「心の健康投資」とは?~心の健康投資の経済効果とその進め方~

2025年3月、経済産業省が「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」を公開し、本格的に「心の健康投資」の啓発をスタートさせました。

心の健康投資」とは、企業が従業員の心の健康のために行う取り組みで「経営戦略として将来的に収益性や企業価値向上をもたらす人的資本への投資」を指します。

現在このような心の健康投資に関する取り組みとしては、労働安全衛生法に基づいた産業医の設置、ストレスチェック義務化などがあげられます。また、近年は企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティ経営が重視され、企業の価値判断の指標となっていることで、ますますその重要性が高まっています。

心の健康と心の健康投資

WHO(世界保健機関)によると「心の健康」とは「人生のストレスに対処しながら、自らの能力を発揮し、よく学び、よく働き、コミュニティにも貢献できるような、精神的に満たされた状態」としています。
この状態はメンタル不調が発生していないだけでなく、仕事への活力や熱意がある「ワークエンゲージメント」の高い状態をさします。また、心の健康は従業員の個人的問題だけでなく、組織のパフォーマンスをあげるためにも必要不可欠で企業として取り組むべきものとしています。
また、「心の健康投資」とは、メンタルヘルス対策、定期健康診断の実施、メンタルヘルス支援アプリの導入など、従業員の心の健康状態を向上させるために、企業が意図的に行う投資行動をさします。

心の健康の仕事への影響と経済的損失

令和6年度労働安全衛生調査によると、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスと感じることがある人は68.3%にのぼり、多くの労働者がストレスを感じながら仕事をしていることがうかがえます。ストレスは業務効率の低下やハラスメントの増加を生み出し、仕事に悪影響を及ぼします。このような心身の不調により労働者出勤時のパフォーマンスが低下する状態(プレゼンティズム)だけでなく、心身の不調により労働者が欠勤や休職等の業務が行えない状態(アブセンティズム)を引き起こした場合、かかわる組織全体にも影響を及ぼしてしまいます

過去のコラムで言及している通り、精神疾患を有する外来患者数、精神障害の労災認定数ともに近年の調査では過去最多を更新しており、より労働者の「心の健康課題」への対処が急務となっています。

また、20255月の横浜市立大学大学院の研究では、労働者がメンタル不調を抱えながら仕事を続けることで、日本全体で年間およそ7.6兆円の経済的損失が生じていることが明らかとなりました。この損失額は日本のGDP1.1%に相当し、精神疾患の医療費の7倍に上るとの調査結果がでており、日本においても大きな損失となることがわかります。
※参考メンタル不調の影響、年間7.6兆円の生産性損失に-GDPの1.1%に相当と試算

心の健康投資に取り組むメリット

「心の健康投資」は、上記のような経済的損失を回避するだけでなく、大きなリターンを生むことができます。それは、従業員個人のパフォーマンスに限らず、組織マネジメント、企業のブランド価値向上に至るまで非常に高いリターンにつながります。

特に心の健康投資は投資した費用に対し、二倍以上の経済効果(ROI:投資対効果)を生み出すといわれています。
経済産業省「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」によると、従業員視点、管理職視点、経営者視点の三つの視点でのリターンがあげられます。

従業員視点での業務パフォーマンスの向上を土台として、従業員視点での業務パフォーマンスが向上することで、管理職視点での組織の活性化、そして最終的には企業価値の向上などの経営視点でのリターンにつなげることができます。

・従業員視点「業務パフォーマンス」
…ストレス耐性の向上、ワーク・エンゲージメントの向上による周囲へのサポート力向上、生産性向上、事故やミスの減少、メンタル不調リスクの軽減
    
・管理職視点「組織マネジメント」
…企業業績の向上、組織の心理的安全性の確保、人材確保(ワーク・エンゲージメントの高い従業員は離職の意思が低い)、離職率の低下、組織力の向上
    ↓
・経営者視点「企業経営」
…企業価値の向上、イノベーション、経営目標の達成、従業員エンゲージメント向上、法的リスク(コンプライアンス)の低減

経済産業省「健康経営における『心の健康』投資・実践ガイド」より

心の健康投資の進め方

「心の健康投資」についての施策を実施するときは健康管理だけでなく、組織マネジメント等の多角的な視点で検討する必要があります。
人事労務担当者だけでなく、事業部門や外部の専門家などと共同で課題を分析し、対策の実施と評価、改善のサイクルを回していきましょう。

①課題の分析
・組織の経営理念や方針、ありたい姿を確認し、現在の「心の健康」に関する課題を明確にする
・「心の健康」について調査を実施し、情報収集を行い、現在の組織の現状を把握する
・目指す状態とのギャップについてどのような対策が考えられるか検討する

②現在の体制、施策の評価
・現在行っている「心の健康」に関する取り組みの成果と課題を確認する
(ストレスチェックの結果、健康診断の受診データと受診率、労働時間、求職者・離職者数の推移など)

③具体的な対策の検討と決定
・課題分析と体制・施策の評価結果を踏まえ、取り組むべき対策を検討し具体化する
・組織文化や仕組みの見直しなど中長期的に取り組むべきこと、現状の問題を早急に解決する取り組みなど短期的に取り組むべきことを整理する
(ストレスチェック実施、心の相談窓口設置、心の健康に関する研修会実施、職場環境の改善、長時間労働の是正、柔軟な働き方の整備など)

④対策の実施
・社内の関係部門や外部の専門家等と協力しながら、具体的な対策内容の詳細を考え実施する

⑤評価・改善
・対策実施後の成果と生じた課題、その要因を分析して、対策の改善、継続につなげる

なお、心の健康サービスの選択において判断に迷う場合、その選択を支援するツールとして経済産業省が運営している「ウェルココ」があげられます。「ウェルココ」では、「心の健康投資」の取り組み段階に応じて、適切なサービスを紹介しています。
 取組ステージから探す|ウェルココ 職域向け心の健康サービス選択支援ツール

プラットワークスでも「心の健康投資」に関する多様な支援を行っております。
弊法人では、ストレスチェック制度の整備など、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っております。
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PlaTTalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、職場環境に問題がある場合は相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

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人事アドバイザリー

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企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalks

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