人は同じ言葉を、違う理由で受け取るーMBTI別に見る”言葉の届き方”の心理学

働き方が多様化し、価値観の異なる人が同じ職場で協働する時代。人事担当者や管理職にとって、「どう伝えるか」は成果や信頼関係を左右する重要なテーマです。しかし、現場ではこんな声をよく耳にします。
「同じ言葉をかけても、ある人には届くのに、別の人には刺さらない」
「誤解されることが怖くて、素直に感謝や評価を伝えづらい」

こうした”伝わらなさ”の背景には、言葉の受け取り方の違いが関係しています。同じ言葉でも、受け手がどんな価値観や思考スタイルを持つかによって、意味づけは変わります。

近年では、採用・評価・チームビルディングを行う現場で ”MBTI(Myers-Briggs Types Indicator)” の性格タイプ理論を活用する企業が増えています。MBTIは、相手がどのように情報を受け取り、どのように判断するかの違いを整理した理論です。相互理解の促進や心理的安全性の高い職場づくりに役立ちます。

本稿では、MBTIの視点をもとに、タイプ別に「相手に届く言葉」を設計するためのヒントをご紹介します。それは、自律と信頼が循環する、風通しの良い組織を育てる第一歩でもあります。

 

1 ”届く言葉” の3原則  −人事担当者が押さえたい視点−

「言葉を届ける」という行為は、単に相手を気持ちを伝えるためだけではありません。職場においては、相手の強みを再認識させ、次の行動を後押しする重要なマネジメントスキルの一つです。ここでは、心理学の理論に基づいた ”届く言葉” の3原則を紹介します。 

①「努力」に目を向ける

結果だけでなく、そこに至るまでの過程や工夫に目を向けて褒めましょう。スタンフォード大学キャロル・ドュエックの「成長マインドセット理論」によると、「能力は努力や学習によって伸ばせる」という考え方が、モチベーションや自己効力感を高めるとされています。「できた・できない」で評価するより、「工夫したこと」や「取り組んだ姿勢」を言葉にすることで、自ら学び続ける姿勢を支援できます。

②「与えた影響」を伝える

「すごいね」ではなく、「あなたのおかげで◯◯が助かった」と他者への貢献を具体的に伝えましょう。そうすることで、人は「役に立てた」実感を得られます。これは、社会心理学者ハーバート・ケリーらの「社会的承認理論」に基づくものです。この理論では、自分の行動が他者に影響を与えたと知ることが、モチベーションや帰属意識を高めるとされています。

③相手に合った伝え方を選ぶ

言葉の伝わり方には、人それぞれの受け取り方の特性があります。内向的な人には静かに、外向的な人には明るく伝えるなど、相手が安心して受け取れる方法を選ぶことが大切です。エドワード・デシとリチャード・ライアンの「自己決定理論」では、人は自分らしさや自立性を尊重されると、内発的な意欲が高まるとされています。

この3原則を踏まえた上で、次に「性格タイプごとに響く言葉の届け方」を見ていきましょう。

2 MBTIを「相互理解」のツールに

MBTIは、ユングのタイプ論をベースに発展した、性格タイプ理論です。人の「ものの見方」や「判断の仕方」を以下の4つの視点で整理します。

視点 タイプ 言葉を届けるヒント

エネルギーの向かう方向

E(外向) 明るく共有するように伝えると力が湧く。
I(内向) 落ち着いた場で、個別に伝えると安心して受け取れる。
情報の受け取り方 S(感覚) 具体的な行動や結果に触れると納得しやすい。
N(直観) 全体像や未来の可能性を意識した言葉が響く。
判断の仕方 T(思考) 論理性や合理性への評価がモチベーションになる。
F(感情) 気持ちへの共感や人間関係への配慮が響く。
外界との関わり方 J(判断) 段取りや計画性、責任感を認められると嬉しい。
P(知覚) 発想の柔らかさや柔軟な対応を評価されると喜ぶ。

この4軸の組み合わせによって構成される16の性格タイプには、それぞれ 「言葉が届きやすいポイント」や「嬉しい言葉の受け取り方」 があります。

 

3 MBTIタイプ別「響く言葉の届け方」と声かけ例

🔷分析・計画系(INTJ /INTP /ENTJ /ENTP)

・INTJ(建築家タイプ)へは、本質的な能力を評価する 

長期的な視点を持ち、全体の構造や流れを論理的に捉えるのが得意なINTJには、「視野の広さ」「計画力」「リスクを見越した先手」を言葉で示すと響きます。抽象的な称賛より、具体的な行動や判断の結果に焦点を当てて伝えることが効果的です。

 例:「全体の流れがスムーズだったのは、あなたの先読みがあったからです。」   

・INTP(論理学者タイプ)へは、ユニークな発想を称える

「なぜそうなるのか」を突き詰めて考える、探究心の強い思考型であるINTPには、「アイディアの切り口」「分析の深さ」に注目して伝えると響きます。結果だけでなく、その背後にある思考のプロセスに敬意を払うことで、INTPの内発的なやる気につながります。

 例:「あのアプローチ、視点がとてもユニークで引き込まれました。」 

・ENTJ(指揮官タイプ)へは、リーダーシップを褒める

目的達成に向けて組織や人を巻き込むリーダーシップに長けているENTJには、「影響力」「推進力」「決断力」などを具体的に伝えることが重要です。「みんなを引っ張っていた」「状況を前に動かした」といった表現が響きます。

 例:「プロジェクトが進んだのは、あなたの決断があったからです。」 

・ENTP(討論者タイプ)へは、新しい視点を評価する

柔軟な発想力と好奇心に溢れた挑戦者であるENTPには、「自由な発想」「場の空気を動かす力」「議論の展開力」などに注目して伝えると効果的です。「あなたらしい面白さが活きていた」と言葉にすることで、創造性がさらに発揮されます。

 例:「あの発想はとても新鮮で、場の雰囲気が一気に活性化しました。

🔷支援・調整系(INFJ /INFP /ENFJ /ENFP)

・INFJ(提唱者タイプ)へは、献身的な姿勢を認める

深い内省と思慮深さを持ち、人の感情や価値観に寄り添う力があるINFJには、「誠実な思いやり」「周囲を気遣う細やかな配慮」「陰ながら支える姿勢」など、目立たないけれど本質的な貢献に光を当てる言葉が響きます。伝える際には丁寧さや心を込めたニュアンスを大切にしましょう。

 例:「あなたの細かな気配りが、チームの安心感につながっています。」 

・INFP(仲介者タイプ)へは、思いやりを称える

内に強い理想や信念を持ちながらも、他者に対してはやわらかく優しい態度で接することができるINFPには、「心からの誠実さ」「思いやりの深さ」「一人ひとりに向き合う丁寧さ」を具体的に伝えると響きます。評価は外面ではなく、「姿勢」「想い」に焦点を当てることがポイントです。

 例:「一人ひとりに丁寧に接してくれる、あなたの姿勢に感動しています。」 

・ENFJ(主人公タイプ)へは、影響力を評価する

人の可能性を信じ、チームや仲間の成長を自然に引き出すことが得意なENFJには、「人に与える影響力」「周囲のモチベーションを高める力」「温かい巻き込み力」を具体的に伝えましょう。本人は”人のため”に動いていることが多いので、「あなたのおかげでみんなが前向きになれた」といった言葉が効果的です。

 例:「あなたの前向きな声かけが、チーム全体を明るくしてくれました。」 

・ENFP(運動家タイプ)へは、情熱的なアイディアを褒める

明るく快活、自由な発想を大切にするムードメーカーであるENFPには、「創造力」「自由な発想」「周囲を笑顔にする空気づくり」を伝えると効果的です。また、「あなたらしさ」を認める言葉が大きな励みになります。

 例:「あなたのアイディアに、みんなが刺激を受けています。」

🔷実務・現場型(ISTJ/ ISFJ /ESTJ /ESFJ) 

・ISTJ(管理者タイプ)へは、正確な仕事を認める

慎重で責任感が強く、「最後までやり遂げる力」を持つISTJには、「確実な対応」「細部まで行き届いた配慮」「着実な積み重ね」を言葉で伝えることが効果的です。”任せて良かった”という安心感が伝わるような言葉が響きます。

 例:「最後まで責任を持ってやり遂げてくれて、本当に心強かったです。」 

・ISFJ(擁護者タイプ)へは、献身的な姿勢を褒める

人の気持ちを察しながら、縁の下の力持ちとして組織や仲間を支えるISFJには、彼らの「さりげないサポート」「目立たないけれど重要な役割」に注目し、温かく具体的な言葉で伝えましょう。人間関係を和らげていることや、陰ながら場を整えてくれていることに光を当てましょう。

 例:「あなたがいてくれることで、安心して仕事が進められています。」 

・ESTJ(幹部タイプ)へは、実行力を称える

リーダーシップがあり、組織の効率や成果を重視するタイプであるESTJには、「段取り力」「判断力」「周囲への統率力」など、成果を上げるための現場力を言葉で伝えることが効果的です。彼らが貢献した”現実的な結果”をしっかり伝えることがポイントです。

 例:「あの場面での采配があったから、チームがまとまりました。」 

・ESFJ(領事タイプ)へは、周りへの気遣いを褒める

チーム全体の調和や人間関係を大切にし、周囲の空気を読みながら率先して動くタイプであるESFJには、彼らの「チーム全体への配慮」「周りへの細やかな声かけ」「安心感を与える存在」といった社会的スキルを丁寧に伝えましょう。場を和ませたことや、”チームにとっての存在価値”を言葉にすると響きやすいです。

 例:「あなたの自然な声かけが、チーム全体の空気を和ませてくれました。」

 

🔷柔軟・適応型(ISTP/ISFP/ESTP/ESFP)

ISTP(巨匠タイプ)へは、問題解決力を褒める

黙々と課題に向き合い、自分のペースで”最も効率的なやり方”を見つけて実行するプロであるISTPは、他の人が思い付かない視点や手際の良さを強みとします。理屈よりも結果や動作に着目して、冷静な目線で伝えると響きやすくなります。

 例:「あの時の判断、迅速で的確でした。本当に助かりました。」 

・ISFP(冒険家タイプ)へは、独自のセンスを評価する

表立って主張はしませんが、内面には深い価値観と美意識を持っているISFPには、”見てくれていたんだ”と伝わる表現が響きます。個性や美的センス、落ち着いた行動の魅力を具体的に言葉にすると効果的です。

 例:「資料のデザイン、あなたらしい感性が出ていて素敵でした。」 

・ESTP(起業家タイプ)へは、行動力を称える

周囲の動きを素早く読み取り、瞬時の判断でアクションを起こせるリーダー型のESTPには、「スピード感のある判断」「巻き込み力」「ムードメイクの巧みさ」を伝えると響きます。単なる「明るい人」ではなく、”その行動がチームを前に進めた”ことを具体的に伝えることが大切です。

 例:「あなたの一声で、チームが一気に動き出しました。」 

・ESFP(エンターテイナータイプ)へは、場の盛り上げ役を褒める

感情表現が豊かで、誰とでも自然に打ち解けられる天然のコミュニケーターであるESFPには、感情に寄り添うことが大切です。「あなたがいると場が明るくなる」「あなたの人柄が雰囲気を作ってくれた」と伝えることで、自己肯定感が高まりやすくなります。

 例:「あなたがいると、みんなが自然と笑顔になりますね。」

 

4 実務にどう活かすか

MBTIの性格タイプに合った「言葉の届け方」は、個々人のモチベーション支援にとどまりません。それは、組織全体の成長基盤となるマネジメント手法です。

・1on1での声かけを個別最適化
タイプごとに「どんな言葉が力になるか」や「どんな伝え方が響くか」を理解することで、個々の動機づけや支援がしやすくなります。

・チームビルディングで多様性を尊重
言葉の違いを通じて、メンバー同士の「価値観の違い」や「強みの違い」に気づくと、相互理解が深まり、お互いの違いを「個性」として受け入れるベースになります。

・タイプに応じた育成指針に
タイプごとに強みが異なることを前提に、「どのように言葉を届けるか」を明確にすることで、自律的な成長を支えるフィードバック文化が育ちます。

 

5 まとめ

「言葉を届ける」という行為は、相手の成長を後押して信頼関係を育てる重要なマネジメント手法です。MBTIの知見を活かすことで、一人ひとりの特性に合わせた伝え方を選び、心理的安全性と主体性を両立させるコミュニケーションが実現します。個々人に最適化されたコミュニケーションの実践は、風通しの良い・自律性を促す組織文化を醸成するカギといえます。

 

6 専門家に相談するという選択肢

それでも「相手にどう伝えたらいいかわからない」「チームの人間関係がぎくしゃくしている」など、日々のマネジメントに悩む場面もあるでしょう。

弊法人では、「社会保険労務士」と「臨床心理士(公認心理師)」の協同で支援を行う、日本唯一の企業向けオンラインカウンセリングサービスPlaTTalks(プラットトークス)を運営しております。従業員にとって、相談することで心の負担を軽くする外部の相談窓口として活用いただくことができます。

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