「宿日直許可」とは?

本コラムでは、宿日直の許可基準、最新の是正勧告事例、企業側が配慮すべき事を詳しく解説します。

1.労働基準法における宿日直の扱い

宿日直とは、使用者の命令によって一定の場所に拘束され、緊急電話の受理、外来者の対応、盗難の予防などの特殊業務に従事する者で、夜間にわたり宿泊するものを宿直といい、勤務内容は宿直と同一だが時間帯が主として昼間であるものを日直といいます。

宿日直は、労働基準法第41監視・断続的労働の一態様として規定があり、労働基準監督署長の許可を受けた場合は、労働時間、 休憩及び休日に関する規定の適用を除外することができます。深夜労働(午後10時から午前5時)に関する規定の適用は除外されないため、深夜労働の場合は割増賃金(25分以上)の支払いが必要です。

2.宿日直の許可基基準

(1)一般許可基準

 断続的な宿日直の許可基準(一般許可基準)

【勤務の態様】

  • ① 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可するものであること。
  • ② 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可しないものであること。

【宿日直手当】

宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。

【宿日直の回数】

許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とすること。
ただし、当該事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足であり、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週1回を超える宿直、月1回を超える日直についても許可して差し支えないこと。

【その他】

宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること。

(2)医療現場・社会福祉施設における個別基準

2024年からの「医師の働き方改革」に伴い、特に医療現場での基準が明確化されています。

前記の一般的な許可基準に加えて、より具体的な判断基準が示されており、許可を得るには、全ての条件を満たす必要があります。

詳細:断続的な宿日直の許可基準(医師、看護師等の場合)※R1基発0701第8号

また、社会福祉施設における宿直勤務についても詳細な基準が設けられています

「社会福祉施設における宿直勤務許可の取扱いについて」(昭49.7.26基発387号)

① 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。

② 夜間に従事する業務は、一般の宿直業務のほかには、少人数の入所児・者に対して行う夜尿起こし、おむつ取替え、検温等の介助作業であって、軽度かつ短時間の作業*に限ること。したがって、夜間における児童の生活指導、起床後の着衣指導等通常の労働と同態様の業務は含まれないこと。

③ 夜間に十分睡眠がとりうること。

実態が「通常業務」であれば、宿日直は成立せず、全時間が労働時間扱いとなります。宿日直の許可条件は上記のように細かく定められており、許可を得るには業務の実態が基準に沿っているか審査が行われます。

3.最新の是正勧告事例(東京メトロ)

許可基準に記載されている条件と実態が異なる場合は、是正勧告の対象となる可能性があります。

2024年東京地下鉄(東京メトロ)は、信号や防犯カメラ、電話機などの保守を担当する職場において、24時間拘束される全泊勤務の社員の休憩時間が労働時間に当たるとして、足立労働基準監督署から是正勧告を受けたことを発表しました。 対象者は約1,800人、未払い分として過去3年間で65億7千万円を対象従業員へ清算しています。
参考:東京メトロ 是正勧告について/第21期 定時株主総会

労基署は、泊まり勤務中、夜間や朝に設けている休憩・睡眠時間計7時間50分について、機器の不具合などで緊急対応する頻度が増えているとして、労働時間に該当するとの見解を示しました。

許可を得ていたとしても、実態が変われば労働時間となり、こうした是正勧告の対象となりえます。

4.企業側が配慮すべきこと

宿日直の許可基準である「ほとんど労働がない状態」を守ることは、従業員の睡眠の質を守り、メンタルヘルス不調を防ぐことに直結します。
シニア世代にとって、適度な緊張感のある宿日直業務は社会参画の場として人気がありますが、それも「実態が軽い」ことが大前提です。実態に即さない運用は、現場の疲弊を招き、離職につながる可能性があります。シニア層を配属する場合は、加齢に伴う健康リスク(血圧変動や睡眠の質の低下)への配慮は不可欠です。

宿直の場合は、仮眠室の設置および夜間に十分は睡眠がとりうることが条件となっています。許可を申請する際には仮眠室の見取り図や写真など、実際の設備の状況が分かる資料の添付が求められます。
仮眠室は、体を伸ばして横になれるベッドがあること、音や振動、照明が遮断され、個室または男女別になっていること、適切な空調がなされていることなどが理想とされています。
つど交換される清潔なリネンが用意されているなお良いでしょう。 

宿日直を行う医療機関や福祉施設では、シフト制で取り入れているところも多いでしょう。労働者の年齢、ライフステージ、健康状態によって、可能な働き方や負担感は異なります 。
全員に一律の回数を課すのではなく、個々の状況に合わせて回数を調整できる柔軟な体制を構築することで、結果として離職を防ぎ、必要な人員を確保しやすくなります 。

現場での細やかな配慮は欠かせませんが、「宿日直」という厳格な許可基準が設けられた背景には、命を預かる医療や福祉サービスが、いかなるときも安全に提供される必要性があります。

.宿日直許可の背景と法改正の動向

(1) 宿日直許可の背景と義務緩和

国が医療機関や福祉施設において宿日直の配置を義務付けてきた背景には、人命を守るための教訓があります。医療法では緊急時の診療体制を確保するため、社会福祉施設では過去に起きた悲痛な火災事故を二度と繰り返さないための防火安全対策として、宿直者の配置を義務づけてきました。
しかし、深刻な人手不足を受け、現在は夜勤職員の適正配置や迅速な駆けつけ体制を条件に、宿直配置を緩和する動きが広がっています。

医療機関では、病院に隣接した場所(同一敷地や併設施設)で速やかに診療できる体制がある場合は宿日直の配置が免除されます。隣接しない場合でも、常時の連絡体制や医師の迅速な駆けつけ、適切な電話指示等の条件を満たし、知事の承認を受ければ例外として宿日直の配置の免除が認められます。

また、特別養護老人ホームや身体障害者療護施設については、夜勤職員基準を満たす夜勤職員を配置している場合には、夜勤職員と別に宿直者を配置しなくても差し支えないとされています。

(2)「医師の働き方改革」による許可申請の急増

20244月医師の働き方改革により、36協定の時間外労働上限規制が適用されたことをきっかけに、医療機関での宿日直許可の申請が急増しました。許可を得ることで、時間外労働の上限規制の対象外とされるだけでなく、「勤務間インターバル」についても特例があります。許可を得た上で、24時間以内に9時間以上の宿日直に従事すれば、勤務間インターバルを確保したとみなされます。医療機関において宿日直許可の取得は法令遵守と運営継続を両立するための重要な役割を担っています。

(3)2026年改正見送りと、これからの宿日直体制

2026年に検討された「勤務間インターバルの義務化(原則11時間)」は、現政権の方針により改正案の提出が見送りとなりました。
しかしながら、日本の医療は、医師の献身的な長時間労働により支えられてきた側面があります。医師が健康に働き続ける環境を整備することで、医療の質と安全を確保するためには、勤務間インターバルの確保は、今後も重要な検討課題となります。

医師の長時間労働や深刻な人手不足の背景から、従来の宿直体制を見直す動きがあります。
先進的な医療機関では、軽症患者への対応が多い診療科を宿直から「オンコール制(自宅待機)」へ移行しました。スマートフォンを活用し、病院外からでも電子カルテや検査結果を確認できる環境を整備しました。医師が自宅等でリラックスして過ごせる時間を増やし、翌日の日勤帯のパフォーマンス低下防止につなげています。
参考:厚生労働省 医療機関の勤務環境改善に向けた好事例集

人手不足が深刻化する現在、宿日直勤務において「ほとんど労働をする必要がない状態」を保つには限界があります。
見守りセンサーや遠隔監視カメラの導入により、巡回の回数を減らし、宿日直者の負担を物理的に軽減するなどのICT活用や、睡眠環境の整備を行い、働く人の負担を軽減させる取り組みが必要とされています。

プラットワークスでは、労働基準監督署への宿日直許可申請の代行や、現状の勤務実態が許可基準に適合しているかのリーガルチェックを行っております。労務管理に関するお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。

また、すぐに契約というほどではないが「専門家に相談したい」といった、スポット的なアドバイザリーも弊法人では受けております。企業様のご相談のほか、個人の方からの相談についても、元労働基準監督官である弊法人の代表が相談内容を聞き、ご状況を踏まえつつ個別のアドバイスを行います。

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