「心の健康投資」で企業価値を高める|年間7.6兆円の損失を防ぐ経済効果と実践5ステップ

【2026年9月追記】労基署指導見直しと「心の健康投資」の重要性
政府の「骨太の方針2026」では労基署による一律の残業指導が見直される一方、前提として企業による過重労働対策など「健康確保措置」の徹底が強く求められています。
こうした自律的な労務管理の時代において、重要性を増しているのが「心の健康投資」です。
参照記事:【2026年9月施行】残業「45時間超」の一律指導緩和とは?~規制緩和の背景と企業に求められる「自律的労務管理」~

 

2025年3月、経済産業省が「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」を公開し、本格的に「心の健康投資」の啓発をスタートさせました。
「心の健康投資」とは、企業が従業員の心の健康のために行う取り組みで「経営戦略として将来的に収益性や企業価値向上(経済的リターン)をもたらす人的資本への投資」を指します。

現在このような心の健康投資に関する取り組みとしては、労働安全衛生法に基づいた産業医の設置、ストレスチェック義務化などがあげられます。また、近年は企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティ経営が重視され、企業の価値判断の指標となっていることで、ますますその重要性が高まっています。

 

そもそも「心の健康投資」とは何か|メンタルヘルス対策と人的資本経営の接点

WHO(世界保健機関)によると「心の健康」とは「人生のストレスに対処しながら、自らの能力を発揮し、よく学び、よく働き、コミュニティにも貢献できるような、精神的に満たされた状態」としています。
この状態はメンタル不調が発生していないだけでなく、仕事への活力や熱意がある「ワークエンゲージメント」の高い状態をさします。また、心の健康は従業員の個人的問題だけでなく、組織のパフォーマンスをあげるためにも必要不可欠で企業として取り組むべきものとしています。
また、「心の健康投資」とは、メンタルヘルス対策、定期健康診断の実施、メンタルヘルス支援アプリの導入など、従業員の心の健康状態を向上させるために、企業が意図的に行う投資行動をさします。

 

年間7.6兆円の経済損失――「プレゼンティズム」が及ぼす組織への影響

令和6年度労働安全衛生調査によると、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスと感じることがある人は68.3%にのぼり、多くの労働者がストレスを感じながら仕事をしていることがうかがえます。ストレスは業務効率の低下やハラスメントの増加を生み出し、仕事に悪影響を及ぼします。このような心身の不調により労働者出勤時のパフォーマンスが低下する状態(プレゼンティズム)だけでなく、心身の不調により労働者が欠勤や休職等の業務が行えない状態(アブセンティズム)を引き起こした場合、かかわる組織全体にも影響を及ぼしてしまいます。
参考記事:出勤しているのにパフォーマンスが低下?~「プレゼンティーズム」の損失と企業が取るべき対策~

過去のコラムで言及している通り、精神疾患を有する外来患者数、精神障害の労災認定数ともに近年の調査では過去最多を更新しており、より労働者の「心の健康課題」への対処が急務となっています。
また、2025年5月の横浜市立大学大学院の研究では、労働者がメンタル不調を抱えながら仕事を続けることで、日本全体で年間およそ7.6兆円の経済的損失が生じていることが明らかとなりました。この損失額は日本のGDPの1.1%に相当し、精神疾患の医療費の7倍に上るとの調査結果がでており、日本においても大きな損失となることがわかります。
※参考メンタル不調の影響、年間7.6兆円の生産性損失に-GDPの1.1%に相当と試算

 

投資対効果(ROI)は2倍以上――「心の健康投資」がもたらす3つのリターン

「心の健康投資」は、上記のような経済的損失を回避するだけでなく、大きなリターンを生むことができます。それは、従業員個人のパフォーマンスに限らず、組織マネジメント、企業のブランド価値向上に至るまで非常に高いリターンにつながります。

特に心の健康投資は投資した費用に対し、二倍以上の経済効果(ROI:投資対効果)を生み出すといわれています。
経済産業省「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」によると、従業員視点、管理職視点、経営者視点の三つの視点でのリターンがあげられます。

従業員視点での業務パフォーマンスの向上を土台として、従業員視点での業務パフォーマンスが向上することで、管理職視点での組織の活性化、そして最終的には企業価値の向上などの経営視点でのリターンにつなげることができます。

【従業員視点】業務パフォーマンスの向上
(ストレス耐性アップ/ワーク・エンゲージメント向上/生産性向上/事故・ミス低減)
    ↓
【管理職視点】組織マネジメントの改善
組織の活性化/心理的安全性の確保/人材定着・離職率低下/組織力強化)
    ↓
【経営者視点】企業価値・経済成果の向上
(企業業績アップ/イノベーション創出/企業価値向上/コンプライアンスリスク低減)

※経済産業省「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」より

【実践】心の健康投資を進める5つのステップ

「心の健康投資」についての施策を実施するときは健康管理だけでなく、組織マネジメント等の多角的な視点で検討する必要があります。
人事労務担当者だけでなく、事業部門や外部の専門家などと共同で課題を分析し、対策の実施と評価、改善のサイクルを回していきましょう。

①課題の分析

・組織の経営理念や方針、ありたい姿を確認し、現在の「心の健康」に関する課題を明確にする
・「心の健康」について調査を実施し、情報収集を行い、現在の組織の現状を把握する
・目指す状態とのギャップについてどのような対策が考えられるか検討する

②現在の体制、施策の評価

・現在行っている「心の健康」に関する取り組みの成果と課題を確認する
(ストレスチェックの結果、健康診断の受診データと受診率、労働時間、求職者・離職者数の推移など)

③具体的な対策の検討と決定

・課題分析と体制・施策の評価結果を踏まえ、取り組むべき対策を検討し具体化する
・組織文化や仕組みの見直しなど中長期的に取り組むべきこと、現状の問題を早急に解決する取り組みなど短期的に取り組むべきことを整理する
(ストレスチェック実施、心の相談窓口設置、心の健康に関する研修会実施、職場環境の改善、長時間労働の是正、柔軟な働き方の整備など)

④対策の実施

・社内の関係部門や外部の専門家等と協力しながら、具体的な対策内容の詳細を考え実施する

⑤評価・改善

・対策実施後の成果と生じた課題、その要因を分析して、対策の改善、継続につなげる

 

【2026年9月 補足】骨太の方針2026が求める健康確保措置と「心の健康投資」の両立

「健康確保措置」と「健康投資」の違いとは?

本記事冒頭で触れた「健康確保措置」と「心の健康投資」は、どちらも従業員の健康を守る取り組みですが、目的と性質に明確な違いがあります。

区分 健康確保措置(守りの労務) 心の健康投資(攻めの経営)
位置づけ 法令上の義務・最低限の基準 経営戦略・企業価値向上の取り組み
主な目的 長時間労働等による健康障害の防止・安全配慮義務 従業員のエンゲージメント向上・生産性改善
代表的な施策 ・医師による面接指導の実施
・勤務間インターバル制度の導入
・ストレスチェックの実施と事後措置
・ハラスメント防止
・相談窓口設置義務
・就業上の配慮(残業制限や配置転換など)

・研修プログラム導入
・ウェルビーイング向上アプリの導入
・エンゲージメント改善
・プレゼンティズム(未病による生産性低下)の予防・改善
・心理的安全性の高い職場環境づくり
・組織風土改革

関連する政策 労働安全衛生法、骨太の方針2026など 経済産業省「健康経営」、人的資本開示など

企業に求められる「2つの両立」

「骨太の方針2026」において行政指導の見直し(残業一律指導の廃止など)が進む中、企業には法令に基づく「健康確保措置(土台)」を自律的に全うすることが前提条件として求められています。
その上で、単なる法令遵守(コンプライアンス)にとどまらず、「心の健康投資」として経営戦略の中に組み込んでいくことが、過重労働を防ぎつつ企業の持続的成長を実現するための重要なポイントとなります。

なお、心の健康サービスの選択において判断に迷う場合、その選択を支援するツールとして経済産業省が運営している「ウェルココ」があげられます。「ウェルココ」では、「心の健康投資」の取り組み段階に応じて、適切なサービスを紹介しています。
 取組ステージから探す|ウェルココ 職域向け心の健康サービス選択支援ツール

プラットワークスでも「心の健康投資」に関する多様な支援を行っております。
弊法人では、ストレスチェック制度の整備など、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っております。
また、人事労務アドバイザリー業務を行っており、日常的な労務管理に関するご相談から例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

また。弊法人では、「心の健康サービス」のひとつとして、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlaTTalksを運営しております。職場における心身の健康に不安を感じている従業員にとって、相談することで心の負担を軽くするプラットフォームとして活用いただくことができます。
PlaTTalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、職場環境に問題がある場合は相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

関連サービス

人事アドバイザリー

日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。

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企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalks

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弊法人は、就業規則や評価制度の整備、業務改善支援など制度構築の支援を行っております。貴社の事業特性を組織風土を踏まえた運用しやすい制度をご提案することにより、貴社の社員の力を引き出し、事業のさらなる発展に寄与します。

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