バーンアウトの構造と「燃え尽き」を防ぐワーク・エンゲージメント

近年働き方改革が進み、残業削減や福利厚生の改善が広がっています。それにも関わらず職場では、以前は高い成果を出していた従業員が急に意欲を失い、業務に消極的になるケースが目立つようになっています。一定期間は問題なく働けていたものの、急に情緒面の疲労や集中力の低下を示すケースも見られます。

このように、従業員の意欲が急に失われ、仕事への関わりが著しく弱まる状態を、一般に「バーンアウト(燃え尽き)」と呼びます。バーンアウトは、一般的な疲労とは異なり、仕事に向き合う心理状態そのものが変化したときに生じやすくなります。単なる休暇取得や部署変更では状態が変わらないこともあり、バーンアウトが個人の問題以上に、組織構造の影響を受けていることを示唆しています。

本コラムでは、バーンアウトを単なる「疲れ」では説明できない現象として捉え、組織構造と個人の心理状態が影響し合って生じる課題として整理します。

 

バーンアウトとは何か

バーンアウト(燃え尽き)は、長期間のストレス負荷により、仕事への活力や心理的エネルギーが大きく損なわれた状態を指します。単なる疲労とは異なり、休息による回復が十分に得られない点に特徴があり、仕事への姿勢や関わり方そのものに変化が生じることが重視されています。

一般に、バーンアウトは以下の3つの側面から構成されるとされています。
・情緒的疲労精神的エネルギーが消耗し、業務に向かう情緒的な余力が失われる
・仕事へのシニシズム(否定的態度)仕事そのものへの関心や価値づけが弱まり、気持ちが仕事から離れていく状態
・職務効力感の低下業務を遂行できるという感覚が弱まり、達成感が得にくくなる状態

こうした変化が重なると、従業員は意欲を保つことが難しくなり、業務への取り組みが低下していきます。外からは単に「やる気が落ちた」ように見えても、内側では疲弊や無力感が積み重なり、心理的な余力が失われていることが少なくありません。

 

バーンアウトを生み出す構造ー外発的動機づけの限界ー

バーンアウトは、意欲や体力の低下といった個人の問題だけで起こるものではありません。その背景には、意欲がすり減っていくような働き方や組織の設計といった、構造的な問題があります。

その代表例が、外発的動機づけに依存した働き方です。外発的動機づけとは、報酬、評価、承認といった外部からの刺激によって働く意欲が支えられている状態を指します。このあり方は短期的には成果を上げやすい一方で、長期的な意欲の維持には限界があります。

その限界は、評価や成果が得られない局面で顕在化します。成果によって支えられていた意欲が揺らぐため、仕事の意味や手応えを感じにくくなります。意欲が内側から保てなくなると、義務感や責任感によって業務を続ける状態へと移行しやすくなります。判断の基準が「やりたいかどうか(内発性)」から「やるべきかどうか(義務)」に移るため、疲れや消耗があっても無理をして業務を続けることが常態化します。その結果、不調は表に出にくくなり、限界に達した段階でバーンアウトとして表面化します。

重要なのは、バーンアウトを個人の努力不足として捉えるのではなく、動機づけのあり方そのものに限界があり、それを生み出しているのが組織の構造であると理解することです。

持続的熱意を育む「ワーク・エンゲージメント」

バーンアウトを防ぐためには、意欲を一時的に引き上げる方法ではなく、持続的に支えられる状態を整えることが重要になります。その鍵となる概念が、「ワーク・エンゲージメント」です。

ワーク・エンゲージメントは、仕事に対して前向きで充実した心理状態を指し、「活力」「熱意」「没頭」の3つの要素から構成されます。重要なのは、評価や報酬といった外部条件によって意欲が支えられているのではなく、仕事そのものに価値を見出せている状態であるという点です。従業員が主体的に仕事に関与し、安定した働きがいを感じている状態を表します。

ワーク・エンゲージメントが高い状態では、「やるべきだから続ける」のではなく「今の状態で続けられるか」を基準に仕事を進めます。そのため、疲れや消耗を無視せず、必要に応じて立ち止まったり調整したりすることができます。これは、義務感や責任感によって無理を重ねながら仕事を続ける状態とは大きく異なります。

 

バーンアウトを防ぐには―“制度”と“心理”の両面から―

バーンアウトを防ぎ、ワーク・エンゲージメントを高めるためには、個人の意識改革だけでは不十分です。ここで鍵となるのが、制度と心理の両面からのアプローチです。
制度を整えるだけでは、従業員が安心して相談できる土壌や、主体的に働きがいを育てるプロセスまでは支えられません。一方で、心理的ケアだけを行っても、業務量や組織文化が変わらなければ、再び同じ状況に戻ってしまいます。

そのため、企業には以下の両面からのアプローチが求められます。
・ストレスチェック制度、業務量管理、再発防止策などの「制度的支援」
・早期相談、心理教育、動機づけ支援などの「心理的支援」

この2つが両立することではじめて、バーンアウトの発生・再発を防ぎ、ワーク・エンゲージメントを高める体制が機能します。つまり、意欲がすり減らない構造を制度で整え、意欲が育ちやすい状態を心理の側面から支えることが重要になります。これによって、持続的な熱意と健康的な働き方が両立する組織が実現します。

 

「制度」と「感情」の間で:PlaTTalksが果たす役割

バーンアウトは、時代や業界に関係なく多くの企業が向き合う課題であり、組織の論理と個人の感情との間で生じる問題といえます。しかし、実際には、人事制度の整備と、従業員一人ひとりの心理的なケアが分断されたまま進められているケースも少なくありません。

PlaTTalksは、労務の専門家(社労士)と心理の専門家(カウンセラー)が協働し、制度設計から心理支援までを一体的に提供する国内唯一のサービスです。
労務と心理の両面からアプローチすることで、企業が直面しがちな「制度は整っているが人が育たない」「相談窓口があっても活用されない」といったギャップを埋めることができます。

制度と心理を統合したアプローチにより、従業員が“燃え尽きない”だけでなく、主体的に働き続けられる状態をつくることが可能になります。
持続的な働きがいを高め、組織基盤を強化したい企業様は、ぜひ一度ご相談ください。
PlaTTalksは、貴社の事業特性に合わせて、労務リスクとメンタルヘルスを同時に改善するための支援をご提案いたします。

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「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。カウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

人事制度の歴史から見る今の企業に必要な評価軸とは ~貢献が価値を生む組織へのシンカ~
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