競業避止義務とは何か?:競業避止義務・秘密保持義務の知識と対策

企業にとって、従業員が持つ知識や情報は非常に貴重です。しかし、退職後にその情報が競合他社に流出したり、元従業員が競業を行ったりすることは、大きなリスクを伴います。そこで重要となるのが「競業避止義務」と「秘密保持義務」です。これらの義務は、企業の利益を守るためだけでなく、従業員自身の将来にも影響を与える重要なものです。本コラムでは、競業避止義務と秘密保持義務に企業がどのように対応すべきか解説していきます。

競業避止義務とは

企業の従業員や役員が在職中や退職後に、同じ業界の競合企業で働いたり、自ら競争相手となる事業を行ったりすることを制限する義務のことです。

在職中の競業避止義務

在職中の競業避止義務は、労働契約の付随義務として広く認められています。従業員は労働契約が存続している間、企業の利益に著しく反する競業行為を控える義務があります。
労働契約法では、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」とされており(第3条第4項)、在職中に競業行為を行うことはこれに違反する可能性があります。
また、民法第415条(債務不履行)や第709条(不法行為)に基づき、競業行為によって企業に損害を与えた場合は、損害賠償請求の対象となることがあります。

退職後の競業避止義務

退職後に同業他社に転職したり、同業を開業することに伴う損害賠償請求や競業行為差止請求などが問題になることがあります。
退職後については、従業員には職業選択の自由(憲法第22条第1項)があるので、在職中のように一般的に競業避止義務を認めることはできず、法的根拠や合理性を事案ごとに吟味することとなります。つまり、退職後については、競業避止義務を定めた就業規則誓約書が存在しなければ、従業員は競業避止義務を負わず、就業規則や誓約書があった場合も、その有効性の範囲は、合理的な範囲に制限されます。

判例から見る競業避止義務

経済産業省「競業避止義務契約の有効性について」では、競業避止義務契約の有効性について争いとなった判例を分析し、ポイントとなる6つの基準を紹介されています。

<競業避止義務契約の有効性を判断するポイント>
 ①守るべき企業の利益があるかどうか
 ②従業員の地位
 ③地域的な限定があるか
 ④競業避止義務の存続期間
 ⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか
 ⑥代償措置が講じられているか 


裁判例は、労働者の職業選択の自由に照らして、企業にとって厳しい態度をとる傾向にありますが、企業利益にかかわるほどの極めて高い機密情報を扱う役職者を対象に、一定の地域・期間・範囲を限定して競業避止義務を課すことは認められる可能性が高いです。

▸参考リンク:「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上にむけて~(令和6年2月改訂版)」p221
 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf

就業規則・誓約書

前述のとおり、一般の従業員については、退職後に競業避止義務を課しても不法行為や損害が発生しなければ、損害賠償請求等は難しい傾向にあります。それでも、モラルを欠く転職や独立開業に対する一定の抑止策として、就業規則への明記・周知誓約書を交わすことをお勧めします。
誓約書を交わすタイミングは、入社時退職時に加え、在職中の管理職登用時が考えられます。
また、副業を認める企業にあっては、副業は事前許可制とし、副業内容が競業に該当すると判断する場合は、許可を出さないとすることで違反行為を未然に防ぐ可能性を高めることができます。

秘密保持義務とは

秘密保持義務は、従業員が労働契約の付随的義務の一種として、企業秘密を保持する義務のことです。多くの企業では就業規則に規定を設けて、秘密保持義務の内容を明確化しています。

在職中の秘密保持義務

在職中の秘密保持義務は、労働契約の付随的義務として認められています。
労働契約法に基づき、企業の秘密を外部に漏らさない義務があり(第3条第4項)、就業規則に秘密保持義務の規定があれば、従業員にはそれを守る義務が生じます。

退職後の秘密保持義務

退職後の秘密保持義務は、契約や就業規則で明確に定められていない限り、一般的には強制力が弱くなります。ただし、営業秘密の保護については、不正競争防止法によって保護される場合があります(不正競争防止法第2条)。

就業規則・誓約書

競業避止義務と同様、秘密保持義務についても就業規則への明記・周知や誓約書を交わすことをお勧めします。このとき、併せて「何が秘密情報に該当するか」を明確に定義し、従業員に周知することが重要です。
また、営業秘密の保持をはじめとする服務規律について、日常的・定期的な周知や社内教育を行うことも秘密保持効果を上げる一つの方策です。

健全な労使関係を維持し、企業の利益を守るために

企業の利益を守るために、競業避止義務と秘密保持義務を課すことはもちろん大切ですが、それと同時に従業員の職業選択の自由や労働の権利とのバランスを図ることも忘れてはならない視点です。過度に広範な義務は、裁判所によって無効とされる可能性があるためです。
健全な労使関係は、生産性向上やイノベーション促進をもたらすとともに、労使紛争防止ひいては企業利益を守ることにつながります。日頃から2つの義務内容をきちんと理解しつつ、労使双方がお互いを尊重できる健全な労使関係の構築・維持につなげていきたいですね。

弊法人では、人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

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