これまで、カスハラの定義やカスハラが発生する原因、国が行ってきたカスハラ対策の歴史について学んできました。では、企業として具体的にどのようなカスハラ対策を行っていく必要があるのでしょうか?企業のカスハラ対策の現状を学びながら見ていきましょう。
企業のカスハラ対策の現状
株式会社エス・ピー・ネットワークによるクレーム対応経験のある会社員1,030人を対象とした「カスタマーハラスメント実態調査(2023)」によると、全体の55.3%が「カスハラ対策の方針がない」と回答しており、企業のカスハラ対策の取組が依然として進んでいないことが分かります。
※(株)エス・ピー・ネットワーク カスタマーハラスメント実態調査(2023)
また、帝国データバンクの「カスハラに関する企業の意識調査(2024):11,068社回答」によると、実際に行われているカスハラ対策は電話に録音機能をつける等の「顧客対応の記録(20.1%)」が最多で、「企業方針の策定」や「サポート体制の構築」を行う企業はわずか10%弱と判明しました。
※帝国データバンク カスハラに関する企業の意識調査(2024)
一方、実際にカスハラ対策で従業員が課題と感じているのは「トップや経営陣の意識改革(31.9%)」、「マニュアルや事例集の作成(20.2%)」、「カスハラ対策基本方針の策定(20.1%)」で、トップが率先し意識改革を行うことや、従業員をカスハラから守る対応方針を策定することが大切といえます。
※(株)エス・ピー・ネットワーク カスタマーハラスメント実態調査(2023)
企業のカスハラ対策
では、企業のカスハラ対策としてどのような対応をしていく必要があるのでしょうか。
具体的には「カスハラを想定した事前準備」と「実際にカスハラが起こった際の対応」に分けて、取り組みを実施します。カスハラが起きた時に対応できるよう、あらかじめ企業の方針を決めたうえで、相談体制や対応マニュアルの整備、従業員への教育や研修を行います。
=========カスタマーハラスメントを想定した事前準備===============================
①基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知
まずは組織のトップが自らカスハラ対策への取り組みについて基本方針・基本方針を示し、従業員にも周知・啓発、教育を行うことが重要です。
例)「カスハラは自社にとって重大な問題である」、「カスハラから従業員を守る」、「従業員の人権を尊重する」などのメッセージの発信
②従業員のための相談対応体制の整備
カスハラが起きた際に従業員が迅速に相談できるように、相談対応者や相談体制を整備します。相談体制は管理監督者を主とした現場レベルの対応と、社内のハラスメント相談窓口等のヘルプラインの対応といった、二段階での相談体制の構築がよいとされています。また、カスハラにより相談者の気分の落ち込みや勤怠の乱れ等が見られる場合、社内の相談窓口や臨床心理士(公認心理師)・産業医等の外部の相談窓口へつなげる必要があります。
③対応方法、手順(対応マニュアル)の策定
カスハラを受けた際に慌てず適切な対応がとれるよう、各社の業務内容、業務形態、対応体制・方針等の状況に応じて対応方法をあらかじめ準備しておきます。顧客対応は基本的に複数名で対応、行為が深刻な場合は現場監督者が対応する等、従業員の安全にも配慮する必要があります。対応例としては以下が挙げられます。
カスハラ行為 | 対応策 |
暴言や侮辱 |
事実確認ができるよう録音し、程度がひどい場合退去を求める。 |
暴力行為 |
行為者から一定の距離を保つなど対応者の安全確保を優先する。警察と連携し、 直ちに警察に通報する。 |
セクシュアル ハラスメント |
録音・録画による証拠を残し、被害者および加害者に事実確認を行う。 加害者には警告を行う。執拗な付きまといには出入り禁止を伝え、状況に応じ 弁護士への相談、警察への通報を検討する。 |
④社内対応ルールについて従業員等への教育・研修
アルバイトを含む全従業員に対し定期的に研修や説明を行うことが大切です。カスハラの判断例や顧客等への接し方のポイントなど、実務に関する内容を事例も交えて説明すると効果的です。また、階層別に経営層や現場監督者への教育・研修を行うことも重要です。特に経営層についてはカスハラの事業への影響、優先順位を判断した上での対応が求められることを、外部講師による研修等を通じ意識改革を図ることが有効です。
========カスタマーハラスメントが起きた後の対策==================================
⑤事実関係の正確な確認と事案への対応
顧客のクレームが正当な主張か悪質なクレームか判断するため、顧客の主張が事実であるかを確かな証拠・証言に基づき確認します。また、個別ではなく管理者等に相談し複数名で判断します。
⑥従業員への配慮の措置
従業員がカスハラ被害を受けた場合、被害を受けた従業員に対し速やかに安全確保や精神面への配慮を行う必要があります。
・従業員の安全確保
顧客等が暴力行為やセクハラ行為を行う場合、現場監督者が顧客対応を代わり顧客等から従業員を引き離し、状況により弁護士や警察と連携を取り本人の安全を確保します。
・従業員の精神面への配慮
顧客等からの言動により、従業員にメンタルヘルス不調の兆候がある場合、臨床心理士(公認心理師)、産業カウンセラー、産業医等の専門家に相談対応を依頼してアフターケアを行う必要があります。また、定期的にストレスチェックを行う等、普段から従業員の状況を把握し、問題がある際に専門家への相談を促すなど、心の健康の保持・増進を図ることが求められます。
⑦再発防止のための取組
カスハラ事案発生時に従業員へ共有したり、トラブルの生じやすい事例等を共有し定期的に対応を協議したりすることで、従業員の顧客対応の理解を深め、問題再発を防ぎます。
このように、従業員が安心して相談できる体制づくりは従業員の心身の安全を守るだけでなく、企業イメージの保持や職場全体の生産性の向上にも重要なものとなっております。
特にカスハラが及ぼす従業員へのメンタルヘルスへの影響について、従業員自身が相談できる体制の整備も必要となります。従業員が自身の評価への影響等を気にして社内相談窓口へ相談しないケースを考慮し、社内相談窓口の他に、従業員が顧客対応について悩んだ時に気軽に相談できる社外の相談窓口を設置するのもよいでしょう。
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【カスタマーハラスメントについて学ぶシリーズコラム】
カスハラはなぜ起きる?~カスタマーハラスメントについて学ぶ①~
カスハラとその対策の歴史~カスタマーハラスメントについて学ぶ②~
企業のカスハラ対策~カスタマーハラスメントについて学ぶ③~
カスハラの予防策~カスタマーハラスメントについて学ぶ④~