副業・兼業は、労働者は主体的なキャリア形成につながる、また、送り出し企業では自社では得られないスキルを労働者に獲得させる、受入企業は人材確保の選択肢を広げられるなど、社会的に大きなメリットがあります。
しかし、副業をしていない正社員のうち、副業の意向がある者は40%以上存在しているものの、現実に副業をしている者は7%にとどまっているという民間企業の調査結果もあり、副業はあまり広まっていない状況です。
こうした状況を踏まえて、政府の規制改革推進会議は、二か所以上の事業所で働く労働者の労働時間の通算ルールについて、行政解釈の変更を含めた見直しを求める中間答申をまとめ、令和6年中に結論を得ることとされました。
労働時間の通算ルールとは?
原則ルール
労働基準法第38条では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。厚労省は、この「事業場を異にする」の部分を、「事業主を異にする場合をも含む」(昭23・5・14基発第769号)と解釈してきました。
すなわち、二か所以上の事業所で働く人の労働時間は、①それぞれの所定労働時間を通算し、②所定外労働の発生順に所定外労働を通算し、③法定労働時間を超えた場合に、その超えることとなる事業主が割増賃金を支払うこととしています。
したがって、この原則のルールで運用される場合、それぞれの事業所は、自社以外の労働時間をも把握する必要がありました。
イメージ図1:原則ルール(Aが本業先(先に労働契約を締結した事業主)、Bが副業・兼業先(後に労働契約を締結した事業主))
管理モデル
上記の原則ルールでは、自社以外の労働時間を把握するのが困難であるとの声が上がったため、政府は令和2年9月に「副業・兼業ガイドライン」を改定し、そこで管理モデルという制度が示されました。
管理モデルでは、本業先(先に労働契約を締結した事業主)と副業・兼業先(後に労働契約を締結した事業主)がそれぞれ労働時間の上限を定め、その上限内で労働させる限り、他社での労働時間の把握が不要になります。その代わり、副業・兼業先は、本業先での労働時間にかかわらず、自らの事業場での労働時間全体を法定外労働時間として、割増賃金を支払います。
管理モデルを導入する場合、本業先と副業・兼業先は、双方で管理モデル導入に合意する必要があります。
イメージ図2:管理モデル
通算ルールの見直し
これまでの制度の場合、副業・兼業先に多くの割増賃金の支払い義務が生じており、事業主は自社が副業・兼業先となる労働者の雇用に消極的になっていました。そのため、経済団体からは通算ルールそのものの見直しを求める声が上がっていました。
副業・兼業ルールが見直されることで、管理モデルを原則としつつも、副業・兼業先の割増賃金の支払い義務がなくなる、などの対応となる可能性が考えられます。
今回の見直しにより、政府は副業・兼業を促進することが狙いとみられます。
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