2025年思想芸術分野においてギリガン氏が京都賞を受賞しました。(キャロル・ギリガン | 京都賞)
ギリガン氏は他者との関係性を重視する「ケアの倫理」の提唱者です。「ケア」の視点をもとにした女性の道徳観を劣っているとし従来の道徳観とされてきた「正義の倫理」のみ重視することに異議をとなえ、女性の社会進出や少子高齢化といった多様化・複雑化する社会において対応するための学問的基礎を築いたとして受賞しました。
女性の労働市場への参加と共働きが増加してきている現代において、家事・育児などのケア労働への過小評価が問題視されています。
また、労働市場においても保育士や介護士、看護師といったケア労働に従事する労働者の報酬の低さが顕在化しています。
このようなケアを軽視する現代社会を問題視し、他者との関係性や他者のニーズにどう応じるかといった考え方を重視する必要性があるとした考え方があります。この考え方をもとにしている概念として、「ケアの倫理」があげられます。
このコラムでは従来発達してきた権利やルールに守られてきた「正義の倫理」と、その対比として生まれた「ケアの倫理」についての概要と、「ケアの倫理」と日本の労働市場における現状とこれからについて、プラットワークスとしての考えとともに解説していきます。
正義の倫理とコールバーグの道徳性発達理論
「正義の倫理」とは、道徳的な正しさや公平さを追求する倫理的考え方です。
「正義の倫理」に関連し、個人が道徳的判断を発達させる過程を分類した代表的な理論としてコールバーグの「道徳性発達理論」があげられます。
「道徳性発達理論」はアメリカの心理学者コールバーグによって提唱され、成長に応じて道徳性は段階的に発達していくとしたものです。
コールバーグはピアジェの認知発達理論に基づき、人の道徳的判断を3つの水準と6つの段階に分類し、人は罰や苦痛を避ける罰と服従の段階から、個人の良心や正義の原則によって行動する普遍的倫理原理の段階まで発達するとしました。
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水準 |
段階 |
概要 |
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前慣習的水準(服従と自己利益) |
1. 罰と服従の段階 |
行動は罰を避けるため決定。 |
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2.個人主義と交換の段階 |
行動は自分の利益を最大化するために決定。自分の利益が最優先。 |
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慣習的水準 |
3.対人関係の調和の段階 |
行動は他者との関係を良好に保つため決定。 |
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4.法と秩序の段階 |
行動は社会のルールや法律を守るため決定。 |
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後慣習的水準(個人の権利と普遍的な倫理原則) |
5.社会契約と個人的権利の段階 |
行動は社会契約や基本的な人権に基づき決定。法律は相対的で変更可能(時に批判的)。 |
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6.普遍的倫理原理の段階 |
行動は普遍的な倫理原則に基づき決定。個人の良心や正義原則に従う。 |
コールバーグはこれらの段階は不変の順で進行すると主張しましたが、すべての人が必ずしも第6段階に到達するわけではないとしています。
この理論は道徳教育や心理学研究、正義の考え方(何が正しいかではなく、その判断を下す理由に焦点を当てている)において社会に大きな影響を与え、教育や社会制度の設計において重要な役割を果たしました。
また、後慣習的水準においては、法律を絶対視せず人々の権利や福祉のためにある変更可能なものであるとした視点を提供し、時として法律や批判し、人の尊厳や自由などの普遍的な倫理によって倫理的判断をする必要があるとしており、これらの考えが民主主義社会において大きな影響を与えました。
このように「正義の倫理」では特定の状況や人間関係に依存せず、理性と普遍的な倫理観(誰もが同じ状況下で同じ判断をすべき考え)に基づいて道徳的な判断を導くという客観的で公平な判断を重視しているのが特徴です。
それに対して、ギリガンはこのような正義の倫理に代表される個人の自立や普遍的なルールを重視する伝統的な倫理学に対して、男性を中心に構成された枠組みだとし、特定の状況や人間関係に依存して判断する女性の道徳性が男性に比べて劣っているとする考え方にジェンダーバイアスがかかっていることを指摘しました。そして、この「関係性」と「責任」を重視した「ケアの倫理」も道徳性の重要な基準として「正義の倫理」とともに存在するべきとして提唱しました。
今回のコラムでは「正義の倫理」の概要について解説しました。
次回のコラムでは「正義の倫理」の概念に異議を唱え、生まれた「ケアの倫理」についてと「正義の倫理」との違い、また日本社会や今後の労働環境における「ケアの倫理」が与える影響について解説していきます。
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