これまでカスハラの対策と予防法について概要を学んできましたが、カスハラ対応に有効なスキルのひとつとして「アンガーマネジメント」があげられます。
理不尽な怒りをぶつけてくるカスハラは「怒りの感情」をベースとして行われます。カスハラ対応を行う上で、顧客の怒りに適切に対応し、怒りを拡大させないようにする。このような「理不尽な形で怒っている人」に対してどのように向き合うかがカスハラ被害を防ぐ上でもとても重要となります。
このような怒りの感情にうまく向き合う心理的トレーニングのことを「アンガーマネジメント」と呼びます。アンガーマネジメントは1970年代のアメリカでの軽犯罪者への矯正教育プログラムとして発展したものですが、近年の日本社会では働き方改革に伴い、カスハラに限らず、パワハラやセクハラなどの防止にも力を入れ始めたことで、日本でも注目が集まっています。
アンガーマネジメントを学ぶことは従業員自身の怒りのコントロールだけでなく、カスハラを行う顧客の怒りに適切に対応することにつながるため、カスハラ防止において有効といえます。
アンガーマネジメントについて理解を深め、カスハラを行う顧客の怒りに着目した心理を学ぶとともに、アンガーマネジメントを活用したカスハラ対応について学んでいきましょう。
カスハラを行う顧客の怒り
では、カスハラを行う顧客はどのような心理で怒りを表出するのでしょう。カスハラを行う顧客の心理状態は下記のようになっているといわれます。
・「自分はお客様であり立場的に上である」「自分が怒らないとわからない」
…権力意識が高く支配欲求が強い傾向
・「自分は特別な存在である」「自分は正しく相手は間違っている」
…自尊心が高く、プライドが高いため、自分の要求は優先されるべきと考えている
「自分は上の立場なのに下の立場である従業員に軽く扱われた」ことで、思うような対応をされなかったことで、プライドを傷つけられたと感じてしまいます。
また、その背景として日ごろの生活にストレスや不満を抱えており、立場の弱い従業員に対してカスハラを行うことでその怒りを発散しているといわれています。
アンガーマネジメントとは
「アンガーマネジメント」とは怒りの感情と上手に向き合うための心理トレーニングのことをさします。アンガーマネジメントにおいては怒らないことを目的にするのではなく、「怒る必要のあることは適切に怒り、怒る必要のないことは怒らなくて済むようになること」を目標としています。
また、怒りの感情はストレスや不安などのマイナス感情と「~すべき」譲れない信条の裏切りの2要素があわさったときに生まれるとされています。
個人としてできるアンガーマネジメントの基本的なステップを学びつつも、企業としてのカスハラ対策にどのように生かしていけるのかも考えていきましょう。
アンガーマネジメントの基本的3ステップ
①衝動のコントロール ~6秒ルール・怒りの数値化など~
怒りの感情のピークは6秒程度といわれています。怒りを感じた場合、6秒だけ思考停止させて待つことで怒りの衝動を落ち着かせます。思考停止をしている間は他の行動をして怒りの原因から距離をとることで、怒りを鎮めることができます。また、怒りを数値化し記録に残したりすることで怒りの気持ちを客観視できます。
行動例)短く深呼吸する、席を外す、水を飲む、相手の言葉を繰り返す、怒りを数値化し記録する
②思考のコントロール ~「まぁ許せる」ゾーンを広げていく~
次に、自分の怒りにつながる「~すべき」という信条にもとづいた許容範囲のゾーンを理解し広げておくことが大切です。自分の「べき思考」は必ずしも他人と一致しないと理解する、自分の「べき思考」は正しいのか考えること、時には自分の生活を妨害するような「べき思考」は捨てる、書き換えることも必要になってきます。
怒りを感じたことについて、本当に「許せない」ことなのか、「許せる」余地はないかを客観的に評価します。このような許容の度合いは三重丸で表すことができます。重要なのは、「まぁ許せる」ゾーンがあることに気づき、その範囲を広げていくことです。
③行動のコントロール ~変えられるか、重要かの2軸で考えて対処する~
どんなに「怒り」を感じても、自分の力で「変えられない」ものはあります。また、「重要ではない」ことであれば、「怒り」を感じること自体に意味がありません。
このように怒りを感じている事象が「変えられることか」・「重要であるか」を整理して、働きかける対象を有効で意味のあるものに絞って優先的に対処していきます。
ただし、優先順位の高いことであっても、取り組むにあたっては一定の期限と目標を設け、期限がきたら期待した効果があったか、その結果を判断します。もし目標に至っていなければ、「変わらないこと」の領域に整理し、必要以上に何かを変えようと執着することを防ぐことができます。
例えばカスハラに該当する顧客の迷惑行為や要求についてはコントロールが不能な「変えられない」事象であることを認識し、必要以上に要求に応えて関わろうとしない、執着しない等の対処法に変えていくとよいでしょう。
アンガーマネジメントを生かした顧客対応
実際にアンガーマネジメントを生かした顧客対応で意識すべき点を見ていきましょう。
対応する従業員の怒りのコントロールと顧客自身の怒りを理解する二側面で考えていきましょう。
・怒りの原因・トリガーを認識する(従業員・顧客自身)
怒りは原因となる事象があり、そこにトリガーとなる心身の状態、周囲の状況などがあることで発生します。何が顧客や自分を怒らせているのか理解し、怒りを生み出すトリガーとなる状態はないか確認してみましょう。
原因)不公平や不当と感じる状況、失礼、傷つく・失望させる行動など
トリガー)暑さ、恐怖や嫉妬、睡眠不足など
・冷静な対応を心掛ける
怒りを客観視することができたら、先述した6秒ルールを意識するなどして思考停止させ、怒りの衝動を落ち着かせます。まず自身の怒りの感情・衝動をコントロールすることができれば、精神的に余力ができ顧客に対して冷静に対応することができます。
・適切なコミュニケーション
顧客の感情に寄り添う謝罪と共感を示しつつも、主張や要望にはすぐに謝罪せず、顧客の話をしっかり聞き事実確認を行うなど毅然とした態度で対応します。
例)「○○について不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
・トレーニングと研修
定期的に従業員に対してアンガーマネジメントの研修を行うことで、カスハラへの適切な対応方法を具体的に学ぶことができます。日本アンガーマネジメント協会をはじめとして、複数の団体が研修を実施しており、多くの企業がカスハラ対策として利用しています。
参考)一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 アンガーマネジメント研修
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【カスタマーハラスメントについて学ぶシリーズコラム】
カスハラはなぜ起きる?~カスタマーハラスメントについて学ぶ①~
カスハラとその対策の歴史~カスタマーハラスメントについて学ぶ②~
企業のカスハラ対策~カスタマーハラスメントについて学ぶ③~
カスハラの予防策~カスタマーハラスメントについて学ぶ④~