宿日直許可の基準と労務リスク対策|是正勧告事例やJILPT調査で解説

本コラムでは、宿日直許可の基準、最新の是正勧告事例、企業側が配慮すべきリスク対策を詳しく解説します。

1.労働基準法における宿日直の扱い

宿日直とは、使用者の命令によって一定の場所に拘束され、緊急電話の受理、外来者の対応、盗難の予防などの特殊業務に従事する者で、夜間にわたり宿泊するものを宿直といい、勤務内容は宿直と同一だが時間帯が主として昼間であるものを日直といいます。

宿日直は、労働基準法第41条 監視・断続的労働の一態様として規定があり、労働基準監督署長の許可を受けた場合は、労働時間、 休憩及び休日に関する規定の適用を除外することができます。深夜労働(午後10時から午前5時)に関する規定の適用は除外されないため、深夜労働の場合は割増賃金(2割5分以上)の支払いが必要です。

2.労働基準法における宿日直許可の基準

(1)一般許可基準

 断続的な宿日直の許可の基準(一般許可基準)

【勤務の態様】

  • ① 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可するものであること。
  • ② 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可しないものであること。

【宿日直手当】

宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。

【宿日直の回数】

許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とすること。
ただし、当該事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足であり、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週1回を超える宿直、月1回を超える日直についても許可して差し支えないこと。

【その他】

宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること。

【2026年10月21日追記】
労働政策研究・研修機構(JILPT)が発表した実態調査(2026年10月)によると、宿直許可を受けた事業場の1割超(10.6%)が、法令で認められた許可回数(原則週1回)を超えて宿直に従事させている実態が明らかになりました。
さらに、許可回数を超えて従事させた際、その超えた時間帯すべてに対して別途賃金を支払っていた事業場はわずか3割にとどまっています。
許可を取得していても、実態として回数オーバーや賃金未払いが生じている場合、是正勧告のリスクが高まります。改めて自社の運用状況をご確認ください。

(2)医療現場・社会福祉施設における個別基準

2024年からの「医師の働き方改革」に伴い、特に医療現場での基準が明確化されています。
前記の一般的な許可基準に加えて、より具体的な判断基準が示されており、許可を得るには、全ての条件を満たす必要があります。
詳細:断続的な宿日直の許可基準(医師、看護師等の場合)※R1基発0701第8号

また、社会福祉施設における宿直勤務についても詳細な基準が設けられています

「社会福祉施設における宿直勤務許可の取扱いについて」(昭49.7.26基発387号)

① 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。

② 夜間に従事する業務は、一般の宿直業務のほかには、少人数の入所児・者に対して行う夜尿起こし、おむつ取替え、検温等の介助作業であって、軽度かつ短時間の作業*に限ること。したがって、夜間における児童の生活指導、起床後の着衣指導等通常の労働と同態様の業務は含まれないこと。

③ 夜間に十分睡眠がとりうること。

実態が「通常業務」であれば、宿日直は成立せず、全時間が労働時間扱いとなります。宿日直の許可条件は上記のように細かく定められており、許可を得るには業務の実態が基準に沿っているか審査が行われます。

3.最新の是正勧告事例(東京メトロ)

許可基準に記載されている条件と実態が異なる場合は、是正勧告の対象となる可能性があります。

2024年東京地下鉄(東京メトロ)は、信号や防犯カメラ、電話機などの保守を担当する職場において、24時間拘束される全泊勤務の社員の休憩時間が労働時間に当たるとして、足立労働基準監督署から是正勧告を受けたことを発表しました。 対象者は約1,800人、未払い分として過去3年間で65億7千万円を対象従業員へ清算しています。
参考:東京メトロ 是正勧告について/第21期 定時株主総会

労基署は、泊まり勤務中、夜間や朝に設けている休憩・睡眠時間計7時間50分について、機器の不具合などで緊急対応する頻度が増えているとして、労働時間に該当するとの見解を示しました。

許可を得ていたとしても、実態が変われば労働時間となり、こうした是正勧告の対象となりえます。

4.企業側が配慮すべきこと

宿日直の許可基準である「ほとんど労働がない状態」を守ることは、従業員の睡眠の質を守り、メンタルヘルス不調を防ぐことに直結します。
シニア世代にとって、適度な緊張感のある宿日直業務は社会参画の場として人気がありますが、それも「実態が軽い」ことが大前提です。実態に即さない運用は、現場の疲弊を招き、離職につながる可能性があります。シニア層を配属する場合は、加齢に伴う健康リスク(血圧変動や睡眠の質の低下)への配慮は不可欠です。

宿直の場合は、仮眠室の設置および夜間に十分は睡眠がとりうることが条件となっています。許可を申請する際には仮眠室の見取り図や写真など、実際の設備の状況が分かる資料の添付が求められます。
仮眠室は、体を伸ばして横になれるベッドがあること、音や振動、照明が遮断され、個室または男女別になっていること、適切な空調がなされていることなどが理想とされています。
つど交換される清潔なリネンが用意されているなお良いでしょう。 

宿日直を行う医療機関や福祉施設では、シフト制で取り入れているところも多いでしょう。労働者の年齢、ライフステージ、健康状態によって、可能な働き方や負担感は異なります 。
全員に一律の回数を課すのではなく、個々の状況に合わせて回数を調整できる柔軟な体制を構築することで、結果として離職を防ぎ、必要な人員を確保しやすくなります 。

現場での細やかな配慮は欠かせませんが、「宿日直」という厳格な許可基準が設けられた背景には、命を預かる医療や福祉サービスが、いかなるときも安全に提供される必要性があります。

5.宿日直許可の背景と法改正の動向

(1) 宿日直許可の背景と義務緩和

国が医療機関や福祉施設において宿日直の配置を義務付けてきた背景には、人命を守るための教訓があります。医療法では緊急時の診療体制を確保するため、社会福祉施設では過去に起きた悲痛な火災事故を二度と繰り返さないための防火安全対策として、宿直者の配置を義務づけてきました。
しかし、深刻な人手不足を受け、現在は夜勤職員の適正配置や迅速な駆けつけ体制を条件に、宿直配置を緩和する動きが広がっています。

医療機関では、病院に隣接した場所(同一敷地や併設施設)で速やかに診療できる体制がある場合は宿日直の配置が免除されます。隣接しない場合でも、常時の連絡体制や医師の迅速な駆けつけ、適切な電話指示等の条件を満たし、知事の承認を受ければ例外として宿日直の配置の免除が認められます。

また、特別養護老人ホームや身体障害者療護施設については、夜勤職員基準を満たす夜勤職員を配置している場合には、夜勤職員と別に宿直者を配置しなくても差し支えないとされています。

(2)「医師の働き方改革」による許可申請の急増

2024年4月医師の働き方改革により、36協定の時間外労働上限規制が適用されたことをきっかけに、医療機関での宿日直許可の申請が急増しました。許可を得ることで、時間外労働の上限規制の対象外とされるだけでなく、「勤務間インターバル」についても特例があります。許可を得た上で、24時間以内に9時間以上の宿日直に従事すれば、勤務間インターバルを確保したとみなされます。医療機関において宿日直許可の取得は法令遵守と運営継続を両立するための重要な役割を担っています。

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(3)2026年改正見送りと、これからの宿日直体制

2026年に検討された「勤務間インターバルの義務化(原則11時間)」は、現政権の方針により改正案の提出が見送りとなりました。
しかしながら、日本の医療は、医師の献身的な長時間労働により支えられてきた側面があります。医師が健康に働き続ける環境を整備することで、医療の質と安全を確保するためには、勤務間インターバルの確保は、今後も重要な検討課題となります。

医師の長時間労働や深刻な人手不足の背景から、従来の宿直体制を見直す動きがあります。
先進的な医療機関では、軽症患者への対応が多い診療科を宿直から「オンコール制(自宅待機)」へ移行しました。スマートフォンを活用し、病院外からでも電子カルテや検査結果を確認できる環境を整備しました。医師が自宅等でリラックスして過ごせる時間を増やし、翌日の日勤帯のパフォーマンス低下防止につなげています。
参考:厚生労働省 医療機関の勤務環境改善に向けた好事例集

人手不足が深刻化する現在、宿日直勤務において「ほとんど労働をする必要がない状態」を保つには限界があります。
見守りセンサーや遠隔監視カメラの導入により、巡回の回数を減らし、宿日直者の負担を物理的に軽減するなどのICT活用や、睡眠環境の整備を行い、働く人の負担を軽減させる取り組みが必要とされています。

▼ 関連コラム(労働基準法41条の適用除外)
監視・断続的労働の許可基準と労務リスク|適用除外の落とし穴とJILPT最新調査
宿日直許可と同じ「労基法41条3号」に基づく、監視・断続的労働の許可要件や長時間拘束のリスクについて解説しています。

6.【2026年10月21日追記】許可を取得していても危険?JILPT最新調査に見る「許可回数オーバー」の実態

2026年10月に労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表した『監視・断続的労働許可又は宿日直許可を受けて一定期間が経過した事業場における制度運用実態に関する調査』によると、許可取得済みの事業場であっても法令違反・未払いリスクに直面している実態が明らかになりました。
参考資料:JILPT『調査シリーズNo.269 監視・断続的労働許可又は宿日直許可を受けて一定期間が経過した事業場における制度運用実態に関する調査』

(1)宿直許可を受けている事業場の「1割超」が許可回数オーバー

労働基準監督署から宿直許可を受けた事業場のうち、10.6%(およそ10社に1社)が法令で認められた許可回数(原則:週1回)を超えて従事させています。

許可を超えた回数(週あたり) 該当事業場の割合
1回超過 4.3%
2回超過 2.6%
3回以上超過 3.7%
【合計】許可回数オーバー 10.6%

(2)超過分への賃金未払いリスク(割増賃金不払いの懸念)

さらに深刻なのは、許可回数を超えて宿日直を行わせた際、「超えた時間帯のすべてに対して別途賃金(通常の労働時間としての割増賃金)を支払った」と回答した事業場はわずか3割(30.0%)にとどまる点です。

残る7割近くの事業場では、許可範囲を超えた労働時間に対して適切な賃金が支払われていない可能性があり、労基署の是正勧告や未払い賃金請求の重大なリスクを抱えていることが分かります。

(3)【実務上のアドバイス・チェックポイント】

宿日直許可は一度取得すれば無期限に有効というわけではありません。
「人員不足だから」「現場の慣習だから」と許可範囲(週1回・月1回)を超えて宿日直を割り振っている場合、超過した勤務時間は「通常の労働」とみなされ、遡って割増賃金(深夜割増含む)の清算を命じられるリスクがあります。
自社の運用が「許可時の申請内容」および「実際の勤務実績」と剥離していないか、改めて勤務記録と給与計算の点検を行うことを強く推奨します。

参考資料:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)『調査シリーズNo.269 監視・断続的労働許可又は宿日直許可を受けて一定期間が経過した事業場における制度運用実態に関する調査』(2026年10月)
PDF
調査シリーズNo.269 本文
調査シリーズNo.269 調査票
調査シリーズNo.269 付属統計表

(4)補足:今回のJILPT調査の背景と目的

JILPTは、厚生労働省の管轄下にある独立行政法人で、「労働政策に関する調査研究」と「その成果に基づく政策提言」を行う専門機関です。
法改正の直後だけでなく、法整備から数年~十数年が経った段階で、「許可取得後、現場で形骸化(有名無実化)していないか?」「時代の変化(人手不足や業務内容の変化)により、制度と実態がズレていないか?」といった視点から制度運用の実情を把握するために実態調査を行います。

今回の調査(No.269)も、平成30年~令和3年に許可を取得した事業場を追跡調査することで、「許可取得から数年経った現場の実態」を浮き彫りにしています。
「宿日直許可」自体は昔から存在する制度ですが、近年以下の大きな環境変化がありました。

・2024年4月: 医師の働き方改革(時間外労働上限規制)の本格適用により、医療機関等で宿日直許可の申請が急増

・慢性的な人手不足: 少子高齢化に伴い、規定の人数や回数でシフトを回せない現場が増加

こうした背景を受け、「制度が現場で適切に機能しているか」「1割の回数オーバーや7割の賃金未払いといった歪みが生じていないか」を政策判断の材料として提示するために実施されたのが今回の調査です。

プラットワークスでは、労働基準監督署への宿日直許可申請の代行や、現状の勤務実態が許可基準に適合しているかのリーガルチェックを行っております。
労務管理に関するお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。

また、すぐに契約というほどではないが「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人では受けております。企業様のご相談のほか、個人の方からの相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表が相談内容を聞き、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスを行います。

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