群に陥る従業員は普段よりプレッシャーを感じやすいものの、「他者へ不安を吐露する=能力不足」と捉えがちで、自己解決を図ろうとするため、日頃より不安を抱えやすい傾向にあります。また、自身の本来の意思に反して、周囲からの期待に応えようとする傾向にあるため、1 on 1 やメンター制度を活用して、普段より仕事上の悩みや不安を共有できる心理的安全性の高い職場風土を作ることが大切です。これまで、このような従業員個人のキャリア上の問題は個人の責任とされてきましたが、メンタルヘルス不調が問題視され、健康経営が注目されている現代においては、「従業員でケアすべき人がいれば組織の問題として、配慮すべきである」というケアの倫理の視点が重要です。(ケアの倫理については過去コラム参照)

近年は女性管理職の数値目標達成のために、女性従業員の意思を丁寧にヒアリングせず、管理職にしようとする動きがあります。このようなマイノリティの環境下や本人の意思に反して過度にプレッシャーを与える状況下は女性従業員のインポスター感情を強める可能性があります。
単なる数値目標のための昇進ではなく、女性従業員本人の意思から管理職の希望を共有することができ、本人自ら管理職を目指したいと希望できるような組織づくりが必要です。

そのためには、管理職であっても家庭と仕事の両立が可能となる労働環境を整備することや、納得感のある人事評価制度設計、そして日頃から自身のキャリア上の相談ができ、意見を言いやすい心理的安全性の高い職場風土を作ることが重要です。そしてこのような企業における職場環境整備や制度設計においては労務に精通した専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。

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