2025年の新年を迎え、経済産業省と中小企業庁は今年の経済政策の方向性を示す年頭所感を発表しました。その内容からは、現在の経済状況を踏まえ、日本企業がどのようにして生産性向上や競争力強化を実現していくかに焦点が当てられています。本コラムでは、特に中小企業にかかわる投資促進や賃上げといった内容を基に、3つの共通キーワードに注目し背景や狙いについて解説をします。
設備投資と事業拡大への支援
まず、経済産業省と中小企業庁の年頭所感で共通する1つ目のキーワードとして「稼ぐ力」が挙げられます。これは単に短期的に稼ぐ=利益追求ではなく、経済環境の変化に対応しつつ海外企業に対する競争力を強化し、持続的な成長をする力を身につけてほしいという意図が感じられます。
その実現のためには、自社に合った効果的な設備投資を行い事業拡大を進めていくことが不可欠です。しかし、過去のコラムでも説明したとおり、限られた予算の中での設備投資は中小企業にとって大きなハードルとなり、思うように進まないことが少なくありません。経済産業省と中小企業庁は、この課題に対応するため積極的に支援策を行うとしていますので、最大限活用し自社の事業拡大につなげていきましょう。
特に中小企業庁は労働力不足や物価高騰など、企業が直面する経営環境の厳しさに対応するための支援方針として、『カタログから選ぶような簡易で即効性のある省力化投資支援を継続する』と発表していることから、2025年も企業が迅速に投資を行えるようサポートすることが見込まれます。もちろん、省力化支援補助金だけでなく、自社に合った各種支援策を活用することで速やかな新技術・新サービスの開発に繋げ、生産性の向上を推進していきたいところです。
また、所感の中では官民連携で行われる大型投資にも触れられており、これは地域経済への波及効果を高める狙いがあると考えられます。特に、半導体やAI、バイオヘルスケアといった成長分野への投資は、直接的な利益を企業にもたらすだけでなく、その地域おける周りの中小企業にも新たな事業機会を生み出す狙いがあるとみられます。
補助金・助成金制度の活用
前項で説明した設備投資を中小企業が行い事業を拡大するためには資金調達が大きな課題となります。しかし、一般的に中小企業は大企業と比べて資金調達が難しく、金融機関からの融資を受ける際には厳しい審査が行われます。そのような環境の中で、補助金や助成金制度は中小企業にとって資金調達の重要な役割を持っています。
例えば、国は成長分野への投資を促進するため、AIや半導体、次世代航空機、バイオ医薬品などの先端技術を導入する企業に対しては資金面での大きな支援を行うとしており、これまで以上に力を入れていくことが強調されています。これらの分野において、日本企業は中国や欧米と比較し技術開発や国際市場における販売が弱いと言われるなど、国としても経済環境の変化が激しい現在において早急に対応すべき課題と捉えていると考えられます。
また、国が積極的な支援をするターゲット企業としては、2つ目の共通キーワードである「売上高100億円企業」にも注目が必要です。中小企業が売上高100億円規模に成長すると、市場における存在感が大きくなりブランド力や競争力の強化につながるだけでなく、一定規模の市場をけん引するリーダーシップが発揮できるようになります。そのような企業が多くの地域で増えることで、地域経済の活性化が日本経済全体の活性化につながるため、国としては成長意欲のある企業を積極的に支援したいという意図があると考えられます。以前、事業再構築補助金がなくなり、後継として新事業進出補助金が発表されたコラムを掲載しましたが、このような補助金制度の変更の動きからも同様の意図が読み取れます。
賃上げと投資の好循環を目指して
最後に3つ目の共通キーワードとして「賃上げ」を挙げます。経済産業省と中小企業庁は、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現も目指しています。所感の中では「成長と分配の好循環」というフレーズが使われていますが、これは①賃金が上昇し、②それに伴って消費が拡大し、③さらに企業が設備投資を行うことで生産性が向上し、④再度賃上げが実現する、という好循環を意味していると考えらえます。賃金引上げが先か設備投資による事業拡大が先か、同時並行でバランスの取れた戦略を進めていくか等、自社の状況によって議論の余地があると思われますので、以下にメリットとデメリットを記載します。自社はどのように進めるか参考にしていただければと思います。
中小企業が賃上げの原資を確保するために必要なのは安定した事業運営とそれによる収益の確保です。国は「取引適正化の推進」を掲げ、企業が価格転嫁をスムーズに行える環境を整えることで企業の収益力を高め、賃上げを実現するための支援を行うこととしています。また、「成長投資支援」や「生産性向上支援」のような支援策は、企業が新しい技術を導入したり、設備を更新するための原資を確保しやすくするための重要な手段です。国としても今まで以上に中小企業の支援に力を入れていくと思われますので、支援策を最大限活用し事業拡大と従業員の賃上げを実現していきましょう。
地域経済と中小企業の活性化
中小企業は地域経済を支える存在であり、中小企業が成長し地域経済が活性化することは日本全体の経済成長にも大きな影響を与えます。経済産業省と中小企業庁は、この地域経済の活性化に向けた政策を強力に進めています。
例えば、大型投資や官民連携のプロジェクトは、地元の中小企業にも波及効果をもたらし地域経済の活性化につながりますし、「地方創成2.0」をはじめとした地域の特色を生かした産業育成の施策は、地域における新たな事業機会を生み出すのに重要な役割を果たすと考えられます。
また、中小企業の成長支援を通じて地方創生を実現するためには、企業の競争力を高めることだけでなく、優秀な人材の確保も重要です。これは既に触れた補助金や助成金の活用に加え、ここでも設備投資による事業拡大や賃上げが鍵になるという点に繫がります。日本企業の約99%以上を占める中小企業は経済成長の中心であることから、地域において中小企業が成長することで、その地域の雇用が生まれ、経済の活性化に繋げたい国の強い想いが感じられます。
さいごに
繰り返しになりますが、中小企業は日本経済の基盤を支える重要な存在であり、その成長を支えるためには補助金や助成金を活用した設備投資や賃上げといった好循環が欠かせません。経済産業省と中小企業庁が進める支援策は、これらの要素を包括的にサポートするものです。今後、これらの支援を効果的に活用し、より多くの中小企業が新たな成長に繋げることで地域経済を活性化させ、日本経済全体の発展に貢献することを期待しています。
社会保険労務士法人プラットワークスでは、多数の企業様に補助金や助成金の支援を行っていることや、自ら補助金や助成金の採択・通過した実績を踏まえ、皆さまの支援をいたします。
また、2025年1月28日(火)に設備投資や事業拡大に向けた補助金を活用するための無料セミナーを実施しますので、ぜひご参加ください。
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