今年に入り、物価高の話を聞くことがさらに多くなりましたね。中小企業の現場でも「省力化したい」「コストを抑えて設備を更新したい」といった声を多く耳にする一方で、「最新の省力化機械は高額で手が出しづらい」「補助金や助成金は色々あって、どれが使えるのかわかりにくい」という声もよく聞きます。特に人手不足が続く中で、工場や店舗、介護現場など、多くの企業で省人化や環境改善が喫緊の課題となっていることは珍しくありません。
こうした課題に対し、東京都では都内の中小企業等が行う「持続可能な事業環境整備」を支援する補助制度「中小企業等による持続可能な事業環境整備モデル実証事業(一般型)」の取り組みを行っています。本事業は、最大800万円の助成を通じて、中小企業の省エネ・省力化などの取り組みを後押しするものです。今回はその内容とポイントについてみていきたいと思います。
~中小企業・小規模企業向け~ 事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(一般コース)_ウェブサイト
制度の概要とポイント
この制度の目的は募集要領に以下のように書かれています。
『ポストコロナ等における事業環境の変化を課題と捉え、対応策として、事業者が創意工夫のもと「これまで営んできた事業の深化又は発展」に取り組み、これが経営基盤の強化につながると認められた場合に、当該取組に必要な経費の一部を助成します。』
つまり、コロナ後の今現在起こっている物価高、人手不足など、ここ数年で変わってきた経営環境に合わせて、「今の事業をもっと強く、続けやすくするための工夫」をしたい企業に対して、その設備投資を東京都がサポートしてくれる制度ということになります。
「深化」とは、今やっている事業を、もっと深く・質を高めて続けていくことですので、どちらかというと「新しいことに挑戦する!」というよりは、「今の事業をもっと良くしていく!」ということを狙っていると考えられます。
「事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(一般コース)」という名前は堅苦しいですが、要するに「今の仕事をムリなく続けるための設備投資を応援してくれる制度」ということです。
本制度は、東京都内で事業を営む中小企業・個人事業主が対象にはなりますが、事業環境変化に対応することを目的としていることから、幅広い経費が対象になっていることが特徴です。また、賃上げに取り組むことで助成率が高くなることも嬉しいポイントです。以下に概要をまとめたので内容を見てみましょう。
スケジュールについては以下の通りです。
今年度全体では6回の公募が予定されています。既に第1回が終了し、第2回が7月1日から申請受付開始されますので、申請を検討されている方は早めに手続きすることをオススメします。
なお、小規模事業者は専用のコースとして「小規模事業者向けアシストコース」がありますので、そちらを活用することも検討してみてください。
募集要項の内容だけ見ると助成金額や対象経費などがありますが、おそらく一般コースの方が審査も厳しいのではないかと考えられます。
内容をよく確認し、自社に合ったコースで申請しましょう。
~中小企業・小規模企業向け~ 事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(小規模事業者向けアシストコース)_ウェブサイト
申請の流れ
申請方法は、jGrants(Jグランツ)を利用した電子申請のみです。申請にはGビズID(プライムアカウント)が必要ですので、まだ取得していない方は早めに取得しましょう。
賃金引上げ計画を希望する場合は、別途「賃金引上げ計画書」と「賃金台帳の写し」の提出が必要ですのでご注意下さい。
審査は書類審査と面接審査がありますので、募集要項に記載されている審査のポイントをよく確認しておくことが必要です。
モデルケース
助成金の概要や流れについて確認できたと思います。ここでは、金属加工業と介護サービス業を例に、具体的なモデルケースを通じて事業者の皆さまに活用のイメージを持っていただければと思います。
ケース1:金属加工業の省力化・脱炭素投資
業種:金属加工業
課題:
従業員の高齢化により、重量物の手作業搬送が身体的負担となっており、腰痛や疲労蓄積による労災リスクが高まっていた。加えて、旧式のコンプレッサーと水銀灯照明による電力消費が大きく、経費圧縮が経営課題となっていた。
導入設備:自動搬送台車(AGV)、高効率インバータ式コンプレッサー、LED照明+人感センサー
助成対象経費:機器購入費・設置費、AGVナビゲーション設定費、コンプレッサー・照明の撤去・更新工事費
効果:
AGV導入により作業員の移動負担が軽減され、労働災害リスクが低減。高効率設備によって年間電力使用量が削減され、脱炭素と経費削減を同時に実現した。職場環境の改善が従業員満足度向上にもつながった。
ケース2:介護施設における熱中症対策とEV導入
業種:介護サービス業
課題:
夏季に厨房や洗濯場の温度が著しく上昇し、作業者の体調不良や欠勤が相次いでいた。現場の負担軽減と職員の定着を図るため、労働環境面での見直しが必要であった。
導入設備:ミストファンおよびスポットクーラー(厨房・洗濯室・玄関)、遮熱フィルム貼付・換気設備の更新、蓄電池システム
助成対象経費:機器購入・設置工事費、遮熱改修工事費、充電設備導入費、使用研修・マニュアル作成費
効果:
熱中症対策設備により体感温度が大きく低下し、夏場の欠勤がゼロに改善。遮熱・換気対策と電力制御の組み合わせにより光熱費の削減にもつながり、職員の作業効率と満足度が向上した。結果として離職率が下がり、施設全体の運営安定にも貢献した。
設備投資で持続可能な経営を
本助成金は、単なる設備導入を支援するということだけでなく、「持続可能性」と「省力化・省人化」を両立した経営を行うための第一歩になると考えられます。制度はあくまで手段ですが、事業計画書の作成などを通じて自社の課題を整理し、将来につながる設備投資を行い、事業拡大に繋げていきたいところです。
変化の多い今だからこそ補助金や助成金をうまく活用して、今ある仕事を無理なく続けられる形にすることができれば、経営者の皆さまも従業員の皆さまもハッピーになれるのではないかと思います。よりよい職場づくりを始めるために、設備投資のハードルを少し下げてくれるこの制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
社会保険労務士法人プラットワークスでは、多数の企業様に補助金や助成金の支援を行っていることや、自ら補助金や助成金の採択・通過した実績を踏まえ、皆さまの支援をいたします。まずはご相談からでもお気軽にお問合せください。
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