前回のコラムでは、清算期間を「1か月を単位」とするフレックスタイム制の導入手順と注意点を解説しました。しかし、清算期間が1か月を超えると、手続方法や時間外労働の算定方法が大きく異なります。
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制は、決算時に業務が集中する経理職など、季節ごとに繁閑の差が生じやすい職種のニーズに即していますが、導入には1か月単位のフレックスタイム制以上に留意する必要があります。導入したとしても、実は法令違反の状態で運用を続けていたという事例も少なくありません。
そこで今回は、清算期間を「1か月を超えて3か月以内」とするフレックスタイム制を導入する際の手順および注意点について、「1か月単位」の場合との相違点を比較しながら解説していきます。
フレックスタイム制の導入手順と注意点(清算期間を1か月超えて3か月以内とする場合)
清算期間を1か月単位とするフレックスタイム制を導入する場合の要件は、①・②の2つでした。しかし、1か月を超える場合には①~③の3つの要件を満たす必要があります。
① 就業規則等に「始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を規定する。
② 次表の枠組みを定めた労使協定を締結する。
③ ②の労使協定を労働基準監督署に届け出る(労働基準法32条の3第4項)。
◆労使協定を労働基準監督署に届け出なければならないことが、1か月単位のフレックスタイム制と異なります。届出をしなかった場合でも労使協定が無効になることはありませんが、届出義務違反として30万円以下の罰金が科せられる恐れがあるため注意が必要です(労働基準法120条1号)。
表:労使協定に定める事項とポイント
清算期間における総労働時間をどう考えるか?
清算期間が1か月単位の場合、「法定労働時間の総枠」を超えた部分が時間外労働となり、36協定の締結を割増賃金の支払いが必要でした。1か月を超える場合には、次の2つを考慮する必要があり、いずれかを超えた時間数が時間外労働となります。
① 清算期間全体の総労働時間が、「法定労働時間の総枠」を超えないこと
◆ 【1週間の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7】で求めます。
② 「区分期間(=清算期間を1か月ごとに区分した各期間)ごとの総枠」を超えないこと
◆【50時間×区分期間の暦日数÷7】で求めます。
◆1か月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこととされています。
(引用:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」)
時間外労働の計算方法
【例】1週間の法定労働時間40時間の事業場で、清算期間91日(法定労働時間の総枠520時間)
実労働時間が4月220時間、5月180時間、6月140時間(合計540時間)の場合
① 「区分期間ごとの総枠」を超えた分を求める。
◆下図から、4月単月で5.8時間の時間外労働があったことが分かります。この部分は4月の賃金支払日に割増賃金として支払います。
② 清算期間全体の総労働時間が、「法定労働時間の総枠」を超えた分を求める。
◆下図から、4~6月全体で20時間の時間外労働があったことが分かります。
③ 「②で求めた時間」から「①で求めた時間」を除く。
◆20時間-5.8時間=14.2時間が時間外労働となります。
(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」より作成)
休憩時間や休日も自由に決められるのか?
フレックスタイム制は、あくまで始業と終業時刻を労働者の決定に委ねているに過ぎず、休憩時間までも労働者に任せることにはなっていません。また、法定休日についても同様の理由からフレックスタイム制とはなっていないため、労働基準法35条により1週1日の週休制もしくは4週4日の休日制が適用されます。したがって、フレックスタイム制の対象労働者が法定休日に出勤して労働した場合には、休日労働として割増賃金を支払わなければなりません。
このように、フレックスタイム制の導入に関しては、法的に考慮することが多く、その内容もケースバイケースで複雑であることが多いです。導入のハードルが高い制度ですが、そんな中、2025年10月に施行予定の改正育児・介護休業法において、事業主に対して「柔軟な働き方を実現するための措置」が新たに義務づけられます。この中で、事業主が選択して講ずべき措置の1つに「始業時刻等の変更」があり、フレックスタイム制や時差出勤が想定されています。フレックスタイム制の導入に際しては、過半数労働組合等からの意見聴取、労使協定の締結、就業規則その他の規程の整備など、多くの時間を要するため、早めの着手が大切です。
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