もくじ
厚生労働省は2025年6月、2024年の出生数は68.6万人と発表し、はじめて70万人を下回りました。この数値は国立社会保障・人口問題研究所の将来推計よりも15年速いペースで少子化が進んでいるといわれています。このような少子化に伴う人材不足は深刻化しており、また共働きの家庭が増えている現状からも、男性女性共に子育てをしながらも働きやすい職場環境を整備していくことがより一層求められています。
また、子育て支援関連の規定(仕事と育児の両立支援制度)は以下の通り10種類程度存在しますが、育児休業や子の看護休暇など代表的なものを除いて事業主や労働者にはあまり知られておらず活用されていないのが現状です。
※厚生労働省「育児・介護休業法の解説」資料より
このような仕事と子育ての両立支援に積極的に取り組む企業の認定制度としては「くるみん認定」があげられます。この認定の取得には、優秀な人材獲得、公共調達の加点評価などの多くのメリットがあります。
今回はくるみん認定を取得したい事業主の方、子育て支援関連の規定や支援制度を包括的に知りたい労働者の方々に向けて子育て関連の規定、活用できる子育て支援制度についてシリーズ化して解説していきます。
第1回目のコラムでは子育て支援のベースとなる考え方を規定している次世代育成支援対策推進法の成立までの歴史とそこから具体化した内容を整備した育児休業法、育児休業制度について解説します。
次世代育成支援対策推進法とは?
「次世代育成支援対策推進法」は、少子化の進行に対処するために子どもが健やかに育成される社会形成を目的として平成15年7月に、基本理念を定め、国・地方公共団体・事業主による「行動計画」制定等の次世代育成支援対策を推進することを目的として制定されました。
基本理念として、次世代育成支援対策は「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的認識の下に、家庭その他の場において、子育ての意義についての理解が深められ、かつ、子育てに伴う喜びが実感されるように配慮して行われなければならない。」としています。
また、国・地方公共団体に対してはその理念にのっとり次世代育成支援対策を効果的に推進する責務を、事業主にはその雇用する労働者に関する多様な労働条件に整備や労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるように雇用環境の整備を行うことを責務として定めています。このように国・地方公共団体・事業主が一体となって社会が子育てしやすい環境整備をしていくことを義務付けた法律です。
この次世代育成支援対策推進法から具体的な育児・介護休業等に関する複数の規定が定められています。
育児休業規定と育児介護休業法の歴史
育児休業規定は育児・介護休業法をもとに制定されました。育児・介護休業法は育児休業・介護休業に関する制度や子の看護休暇、介護休暇に関する制度を定めた法律で、子育てや家族の介護と仕事の両立を図ることを目的として制定されました。
育児休業制度が法制化されたのは1992年で、「育児休業等に関する法律(育児休業法)」として施行されました。法制化の背景は、女性の社会進出や核家族化の進行、少子化による労働力不足などがあげられます。1995年には介護休業制度も盛り込まれ、「育児・介護休業法」となりました。その後深夜業や時間外労働、残業などの制限、この看護休暇、出生時育児休業などが創設されました。
育児休暇制度の国際比較
では、国際的には育児休暇制度はどのような内容となっているのでしょうか。日本と比較しながら解説していきます。
アメリカ:国レベルでの育休の制度は存在せず、それに近いのがFMLA(The Family and Medical Leave)とされています。家族が病気の際に12週間ほど休職できる制度があり、これを育休にあてることができます。ただし、金銭的な保障はなく無給となっています。また、適用条件が従業員50人以上の企業で1年以上勤務した場合になるため、厳しい条件となっています。なお、州レベルで独自の有給育児休暇制度が整備されており、例えばニューヨーク州では最大12週間の有給休暇制度があり、給与の67%(上限あり)支給されることとなります。一方でテキサス州は上記のような有給制度はなく、FMLAのみの適用となっており、居住州や勤務条件により、その制度の恩恵を受けられるかが変わってくることがわかります。
ノルウェー:最長3年間取得が可能で、共働きの場合満1歳までは両親で1年ずつ分割可能となります。また、賃金保障も42週間100%で受け取るか52週間80%で受け取るかを選ぶことができます。
スウェーデン:出産10日前から満8歳まで最大480日まで取得可能で、うち父親は90日割り当てられます。また、390日まで賃金80%の給付を受けることもできます。
中国:2021年の法改正以降、3歳未満の子をもつ夫婦それぞれに年間で累計5~15日間の育児休暇を取得することが認められました。この日数は地域により異なり、北京市や上海市では年間5日広東省では年間10日などとなっています。
フランス:子が満3歳になるまで両親のどちらかが取得できる養育休暇があります。育児休暇中の賃金保障についても、労働時間に応じた給付を設けられ、最高で月額429ユーロが支給されることになっています。2021年には男性育休の義務化となり、最大で25日間の育休取得ができ、そのうち7日間は育休取得が義務付けられました。
日本:原則子が満1歳になるまで、育児休暇を取得することができ、特定の条件を満たす場合は最長で2歳まで延長が可能です。休業中は50~67%の育児休業給付金が支給され、条件によってはさらに休業開始前賃金の13%である出生後休業支援給付を受けることが可能で、最大80%の給付を受けることができます。
実は日本の育休制度は「世界一位」といわれており、国際的には高く評価されています。特に父親に認められている育休の期間が原則1年(最長2年)と長いことが特徴といわれています。一方で、国際的にみても男性の育児休業取得率は依然として低く、令和5年度時点で30.1%でした。その背景としては職場や労働者において、育休取得は女性がするものというイメージや男性の長時間労働の傾向や育休取得に対してのプレッシャーを感じることなどが課題として挙げられます。
※ユニセフ「先進国における家族におけるやさしい政策ランキング」-父親が給付金を受給できる育児休業期間(週)
育児休暇制度の概要
育児休暇制度とは雇用保険制度の一部であり、原則として1歳未満の子を養育するために取得する休暇制度です。1歳未満の子1人につき原則2回まで取得可能となり、子を養育する労働者の申出により取得できます。
・休業期間
原則として子が1歳に達する前日までですが、1歳到達時点で以下の場合は1歳6か月まで延長できます。
①労働者本人又は配偶者が育児休業をしている
②保育所に入所できない
③1歳6か月までの育児休業をしたことがない場合
さらに、1歳6か月到達時点で同様の事情がある場合は、2歳まで延長可能です。申出回数は1歳まで2回、1歳6か月・2歳までは各1回とされています。
・給付金額
休業中は最初の6か月間は賃金の67%、その後からは50%の育児休業給付金の支給を受けられます。なお、2025年4月より、「出生後休業支援給付」が創設され、夫婦とも子どもの出生後8週間以内に14日以上の育児休業を取得した場合、休業開始前賃金の13%が支給され、育児休業給付と合わせて80%に引き上げられます。
対象者と条件
対象者は子育て中の雇用保険に加入している男女労働者となり、有期労働者は、子が1歳6か月(2歳までの休業は2歳)に達する日までに契約満了し、更新されないことが明らかでない場合は取得できます。
ただし労使協定により以下の労働者は対象外とすることができます。
①継続雇用1年未満
②申出日から1年以内に雇用終了予定(1歳6か月・2歳までの休業は6か月以内)
③週所定労働日数が2日以下の労働者
また、給付の条件としては以下4点が挙げられます。
①育休後に在職している職場に復帰予定である
②育休開始前2年間に賃金支払い基礎日数が月11日以上ある月が12か月以上ある
③育休中に支払われる給与が育休開始前の80%未満である
④育休中の就労時間が10日未満または80時間未満である
育児休業利用時の注意点
育児休業制度を利用する際は、以下の点を注意していくとよいでしょう。
・申出期限の確認
育児休業制度利用時は事前申請が必要で、休業開始予定日の1か月前までに申出が必要です。1歳以降の育児休業は、1歳(または1歳6か月)到達日前(パパ・ママ育休プラスの場合は終了予定日以前)の申出なら2週間前まで、到達日後の申出なら1か月前までに申出が必要です。
育児休業の申出は開始前日まで撤回できますが、1歳までの休業では1回の休業取得とみなされます。1歳6か月(または2歳)までの休業の場合は、特別な事情がない限り再申請できません。
・休業開始日の繰り上げと繰り下げ
一定条件下では、変更後の休業開始予定日1週間前までに申出をすることで休業開始日の繰上げができます。繰下げ(延長)も可能で、変更回数は1歳までの育児休業1回につき1回、1歳~1歳6か月までで1回、1歳6か月~2歳までで1回です。
・休業中の待遇
育児休業中は給与が支払われないことが多いですが、社会保険料の免除や育児休業給付金の利用ができるので、勤務先への確認や育児休業制度の対象者となっているかの確認が必要となります。
・雇用継続や復職保障のための整備(企業向け)
育児休業取得者に伴い、業務分担や人員確保の体制を整える必要があります。近年では一部の会社において、育児休業中の従業員の業務を代替した従業員に対して「業務代替手当」を支払うなど、育児休業取得者だけでなく、育児休業取得者の代替業務を行う従業員に対しても企業として支援する制度が整備されつつあります。
また、国としても、中小事業主が育児休業制度を利用した労働者の業務を代替する労働者に対して手当支給を行う際の助成金を支給する「両立支援助成金、育休中等業務代替支援コース」も2024年より新設されたので、この助成金制度を活用するとよいでしょう。
今回のコラムでは子育て関連の規定の一つである育児休業規定、育児休業制度について解説しました。日本の育児休業制度は国際的にみても手厚い保障制度があるものの、男性労働者を中心に利用率が依然として低い状況です。前述した通り、その背景として社会における女性の育児負担割合が多いことを当然とする認識、男性労働者を中心とした長時間労働や男性の育児休業取得への職場の理解不足などが課題として挙げられます。
このような職場の風土改善や制度改革においては企業の労務管理に精通し、企業の実態に応じたアドバイスのできる専門家のサポートが重要となります。
プラットワークスでは社内の規定改定のご支援や「くるみん認定」取得申請のご支援を積極的に行っております。
また、弊法人では人事労務アドバイザリー業務をおこなっており、日常的な労務管理に関するご相談から、このような例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。