2026(令和8)年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されました。取適法は、従来の「4つの義務」「11の禁止行為」という枠組みを基本にしつつ、適用範囲や支払手段、価格協議などを強化しています。本コラムでは、改正点を踏まえつつ、実務で押さえるべきポイントを整理します。
なお、取適法の制度趣旨や改正の背景については、別コラムにて詳しく解説していますので、そちらも併せてご参照ください。
【2026年1月改正】 取適法(中小受託取引適正化法)とは? ― 下請法改正のポイントと企業が取るべき対応―
取適法の対象となる基準と取引内容
(1)従来の資本金基準(改正前の考え方)
従来の下請法では、適用対象は「資本金規模」と「取引内容」により定められていました。
① 製造委託・修理委託・一定の情報成果物作成・役務提供委託(※)
以下のいずれかに該当する場合に適用対象とされていました。
◆ 委託事業者(旧:親事業者)の資本金が3億円超、受託事業者(旧:下請事業者)の資本金が3億円以下
◆ 委託事業者の資本金が1,000万円超3億円以下、受託事業者の資本金が1,000万円以下
(※役務提供委託は、運送、物品の倉庫保管、情報処理など政令で定める役務に限られます)
② 上記①を除く情報成果物作成・役務提供委託
以下のいずれかに該当する場合に適用対象とされていました。
◆ 委託事業者の資本金が5,000万円超、受託事業者の資本金が5,000万円以下
◆ 委託事業者の資本金が1,000万円超5,000万円以下、受託事業者の資本金が1,000万円以下
このように、従来は資本金による形式的な基準で適用範囲が定められていたのです。
(2)2026年改正による見直し(従業員数基準の導入)
今般の改正では、従来の資本金基準に加えて、「従業員数基準」が導入されました。
具体的には、
◆ 製造委託等については従業員300人
◆ 役務提供委託等については従業員100人
という基準が新設され、委託事業者が資本金または従業員数のいずれかの基準を満たす場合に適用対象となります。

(3)具体的な取引の内容について
a. 製造委託
物品の規格、品質、形状、デザイン等を指定して、他の事業者に製造や加工を依頼するものをいいます。(※物品は動産を指し、建築物は含まれません)
b. 修理委託
物品の修理を請け負う事業者が、その修理の全部または一部を他の事業者に委託するものをいいます。
c. 情報成果物作成委託
プログラム、映像、デザイン等の情報成果物の作成を他の事業者に委託するものをいいます。(例:Web制作、テレビ番組、広告デザイン等)
d. 役務提供委託
運送、ビルメンテナンス等の役務の全部または一部を他の事業者に委託するものをいいます。(※建設業法上の建設工事は対象外)
e. 特定運送委託(2026年改正で追加)
特定運送委託とは、メーカーや小売業者などの発荷主(以下「荷主」)が、運送事業者に対して商品の配送を依頼する取引をいいます。従来の下請法では、運送会社からさらに別の運送会社への再委託は対象でしたが、「荷主→運送事業者」という最初の委託は、明確な規制対象ではありませんでした。
例えば、食品メーカーが運送事業者に商品の配送を依頼する場合に、
◆ ガソリン代が上昇しても運賃を据え置く
◆ 値上げの協議に応じない
◆ 長時間の荷待ちがあっても追加費用を払わない
といった取引慣行があっても、従来は規制が及びにくい場面がありました。今般の改正により、この「荷主→運送事業者」の取引も対象に含まれ、荷主側にも価格協議への対応や適正な支払条件の整備が求められることとなりました。

委託事業者が対応すべき4つの義務
(1)発注内容等を明示する義務
委託事業者は、中小受託事業者に発注を行うにあたり、給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などの重要事項を、書面または電子メールなどの電磁的方法によって明示しなければなりません。これは、取引条件を明確化し、紛争を未然に防止するための基本的義務です。
2026年改正前は、電磁的方法による明示について中小受託事業者の承諾が必要とされていました。しかし、改正によりこの承諾要件が撤廃され、書面と電磁的方法のいずれを用いるかは原則として委託事業者が選択できる仕組みとなっています。
(2)取引記録を作成・保存する義務
委託事業者は、中小受託事業者との取引が完了した後、給付の内容や代金の額など、当該取引に関する事項を記録した書類または電磁的記録を作成し、これを2年間保存しなければなりません。
この義務は、後日の紛争や行政調査に備える趣旨を有しており、取引条件や支払状況を客観的に確認できる状態を確保するためのものです。書面による保存に限られず、電子データとして保存することも認められていますが、内容を正確に再現できる形で管理しておく必要があります。
(3)支払期日を定める義務
委託事業者は、中小受託事業者に発注した物品や役務について、検査の有無にかかわらず、その受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。ここで重要なのは、支払期日の起算点はあくまで「受領日」であるという点です。検査の終了や社内承認の有無は起算点に影響しません。
この規定は、中小受託事業者の資金繰りの安定を図る趣旨から、単に60日以内であれば足りるというものではなく、「できる限り短い期間」で設定することが求められている点にも注意が必要です。
(4)遅延利息を支払う義務
委託事業者が支払期日までに代金を支払わなかった場合には、物品等の受領日から60日を経過した日を起算点として、実際に支払う日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を中小受託事業者に支払わなければなりません。
また、2026年改正では、正当な理由なく代金を減額した場合の取扱いがより明確化されました。減額があった場合には、減額した日または受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日を起算点として、減額分を実際に支払う日までの期間について、同様に年率14.6%の遅延利息の支払義務が生じます。
委託事業者が遵守すべき11の禁止行為
(1)受領拒否の禁止
委託事業者は、中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注した物品や成果物の受領を拒否してはなりません。
受領拒否には、単に納品物を受け取らない場合だけでなく、発注の取消しや納期の一方的な変更を理由に受領を拒む行為も含まれます。例えば、需要減少や社内事情を理由に納品直前で受取を拒否するケースは、中小受託事業者に責任がない限り禁止されます。
(2)製造委託等代金の支払遅延の禁止
委託事業者は、中小受託事業者に対し、発注した物品や役務について、受領日から60日以内に定めた支払期日までに代金を支払わなければなりません。支払期日までに代金を支払わない行為は、支払遅延として禁止されています。
2026年改正では、この規律が強化され、手形による支払が禁止されました。また、電子記録債権や一括決済方式などを用いる場合であっても、中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭を確実に受領できない仕組みであれば、支払遅延と評価されます。

(3)製造委託等代金の減額の禁止
委託事業者は、中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に決定した代金を発注後に減額してはなりません。ここでいう減額とは、名目や方法を問いません。たとえば、「協賛金」「販売促進費」「原材料価格の下落分の調整」などの名目であっても、発注時に合意した代金から差し引く行為は減額に該当します。
また、中小受託事業者との形式上の合意があっても、実質的に一方的な減額であれば違法となり得ます。さらに、実務上見落とされがちですが、振込手数料を受託側に負担させ、代金から差し引く行為も減額に該当します。2026年改正では、不当な減額があった場合の遅延利息の取扱いが明確化され、利息負担が生じる点にも注意が必要です。
(4)返品の禁止
委託事業者は、中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、受領した物品や成果物を返品してはなりません。需要の減少や在庫過多などを理由とする返品は、受託側に帰責事由がない限り禁止されます。もっとも、納品物に瑕疵や不良があるなど、中小受託事業者に責任がある場合には、受領後6か月以内であれば返品が認められます。ただし、この期間は受託側に帰責事由がある場合に限られます。
実務上は、「とりあえず受け取っておき、売れなければ返品する」といった運用が問題となりやすく、特に委託事業者側の販売計画の見込み違いを理由とする返品は、典型的な違反例となります。
(5)買いたたきの禁止
委託事業者は、発注する物品や役務について、通常支払われる対価(同種または類似の物品・役務の市価)と比べて著しく低い代金を不当に定めてはなりません。
「通常支払われる対価」とは、市場価格や取引実態に照らして合理的といえる水準を指します。単に安いというだけで直ちに違法となるわけではありませんが、原材料費や労務費の上昇といった事情を無視して一方的に価格を据え置く場合や、合理的根拠なく大幅な値下げを求める行為は、買いたたきに該当する可能性があります。
(6)購入・利用の強制の禁止
委託事業者は、正当な理由がないにもかかわらず、自らが指定する物品や役務を中小受託事業者に強制して購入または利用させ、その対価を負担させてはなりません。
例えば、特定の原材料や部品の購入を求める、特定の保険商品やリース契約への加入を義務付ける、自社関連会社のサービス利用を条件とする行為などが該当します。取引関係を背景に実質的に拒否できない状況であれば、強制と評価され得ます。

(7)報復措置の禁止
委託事業者は、中小受託事業者が自らの違反行為について、公正取引委員会、中小企業庁または事業所管省庁に通報したことを理由として、取引停止や取引数量の削減などの不利益取扱いをしてはなりません。
報復措置には、明示的な取引打切りだけでなく、発注数量の削減、契約更新の拒否、支払条件の悪化など、実質的に不利益となる行為も含まれます。
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
委託事業者が有償で支給した原材料等を用いて中小受託事業者が物品の製造等を行う場合、製造された物品の代金支払日よりも早く原材料等の対価を支払わせることは禁止されています。
例えば、原材料費を先に支払わせながら、完成品の代金は後日に支払うといった取引条件は、受託事業者に資金負担を生じさせるため認められません。本規定は、こうした資金負担の一方的な転嫁を防止する趣旨によるものです。

(9)不当な経済上の利益の提供要請の禁止
委託事業者は、自己の利益のために、中小受託事業者に金銭や役務その他の経済上の利益を不当に提供させてはなりません。「経済上の利益」には、協賛金の支払、従業員の無償派遣、販促活動への無償協力、設備の無償提供など、広く経済的価値を有するものが含まれます。
例えば、取引継続を背景に協賛金の拠出を求めたり、イベントへの人員派遣を無償で要請したりする行為は、不当な利益提供要請に該当する可能性があります。形式上任意とされていても、実質的に拒否が困難な状況であれば違法と評価され得ます。

(10)不当な給付内容の変更・やり直しの禁止
委託事業者は、中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注の取消しや内容変更を行ったり、受領後に無償でやり直しや追加作業をさせたりしてはなりません。
例えば、発注後の仕様変更や、納品後の設計変更を理由に再作業を求めながら、その費用を負担せず受託側に無償対応させる行為は違反となり得ます。

(11)協議に応じない一方的な代金決定の禁止
2026年改正により、中小受託事業者から価格改定等の協議を求められたにもかかわらず、協議に応じなかったり、合理的な説明を行わないまま一方的に代金を決定したりする行為が新たに禁止されました。従来は「著しく低い価格」を設定した場合に違法となる「買いたたき」が中心でしたが、今回の改正では、価格水準そのものだけでなく、価格決定に至る過程の合理性や誠実性も問われます。
例えば、原材料費や労務費の上昇を理由に価格改定を申し入れたにもかかわらず、協議の場を設けない、一律に「応じられない」と回答するのみで理由を示さない、必要な情報を提供しないまま価格を据え置く、といった対応は、本規定に抵触する可能性があります。
もっとも、必ずしも値上げに応じなければならないという趣旨ではなく、合理的な理由に基づき誠実に協議に応じることが求められています。

まとめ
公正取引委員会および中小企業庁は、委託事業者および中小受託事業者に対する書面調査を毎年実施し、必要に応じて立入検査を行うなど、取引の適正性を確認しています。違反が認められた場合には、違反行為の取りやめや原状回復、再発防止措置を求める勧告が行われます。
また、発注内容の明示義務や取引記録の作成・保存義務に違反した場合には、50万円以下の罰金が科されることがあります。さらに、報告義務違反や虚偽申告、立入検査の拒否・妨害も罰則の対象となります。
2026年改正により対象範囲や規律は拡張されましたが、罰則体系自体に大きな変更はありません。形式的な違反であっても行政指導の対象となり得るため、制度の理解と適切な運用が求められます。
弊法人では、人事労務アドバイザリー業務を行っており、日常的な労務管理に関するご相談から、例外的な労務問題にいたるまで、幅広い労務相談に対応しております。判断に迷った時はぜひ弊法人にご相談ください。
人事労務アドバイザリー - プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所
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スポット相談プラットワークス|社会保険労務士法人プラットワークス|東京都 千代田区 大阪市|社労士法人 社労士事務所



