【2026年】過去最高を更新する「退職型倒産」~なぜ黒字でも人が辞めて会社が潰れるのか?増える背景と求められる対策~

帝国データバンクの調査によると20261-7月に判明した人手不足倒産のうち「従業員の退職を要因とした人手不足(従業員退職型)」の倒産は83件にのぼり、コロナ禍の2022年以降5年連続で増加し過去最高となりました。
人手不足問題においては、新しい人材を採用できない「採用難」だけでなく、既存従業員の相次ぐ退職による「人材流出」も深刻となっており、大きな経営リスクとなっています。

※「従業員退職型倒産」の件数推移(帝国データバンクより)

その背景としては単なる企業側の労務環境にとどまらず、労働者自身の価値観の変化、社会構造等の様々な理由が存在しています。今回のコラムでは退職型倒産が増加する背景と、その背景を踏まえて企業に求められる対応について解説していきます。

退職型倒産増加の背景

「退職型倒産」の多くは従業員が10人未満の小規模事業者において、組織の要となる中堅層や幹部社員の離職が引き金となり発生しています。
小規模事業者においては、このような主要な従業員の離職は、事業継続において致命傷となりかねません。そのため、「退職型倒産」においては、事業の業績は順調であったとしても、人材の喪失が直接の引き金となって倒産につながってしまうというのが特徴です。
また、このような小規模事業者と取引を行う企業にとっても他人事ではありません。万が一取引を行っている小規模事業者に退職型倒産が生じてしまった場合、自社のサプライチェーンの分断が生じてしまいます。小規模事業者が持つ特定の技術や現場対応といったサービスの代替は容易ではありません。その結果、代替企業を見つけることができたとしても、取引企業においてもサービスの品質低下やエンドユーザーの信用失墜につながるリスクがあります。そして、最終的には業界の停滞にもつながってしまいます。
退職型倒産が増えている背景としては、主に以下があげられます。

 企業の「賃上げ格差」による人材流出
原材料高やエネルギーコストの上昇により、大企業を中心として近年は「賃上げ」がトレンドですが、資金面で余裕のない中小企業にとっては給与を引き上げられない状況が続いています。このような状況下で、中小企業の待遇改善を求める従業員がより好待遇の他社に引き抜かれ退職してしまう事態が発生しています。
また、賃上げ格差は同一企業内でも生じています。賃上げの多くは新卒社員の初任給や若手社員の給与引き上げとすることが多く、組織の実務の要となる中堅層を中心にその待遇の昇給幅は抑えられているケースが少なくありません。その結果、中堅社員は若手社員と比較して、自身の業務量と責任に見合わない待遇に不満を感じて退職につながってしまうこともあげられます。そして、中小企業にとってはこのような中堅層の離職は数名であっても事業存続においては、致命傷になりかねません。

②転職市場の活性化とキャリア観の変化
従来の終身雇用制度が崩壊したことと、転職支援サービスの定着により、労働者にとっても退職、転職のハードルが下がっています。そして、自身のキャリアを自律的に考えてより条件の良い職場へ乗り換えるキャリア観が一般的になったため、多くの労働者にとって退職の決断が容易になりました。

③労働環境の悪化による「退職の連鎖」の発生
人手不足による採用難が続くと、結果的に残った少ない従業員へ業務負担が集中することで、過重労働やエンゲージメントの低下を引き起こします。その結果、一人の従業員の退職がさらなる次の退職を生む退職の連鎖を引き起こしてしまい、事業がまわらなくなってしまいます。

これまでの倒産の多くは業績不振や資金ショートなどの問題が主でしたが、近年は業績が好調であったとしても、人手不足や退職による倒産が増えています。
つまり、現代は黒字であっても人材が確保できなければ会社を存続させることは難しい時代に突入しています。従業員のパフォーマンスに応じて十分に還元できる仕組みをつくることができなかったために、結果的に離職を招いてしまい、事業を停止せざるを得ない結果につながってしまうのです。

退職型倒産を防ぐために企業に求められること

では、これらの背景を踏まえて、退職型倒産を防ぐためにはどのような対策が求められるのでしょうか。そのためには、「人が辞めたら補填する」という従来の採用依存の思考から脱却し、「離職を防ぎ、従業員に選ばれ続ける組織づくり」とするための労務、組織改革が欠かせません。
自社が退職型倒産を防ぐために求められる対策としては以下の4つがあげられます。

①賃上げと格差の是正
中堅層を中心に現場を支える従業員に対して、責任や成果に見合った報酬や手当を適切に反映させる仕組みの構築が重要です。なお、賃上げの原資確保のために、対価の提供価値に見合った価格交渉やコストの見直しを行い、収益性の向上が前提として求められます。

②中堅層への負担集中の軽減と業務構造の見直し
特定の従業員にしかできない「属人化」された業務を排除し、誰でもフォローできる体制を作ります。そのためにはマニュアル化やDXツールの活用等により業務自動化を行うことが有効です。また、中堅・マネジメント層が負担しているプレイヤー業務を切り離して若手従業員へ段階的に権限移譲を進めていき、負担の偏りも解消していく必要があります。

③多様なキャリアビジョンと成長機会の提供
社内研修やリスキリングの機会を提供し、「この会社にいることで自身の市場価値を高められている」実感を持たせられる環境づくりを行います。また、マネジメントを目指すだけでなくプロフェッショナルを極める、等の多様なキャリアパスとそれに応じた評価体系を設定することで様々な志向をもった従業員にとって納得感のある人事評価体系づくりをしていくとよいでしょう。

④働きやすい労働環境づくり
育児や介護などの様々な背景をもった従業員が働き続けるためにも、柔軟な働き方のできる環境設計が求められます。具体的にはリモートワークやフレックスタイム制、時短勤務制等を取入れ、ライフステージ等の変化による離職を防ぎます。
また、1 on 1やメンター制度などにより、従業員が普段から気軽に相談ができる心理的安全性の高い職場づくりも重要です。そうすることで、業務上の不満や負荷、キャリア上の悩みを早い段階で認識することができ、退職の兆候を早期に察知しフォローすることが可能となります。

また、小規模事業者と取引を行う企業は、発注時に取引先の状況や要望を無視した条件を提示しないことが大切です。
具体的には、下請法(過去コラム参照)も踏まえて提示する相手の稼働状況を配慮した納期の設定や価格設定、支払期限等厳しい条件で価格交渉をしないことが求められます。上記の配慮を行うことで、取引先とも良好な関係を築き、長く取引ができるようになることで最終的に取引を依頼する企業にとってもリスクマネジメントやコスト削減にもつながります。

今回のコラムでは退職型倒産が増加する背景と従業員から選ばれ続けるために、企業に求められる対応について解説しました。退職型倒産を防ぐためには単なる採用人事の施策ではなく、経営戦略そのものの見直しが求められます。
特に「自社のサービスや商品の対価を適切に設定し、現場の従業員に還元する仕組みづくり」と、日ごろから従業員の声に耳を傾け改善につなげる、「心理的安全性の高い組織づくり」が重要です
そして、小規模事業者と取引を行う企業もサプライヤー視点での取引先労務環境や人手不足リスクを把握し、パートナーとして共存共栄のために適切な条件設定や価格転嫁を認めることも重要です。

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