出勤しているのにパフォーマンスが低下?~「プレゼンティーズム」の損失と企業が取るべき対策~

協会けんぽの調査24年度)によると、業務外のケガや病気で働けなくなった際に受給される給付金である傷病手当金の支給件数のうち、精神疾患を占める割合が39.1%となり、5年で1.6倍に増えています。
一方、出勤はしているものの、メンタルヘルス不調をはじめ、睡眠不足や疲労などによって心身の不調をかかえたまま本来のパフォーマンスを発揮できない状態の労働者も多くいます。さらに、少子高齢化を背景に、高齢の就労者が増加したことや、医療技術の進歩に伴い、身体疾病にり患しても通院しながら働く労働者も増えてきています。しかし、労働者の理解不足や環境整備の不備等、様々な理由により、治療と就業の両立が困難になってしまう問題も生じています。
このような労働者が健康問題によって出社できない状態を「アブセンティーズム」、出社できているものの業務パフォーマンスの低下を引き起こしている状態を「プレゼンティーズム」と呼びます。

Loeppkeらの研究(2009)では、米国企業における健康関連コストを分析した結果、プレゼンティーイズムによる損失が企業の健康関連総コストの約6080% を占めることが報告されました。つまり、目に見える医療費や欠勤に伴うコストより「出勤しているのにパフォーマンスが落ちている」ことによる損失のほうがはるかに大きいことがわかり、企業としての対策が急務となっています。
今回のコラムでは「アブセンティーズム」、「プレゼンティーズム」の定義と、事業主に求められる対応について解説していきます。

プレゼンティーズム・アブセンティーズムとは

「プレゼンティーズム」・「プレゼンティーズム」はともにWHO(世界保健機関)によって提唱された健康問題によるパフォーマンスの損失を指す言葉で、定義は以下の通りとなります。

・アブセンティーズム(Absenteeism)
健康問題による仕事 の欠勤(病欠)のことです。つまり、「欠勤」や「休職」のような心身の不調により、物理的に職場にいない状態をさします

入院を要する重度の疾病やケガ、うつ病や適応障害などのメンタル疾患、新型コロナウイルスなどの感染症などの心身の健康不調を主な原因として生じるとされています。また、長時間労働やコミュニケーション不足、ハラスメントなどの職場環境もアブセンティーズムの要因となりえます。
なお、アブセンティーズムは勤怠管理システムなどで状態を可視化することができるため、周囲の把握はしやすいのが特徴です。

・プレゼンティーズム(Presenteeism)
欠勤にはいたっておらず勤怠管理上は表に出ないが、健康問題が理由で本来のパフォーマンスが発揮できず、生産性が低下している状態です

近年増えているメンタルヘルス不調の他に生活習慣病やがんなどの疾病、アレルギーや偏頭痛、睡眠不足なども健康問題に含まれます。アブセンティーズムと異なり、プレゼンティーズムは本人の出勤自体はできているため、周囲からすると勤怠管理上は正常とみなされ、把握しにくいことが多いです
要因としてはアブセンティーズムと同様に身体的な健康問題やメンタル疾患のほか、休みにくい職場環境や経済的な要因も原因となりえます。
また、プレゼンティーズムの状態にある従業員はその疾患と要因によって仕事に対しても異なる志向をもっていることが特徴です。

①身体疾患を起因とするプレゼンティーズム
…頭痛や腰痛、アレルギー疾患、ガンなどの身体疾患を理由として体調不良を起こしている従業員は、主に身体疾患が働く上での障壁となりえます。本人は仕事に対しての意欲はあるものの、制度上の障壁や職場環境の制限により、部分的・局所的な機能低下でパフォーマンスが発揮できない状態です。

②メンタル疾患を起因とするプレゼンティーズム
…メンタル疾患を理由として生じる体調不良の場合、脳の実行機能そのものにブレーキがかかることから、仕事の根本的なパフォーマンス低下を引き起こします。
そのため、本来は本人も仕事に対して意欲がもてていないものの、無理をして出勤をしている状態であることが多く見受けられます。さらに、メンタル不調によるプレゼンティーズムを引き起こしている人は周囲への攻撃やコミュニケーションの拒絶などが生じ、チーム全体の生産性にも影響をおよぼしてしまうことがあるため、企業全体の生産性を考える上でも特に大きな損失となりえます。
プレゼンティーズムは企業の生産性に大きな影響を与え、アブセンティーズムを上回るとされています。さらに、周囲に見えにくいものの、放置するとアブセンティーズムへつながる可能性もあるため、決して看過できない問題です。

項目

アブセンティーズム (Absenteeism)

プレゼンティーズム
(Presenteeism)

状態

欠勤・休職している状態

出勤はしているが、心身の不調により生産性が低下している状態

主な原因

重度の病気、怪我、メンタルヘルス疾患

花粉症、腰痛、頭痛、睡眠不足、軽度のうつ、生理痛、職場環境、経済状態

可視化

勤怠管理で容易に把握できる

本人も自覚しにくく、周囲からも見えにくい(隠れた損失)

企業に求められる対応

では、企業としてはアブセンティーズム、プレゼンティーズムの状態になっている従業員に対してどのような対応をしていく必要があるでしょうか。
同じ心身の体調不良を起こしていてもアブセンティーズム・プレゼンティーズムを起こしている従業員はそれぞれに要因や発生状態が異なるため、異なった対応をしていく必要があります。

1)アブセンティーズム:
アブセンティーズムの状態にある従業員に対しては重症化を防ぐために早期発見することと、休職が決定した場合、スムーズに休職へ以降する休職体制の整備、再発を防ぐ復帰支援が必要です

・早期発見
ストレスチェック制度で高ストレス者の面談勧奨や、勤務データのモニタリングにより勤怠の乱れを早期に把握し該当者に声をかけることが重要です。また、外部相談窓口を設置し、社内では言えない悩みも匿名で専門家に相談できるリソースを提供することも有効です。

・休職体制の整備と復職支援
休職が決定した際には単なる事務手続きではなく、「再発させない」ための支援体制づくりが需要です。特にメンタル疾患の場合、休職時の適切な支援がないと復職後の再発率が高いため、注意が必要です。

休職開始時に従業員が抱えている様々な不安を相談できる場や支援体制の情報提供の他、産業医、主治医、人事担当者などの関係スタッフ間での連携をとって定期的な状態確認と必要に応じたリワークなどの支援が大切です。
また、復職時は必ずしももとにいたポジションに戻すことが正解ではない前提のもと、本人の意思と状態、原因などに応じて支援を行う必要があります。(詳細は過去コラム参照)

2)プレゼンティーズム
プレゼンティーズムの状態にある従業員に対してはその原因(身体疾患・メンタル疾患)によって対応が以下の通り異なります。

①身体疾患を起因としたプレゼンティーズム
身体疾患によるプレゼンティーズムを有している従業員に対しては、身体疾患の治療を行いながらも仕事を両立できる環境整備が重要です。例えば、対象従業員の就業時間に一定の制限が求められる場合、出勤時間をずらす必要がある場合など、事業場の実情に応じた配慮と制度設計が必要になります。
制度設計にあたっては、有給休暇や傷病休暇といった休暇制度の他、時差出勤、在宅勤務、短時間勤務制度等の柔軟な働き方を可能とする勤務制度の導入も効果的です。
また、実際に従業員から支援の申し出があった際にスムーズに対応ができるように、人事労務担当者、上司・同僚、産業医などの産業保健スタッフ、各スタッフ間での役割の明確化や対応手順を整理しておくことも大切です。身体疾患を起因とするプレゼンティーズムはこのような職場環境整備や制度設計のアプローチにより、比較的早期に改善が見込めることが多いです。(詳細は過去コラム参照)

②メンタル疾患を起因としたプレゼンティーズム
メンタル疾患を起因とするプレゼンティーズムの従業員に対しては、仕事の根本的なパフォーマンス低下によることや、仕事自体をストレス因として生じることも多くあるため、職場環境整備などの制度的アプローチが必ずしも効果的とは限りません。
また、メンタル疾患起因としたプレゼンティーズムを有する従業員は、チームの他メンバーのパフォーマンスに影響を与えてしまうことも多くあるため、組織内の生産性を考慮するうえでも、結果的に仕事・組織から離す(休職や退職)対応が適切となります

そして、過去の「ケアの倫理」のコラムで解説した通り、日頃よりケアしあう関係づくりができている心理的安全性の高い組織は、個別な配慮を必要とする従業員に限らず、他の従業員にも好影響となり、それが結果として従業員の安心感やモチベーションの向上につながるため、企業の業績向上やイノベーションの発展につながります。
また、このような風土づくりはメンタル疾患を起因とするプレゼンティーズムやアブセンティーズムを防止する上でも重要です。

プラットワークスは、「やりがい」や「自己成長」といった働くことの精神的価値が人生の豊かさに大きく影響すると考えており、その働くことによる楽しさを、個別事情を理由としてあきらめることなくすべての人が感じられるような組織づくりを仕事としております。このような考えのもと、事業主の事業特性や組織風土に合った運用しやすい制度構築の支援を行っておりますので、ぜひご活用ください。
また、弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlattalksを運営しております。従業員にとって、外部の相談窓口として活用いただくことができます。
Plattalksではカウンセラーによる従業員のメンタルヘルスケアを行うだけでなく、相談者の希望に応じて社会保険労務士との連携、相談対応も行っており、働きやすい体制構築に活用することができます。

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