もくじ
ENEOSやクボタ社などの大企業において、主に事務系やIT職などを中心として新卒の採用数を減らす動きが増えています。「企業の新卒採用実態調査2026」(日経ビジネス・リクルートマネジメントソリューションズ)によると、調査に回答した企業の3割について、新卒採用の停止や枠の縮小を検討したとの結果がでています。また、早期退職や希望退職の募集も相次ぎ、大規模な人員削減も目立ってきています。
※日経ビジネス・リクルートマネジメントソリューションズ「企業の新卒採用実態調査2026」より
2025年度に人手不足倒産が過去最多(442件)を記録し、中小企業を中心に全国的に人手不足が深刻化している一方、一部企業では採用枠を減らす動きがでているのはなぜでしょうか。そこには労働市場における需要と供給の構造的な問題による失業である「構造的失業」が関係しています。
今回のコラムでは新卒採用の縮小となっている現象とその背景について、「構造的失業」の視点から解説し、これからの労働市場の変化に対応しつつ、事業を継続し成長させていく上で、企業としてできることをお伝えしていきます。
新卒採用枠の縮小と労働市場の需給バランス
従来日本では伝統的な雇用の慣行として年功序列で採用から定年まで働き続けることを前提とし、新卒をポテンシャル枠として一括採用し未経験から育てる「メンバーシップ型」採用を行っていました。しかし、近年は大手企業を中心として、業績が良くても新卒採用数の縮小をしたり、一括採用を廃止し、職種や専門性に応じて通年採用をしたりする動きがみられています。このように多く新卒者を採用するより、適性を重視して採用をしぼるといった流れが広がっています。
その一方で地方の企業においては求人難で人が集まらない課題が生じています。
このようにして労働市場全体に、特定の業界への人材の集中とそれ以外での業界での人手不足という需要と供給バランスの二極化が起きてしまっています。
構造的失業とは
構造的失業とは、労働市場において「働きたい人(労働の供給)」と「企業が求める条件(労働の需要)」の間に、何らかのミスマッチ(ズレ)が生じているために発生する失業のことです。景気が悪いから仕事がない状態ではなく、「仕事はあるのに、何らかの理由で条件が合わなくて埋まらない」という状態を指します。
また、この構造的失業は大企業と中小企業において異なる背景によってそれぞれ発生しています。
・大企業における構造的失業
大企業においては需要に対して供給(労働力)が過多となっていることによる構造的失業が発生します。これは、主に産業構造や採用の型の変化に伴う採用枠の縮小が関係しています。例えば、AI台頭などの産業構造の変化による既存のスキルが通用しなくなった既存の従業員の社内失業、メンバーシップ型からジョブ型雇用への転換により従来はメンバーシップ型で採用されていた求職者が採用されなくなるなどがあげられます。
・中小企業における構造的失業
中小企業においては需要に対して供給が足りていないことによる構造的失業が発生しています。つまり、仕事(需要)はたくさんあるのに、人が来ないという欠員による機会損失が起きていることがあげられます。待遇や福利厚生などの労働条件が求職者の希望と合致しないことが原因とされます。
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項目 |
大企業 |
中小企業 |
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主な原因 |
技術革新(IT/AI)へのスキル不足 |
待遇・労働条件のミスマッチ |
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失業の形態 |
社内失業、または早期退職による人材流出 |
慢性的な人手不足と採用難 |
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求められる人材 |
高度専門職、即戦力のデジタル人材 |
汎用的な実務能力、定着性の高い人材 |
構造的失業が発生する主な要因
構造的失業は、主に以下のミスマッチによって引き起こされます。
①スキルのミスマッチ(職業的ミスマッチ)
産業構造が変化し、古い技術が不要になる一方で、新しい技術(AIやITなど)が必要とされる際に起こります。これが、人手不足と採用枠の縮小が併存している大きな理由となります。
| 例)AIの台頭で事務職希望者が余っている一方、専門・技術職では人手が全く足りない。しかし、事務職希望者がすぐに技術職にはなれないため、求職活動をおこなってもミスマッチが発生し、就業につながらない。 |
②地域のミスマッチ(地理的ミスマッチ)
「仕事がある場所」と「住んでいる場所」が離れているために起こります。地方の企業において、人手不足が多く起きるのはこの地域のミスマッチが要因となります。
| 例) 地方で若者が仕事を探しているが、求人は都市部に集中している。引越し費用や家族の都合で移動できない場合、失業状態が続く。 |
新卒採用枠の縮小と構造的失業の関係
主に大企業において行われている新卒採用の縮小は、一見すると景気の問題によるものとされますが、実際は日本の労働市場における構造的失業が大きく影響しています。構造的失業の以下の二つの視点で、新卒採用の縮小が増えている背景を解説します。
①AIの台頭による産業構造の変化に伴う採用枠縮小
…AIが台頭したことにより、主に事務職等の定型業務を行うホワイトカラーの労働力の需要が減少し、高度なITスキルを持つ人材への需要が急増しています。この産業構造の変化により、主に新卒や若手従業員が担っていた業務がAIに代替されることで、新卒採用枠が減少しているとされています。
②量から質への採用要件の変化による採用の厳格化
…生産性の向上や人材流動性の活性化等を新卒採用枠であってもメンバーシップ型の採用から、ジョブ型の採用にシフトしていく傾向になっています。それにより、未経験の新卒を一括で大量採用し、育てるメリットが薄れ、AIでは真似できない特定のスキルを持つ人材が優遇されるようになります。
今後の労働市場の変化と企業が今からできる対策
では、今後の労働市場ではどのような変化が起こりうるのでしょうか。また、その変化に対応していき、持続的に企業が成長していくためにはどのような視点で人材育成をしていくとよいのでしょう。
プラットワークスでは今後は大企業も組織の規模が小さくなっていく・そしてよりよいサービスの質が求められると予測しています。サービスの情報がすぐに手に入り、その選択肢が多い現代において、人々は利用するサービスに対して、質や個別性を求めています。つまり、「皆にとっていいものか」よりも「自分にあっているか」「品質が良いか」という視点をより重視するようになっていくでしょう。
①リスキリング
上記の傾向を踏まえ、企業はより質の高いサービスを提供するためにも、変化する労働市場に即した従業員のスキル形成を行い、新たな価値を生み出していくことが必要となります。具体的には既存従業員のリスキリングがあげられます。たとえば、デジタル化に対応するためDX推進のためのスキル習得支援などがあげられます。AIが普及し、これまでの知識や技術が通用することがなくなることで、生産性の向上や新たなアイディア・付加価値を生み出すことにつなげられます。
②働きやすい職場制度設計
また、健康経営が企業の価値判断における重要な評価指標となっているように、従業員が心身ともにすこやかで働きやすい職場であることはサービスを利用する消費者側にとっても評価の対象となります。働きやすい職場環境が整っている企業においては、優秀な人材確保につながるだけでなく企業イメージの向上につなげることができます。フレックスタイムやリモートワークのような柔軟な働き方の制度設計だけでなく、心理的安全性の高い職場づくりもしていくとよいでしょう。
特にジョブ型採用に移行し、企業に頼らずに、個人が自身のキャリアに責任を持ち、自律的にキャリア形成していくことが求められる現代においては、企業に対して「ケアの倫理」の考え方をもとに心理的安全性の高い職場づくりを担う責任が増していくと予想されます(ケアの倫理①、ケアの倫理②)。
そして、特に中小企業にとって、働きやすい職場環境づくりを充実させることは、採用活動においてもほかの企業と差別化することができます。
③納得感のある人事評価制度設計
上記のような心理的安全性の高い職場づくりのためには、1 on 1やメンター制度などにより従業員が気軽に相談しやすい風土づくりはもちろんのこと、従業員が成長できる機会の提供と役割や責任の明確化、それに対する成果や貢献への積極的な評価が重要となります。
従業員の価値貢献や成長段階を適切に捉えられる人事制度設計と運用が重要です。その方法として、「役割の拡大と深化」があげられます。複数の役割を担いキャリアの幅をもたせること(拡大)と同じ業務でも安定したクオリティでこなせるようになること(深化)は、長期目線で従業員にとってのキャリア上の価値をつくります。このような複数の役割を担う機会と深化するチャンスを会社が提供することで、組織力を高めながらも個人が一つの役割に依存せずに、成長実感を得られるキャリアを築いていくことができます。(役割貢献制度については過去コラム参照)
今回のコラムでは構造的失業の視点から、新卒枠の採用減の背景とこれからの労働市場の変化と企業に求められる対応について説明しました。
このような労働市場を取り巻く変化が著しい現代の人事制度設計においては、労働市場や労務管理に精通した専門家のアドバイスを求めることが大切です。
プラットワークスは、「やりがい」や「自己成長」といった働くことの精神的価値が人生の豊かさに大きく影響すると考えており、その働くことによる楽しさを、過度に自己犠牲することなく、すべての人が感じられるような組織づくりを仕事としております。このような考えのもと、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っておりますので、ぜひご活用ください。
また、人事労務アドバイザリー業務を行っており、日常的な労務管理に関するご相談から例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
さらに、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlaTTalksを運営しております。従業員にとって、外部の相談窓口として活用いただくことができます。
PlaTTalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。



