コラム

「日本型」職務給とは何か

2023921日、岸田文雄首相が、ニューヨークで講演を行いました。その中で、「リスキング」「日本型職務給の導入」「成長分野への円滑な労働移動」の三位一体の改革を推進することを強調しました。

ちょうど1年前に、プラットワークスでも職務給の紹介をいたしました。(ジョブ型雇用にマッチする職務給とは何か?)。今回の講演を受けて、「日本型職務給」の導入がかなり現実的になっていることが分かります。

今回は、日本型職務給制度とはどのようなものを指すのか、プラットワークスなりの見解を示してみたいと思います。

 

職務給とは

そもそも職務給とは、職種の専門性や業務の難易度を重視し、「従業員の担当する職務(仕事)」を基準に評価を行い給与を決定する、仕事基準の給与制度です。高年齢者が比較的高い給与水準になる傾向のある職能給とは異なり、職務給では、年齢にかかわらず職務内容に応じて給与額が決定されます。

 

日本型職務給とは

では、職務給にさらに「日本型」という文言を付ける意味はなぜでしょうか。

職務給は、日本の取引慣行や労務管理の慣行とはフィットしない面があるため、ただちに職務給制度を導入することは難しいと考えられます。

また、中高年が給与制度を急に変更されることに対して反対する可能性が高いです。

そのため、日本型職務給における「日本型」の意味はまだ定かではありませんが、ここにはアメリカの制度である職務給(ジョブ型)を日本で導入することの懸念を払拭する狙いがあるのではないかと考えます。

 

それでは、日本に合った「日本型職務給」とはどのようなものが考えられるでしょうか。

例えば、職務給と職能給を併存させたり、両者の配分を各自が選択するなどの方法が考えられます。

しかし、職務給と職能給を併存させることは、仕事自体を評価する職務給に対して、仕事以外の要素を多分に含む職能給を併存させることは、評価軸がブレてしまい、適切な評価が困難になるという内在的な問題があります。

 

そこで、プラットワークスでは、日本で職務給を導入する場合の「日本型職務給」を、「職務給+α」の制度として捉えるべきではないかと考えています。

ここでの+α部分には「関係性の報酬」と「成果に対する報酬」が含まれています。

 

関係性の報酬

報酬には、人と人との「関係」に着目して支払うものもあります。例えば、昔の師匠と見習いのような「丁稚奉公」といった関係では、見習いが一人前になり、独立する際にそれに要する費用の一部を師匠が提供するといった場合があります。この場合に師匠が支払う費用は、丁稚と奉公という「関係」に着目して支払われている報酬と考えられます。

こうした関係性の報酬は、職人など技能を重視するような職場で重視されますが、ものづくりを中心としてきたこれまでの日本では、技能=経験年数として捉えられ、現代の職能給や年功序列型賃金制につながっていると考えられます。

 

成果に対する報酬

成果に対する報酬は、個人の仕事の成果に応じて支払う報酬です。

成果に対する報酬として適切に支払うためには、ボーナスに対する社会保険料や税金を優遇し、ボーナスを支給しやすくなるような制度作りが望ましいと言えます。

 

プラットワークスが提案する日本型職務給制度

岸田首相が述べる「日本型職務給」が何を指すのかはまだ定かではありませんが、

プラットワークスでは、日本型職務給制度を「職務給+関係性の報酬+成果に対する報酬」であると考えます。

そして「職務給6:関係性の報酬2:成果に対する報酬2」といったような形でベースラインを設定した上で、各企業の特性や考え方に応じて比重を変えていくのが良いのではないかと考えます。

例えば、職人が多く、技術を中心とするような企業の場合は、関係性の報酬を重視し、積極的に新規事業に取り組むベンチャーのような企業の場合は、成果に対する報酬を重視する、といった形で企業に合わせて比重を柔軟に変更できるような制度設計とします。

今後、「日本型職務給」の本格導入に向けて、政府にも動きがあると考えられます。早い段階から自社の報酬制度を見直して、自社に合った制度を考えてみましょう。

 

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