コラム

所定外労働の制限(残業免除)の対象期間及び子の看護休暇における取得理由と対象期間の拡大について

厚生労働省は2024年1月30日、所定外労働の制限(残業免除)における子の対象期間、及び子の看護休暇における取得理由と子の対象期間について拡大する方針を示しました。

施行予定日は202541日とし、2024年の通常国会に改正法案を提出する流れとなっています。

子どもや育児の問題は依然として重要視される昨今の情勢で、この改正法案が示された背景には何があるのでしょうか。

まず、所定外労働の制限(残業免除)と子の看護休暇それぞれの現行制度について確認した上で、現行制度と改正法案を比較しながら、その実情について紐解いていきましょう。

 

【現行の制度】

 

①所定外労働の制限(残業免除)〔育児・介護休業法第16条の8第2項〕

3歳に満たない子どもを養育する労働者の請求により、所定労働時間を超えた労働が禁止される制度です。

制限の請求は、1回につき1月以上1年以内の期間において、開始日及び終了日を明らかにした上で、何回でも請求できます。

 

所定外労働の制限(残業免除)の制度が設けられた当時(2010年)の背景には、育児休業を取得した女性労働者の6割が、職場に復帰せずそのまま退職していることや、男性の育児休業取得率が上がらないことなどの問題がありました(厚生労働省「成年者縦断調査」、2009年)。2012年には所定外労働の制限が義務化され、それ以降第1子出産後の女性の継続就業率は回復傾向がうかがえます(国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(夫婦調査)」、2021年)。

 

◎「所定外労働の制限」と「時間外労働の制限」の違い

~「時間外労働の制限」〔育児・介護休業法第17条第1項〕について~

 

育児・介護休業法には、上記①に類似した制度として、「時間外労働の制限」があります。

所定外労働は始業・終業時刻(定時)以外の時間に働くことを指すのに対し、時間外労働は法定労働時間(原則18時間、週40時間)を超えて働くことを意味します。

そして、時間外労働の制限では、労働者が請求した時、事業主は原則として、就業規則や時間外労働協定等で定めた時間外労働の上限時間如何に関わらず、1か月について24時間、1年について 150 時間を超える時間外労働(法定時間外労働)を禁止しています。

 

例えば始業時刻10時、終業時刻を18時(途中休憩1時間、実働7時間)とした場合の所定外労働の制限及び時間外労働の制限のイメージは以下のようになります。

 

なお、時間外労働の制限については、子どもが小学校就学前までにおいて、1回につき1月以上1年以内の期間の中で、開始日及び終了日を明らかにした上で、何回でも請求できます。

この制度は、育児にかける時間を確保する必要性が高い小学校就学前までの子どもを養育する労働者を考慮しつつ、時間外労働の制限に伴う事業主の負担についても配慮がなされた制度内容となっています。

 

②子の看護休暇〔育児・介護休業法第16条の2、第16条の3〕

小学校就学前までの子どもを養育する労働者が、子どもの病気・けがの看護、あるいは予防接種や健康診断を理由として休暇を取得出来る制度です。

この制度は、仕事と育児を両立するために必要と思う対策として「子どものための看護休暇」を求める意見が多かった(財団法人女性労働協会「育児・介護を行う労働者の生活と就業の実態等に関する調査」、2000年)こと等を踏まえ、立法化が行われることになりました。

 

子の看護休暇は子どもの病気やけがの程度は問わず、労働者が必要と判断すれば取得が可能なものとなっています。付与日数は子どもが1人の場合は年5日、2人以上の場合は10日で、時間単位での取得も可能です。

 

【今回の改正内容】

 

①所定外労働の制限(残業免除)

子どもの対象期間 を 3歳未満まで から 小学校就学前まで に拡大します。

この背景には、大きく2つの要因があります。

 

《要因1》柔軟な働き方へのニーズ

まず1つが、子どもの年齢が上がるにつれて残業をしない働き方、出退社時間の調整、テレワークによる柔軟な働き方を希望する人が男女共に多くなっている実情があったことです。

 

《要因2》育児における女性への負担集中

総務省「社会生活基礎調査」(2022年)によれば、妻の家事関連時間が夫の約3.4倍であったことや、女性が短時間勤務を利用する理由として、「配偶者・パートナーの長時間労働」と回答するケースが多かった(令和4年度厚生労働省委託事業(労働者調査))ことから、

男性側の長時間労働が、育児負担が女性に偏っている状況に拍車をかけていることが想定されます。

 

②子の看護休暇

子どもの対象期間 は 小学校就学前 から 小学校3年生修了前 までに延長され、

取得理由 には 感染症に伴う学級閉鎖や行事(入園式や卒園式等) が追加されます。

また、名称 も 子の看護休暇 から 「子の看護等休暇」 に変更となります。

これは、小学校就学以降の子どもについても看護を要することが見受けられることや、小学校等の一斉休校や学級閉鎖といった、現行制度では取得理由にならない場合における休暇のニーズがあることを踏まえ、この改正案が打ち出されました。

 

 

今回の改正法案のような子どもの年齢や状況に合わせた措置を講じ、労働者が柔軟に育児に対応できる環境作りに努めることは子どもを養育する労働者にとって大きな助けになるでしょう。

しかしながら、ポジティブに捉えることができる一方で、こうした両立支援制度の利用に伴い、その利用者の業務や責任が限定され、結果的に労働者の長期的なキャリア形成に影響を及ぼす可能性も想定されます。

従って、こうした懸念を払拭するために、労働者の意欲喪失防止や労働者が両立支援制度を利用してもキャリア形成に影響が及ばない労働環境の整備に努めるべく、事業主は労働者との対話や、評価制度の見直しについて改めて検討する必要があると考えられます。

また、労働者がキャリア形成に関する希望に応じて両立支援制度を利用しない場合においても、仕事と育児を両立できる環境作りについて考える必要もあるとされています。

 

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