コラム

2024年問題⑤_バス運転者の「改善基準告示」改正 ~36協定上限規制の猶予期間終了まであと95日!~

シリーズ2024年問題_プラットワークスのコンサルタントと元労働基準監督官である社労士がわかりやすく解説していきます 2023年12月28日掲載 36協定上限規制の猶予期間終了まで100日を切りました。 自動車運転の業務に従事する方は、一般的な労働者とは異なる、様々な労働時間のルールが定められています。 運転時間や勤務時間インターバルについて定めた「改善基準告示」を遵守する必要があります。 今回のコラムではバス運転者の改善基準告示の見直しポイントについて簡単にまとめていきます。 ぜひ最後までご覧ください。

2024年4月以降の時間外労働の上限規制


○2024年4月以降、自動車運転者は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
○一般の労働者と異なり、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制及び、
 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする規制は適用されません。


※自動車運転の業務に従事する労働者は、別途、「改善基準告示」を遵守する必要があります。

改善基準告示とは

改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(厚生労働大臣告示)のことを言い、
自動車運転者の長時間労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保のみならず、国民の安全確保の観点からも重要であることから、
トラック、バス、ハイヤー・タクシー等の自動車運転者について、労働時間等の労働条件の向上を図るため拘束時間の上限、
休息期間について基準等が設けられています。

改善基準告示は、法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて見直しが行われた平成9年以降、改正は行われていませんでしたが、
令和4年12月に自動車運転者の健康確保等の観点により見直しが行われ、拘束時間の上限や休息期間等が改正されました(令和6年4月1日施行)。

「改善基準告示」制定の経緯

                                             

2024年4月1日施行 バスの「改善基準告示」見直しのポイント

バス運転者には、改善基準告示第5条に規定する拘束時間、休息期間等の規定が適用されます。
これらの規定は、脳・心臓疾患に係る労災認定基準等を踏まえ、過労死等の防止の観点から、延長できる拘束時間の新たな限度基準が設けられました。その改正として、以下にポイントをまとめます。

 新告示では、バス運転者の拘束時間については、「1年・1か月」の基準か、「52週・4週間を平均した1週間当たり(以下「4週平均1週」という。)の基準のいずれか一方を選択することとされました。旧告示では、4週平均1週の拘束時間の基準のみを定めていましたが、賃金等の労務管理を1か月単位で実施する企業も多いことから、事業場の実態に応じて、いずれかを選択することができるよう見直しが行われました。

◆「1年・1か月」の基準
 「1年・1か月」の基準による場合は、1年の拘束時間が「3,300時間」を超えず、かつ、1か月の拘束時間が「281時間」を超えないものとされた。ただし、*貸切バス等乗務者については、労使協定により、1年の拘束時間を「3,400時間」まで延長し、かつ、1年のうち6か月までは、1か月の拘束時間を「294時間」まで延長することができます。この場合において、1か月の拘束時間が「281時間」を超える月が4か月を超えて連続してはなりません。「281時間」は、現行の4週平均1週の拘束時間の限度である「65時間」と同水準(65時間×52週÷12か月≒281時間)となっています。

 労使協定により拘束時間を延長する時間を延長することができる対象者には、新たに*②乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る。)も季節的な業務の繁忙に対応する必要があることから、新告示で追加されました。
 

◆「52週・4週平均1週」の基準
  「52週・4週平均1週」の基準による場合は、52週の拘束時間が「3,300時間」を超えず、かつ、4週平均1週の拘束時間が「65時間」を超えないものとされました。ただし、*貸切バス等乗務者については、労使協定により、52週の拘束時間を「3,400時間」まで延長し、かつ、52週間のうち24週間までは、4週平均1週の拘束時間を「68時間」(294時間×12か月÷52週≒68時間)まで延長することができます。この場合において、4週平均1週の拘束時間が「65時間」を超える週が16週間を超えて連続してはなりません。

◎1日の拘束時間(新告示第5条第1項第3号)
 新告示では、1日の拘束時間は「13時間」を超えないものとされ、これを延長する場合であっても、最大拘束時間は「15時間」とされた。この場合において、「1日の拘束時間が14時間を超える回数をで
きるだけ少なくするよう努める」ものとされました。旧告示では、最大拘束時間は「16時間」とされていましたが、自動車運転者の睡眠時間の確保による疲労回復の観点から、新告示では1時間短縮されました。

◎休息期間(新告示第5条第1項第4号)
 新告示では、休息期間は、勤務終了後、「継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない」ものとされました。旧告示では、勤務終了後「継続8時間以上」とされていましたが、自動車運転者の睡眠時間の確保による疲労回復の観点から、新告示では、休息期間について「継続11時間以上」与えるよう努めることが原則であることが示されるとともに、下限が1時間延長されました。


バス運転者に適用される改善基準告示の改正概要【拘束時間・休息期間】

現行 改正後(2024年4月1日~)

1年・1か月、52週・4週平均1週の拘束時間

※いずれか一方を選択

1年・1か月                   ―

 1年 3,300時間以内
 1か月 281時間以内

 【例外】
  *貸切バス等乗務者の場合、労使協定により、次のとおり延長可
  1年 3,400時間以内
  1か月 294時間以内(年6か月まで)
     →281時間超は連続4か月まで

52週・4週平均1週

 4週平均1週 65時間以内

 【例外】
  ・貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者、貸切バスに乗務する者及び高速バスに乗務する者の場合、労使協定により、次のとおり延長可
   4週平均1週 71.5時間以内
          (52週のうち16週まで)

 52週     3,300時間以内
 4週平均1週 65時間以内 

 【例外】
  *貸切バス等乗務者の場合、労使協定により、次のとおり延長可
  52週     3,400時間以内
  4週平均1週 68時間以内(52週のうち24週まで)
         →65時間超は連続16週まで

1日の拘束時間

 原則 13時間以内
 (上限16時間、15時間超は週2回まで)

 原則 13時間以内
 (上限15時間、14時間超は週3回までが目安)
1日の休息期間

 継続8時間以上

 継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない

*貸切バス等乗務者
 ①貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者
 ②乗合バスに乗務する者(一時的な需要に応じて追加的に自動車の運行を行う営業所において運転の業務に従事する者に限る。)
 ③高速バスに乗務する者
 ④貸切バスに乗務する

◎運転時間(新告示第5条第1項第5号)
 運転時間は、2日を平均し1日当たり「9時間」、4週平均1週「40時間」を超えないものされました。ただし、*貸切バス等乗務者については、労使協定により、52週間における運転時間が「2,080時
間」を超えない範囲内で、52週間のうち16週間まで、4週平均1週「44時間」まで延長することができます。新告示では、労使協定により運転時間を延長することができる対象者(*貸切バス等乗務者)について、前記と同様の見直しが行われました。

◎連続運転時間(新告示第5条第1項第6号、第7号)
 連続運転時間(1回が「連続10分以上」で、かつ、合計が「30分以上」の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう。)は、「4時間」を超えないものとされました。ただし、高速バスに乗務する者及び貸切バスに乗務する者が高速道路等を運行する場合は、高速道路等における連続運転時間(夜間長距離運行を行う貸切バスについては、高速道路等以外の区間における運転時間を含む。)は、「おおむね2時間」までとするよう努めるものされました。このただし書については、国土交通省が定める「高速乗合バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準」の内容を踏まえ、これと同様の内容が、新たに新告示にも規定されたものであります。

 軽微な移動を行う必要が生じた場合の取扱い
 新告示では、交通の円滑を図るため、駐停車した自動車を予定された場所から移動させる必要が生じたことにより運転した時間を、当該必要が生じたことに関する記録がある場合に限り、「30分」を上限として、連続運転時間から除くことができることとされました。バスの運行に当たっては、消防車、救急車等の緊急通行車両の通行に伴い、駐停車した自動車をその位置から移動させる等の軽微な移動を行う必要が生じる場合があります。新告示では、そのような場合の例外的取扱いが新たに定められました。

◎予期し得ない事象への対応時間の取扱い(新告示第5条第3項)
 新告示では、バス運転者が、災害や事故等の通常予期し得ない事象に遭遇し、運行が遅延した場合において、その対応に要した時間(以下「予期し得ない事象への対応時間」という。)について、拘束時
間等の例外的な取扱いが新たに定められました。具体的には、予期し得ない事象への対応時間を、1日の拘束時間、運転時間(2日平均)及び連続運転時間から除くことができる。この場合、勤務終了後、通常どおりの休息期間(継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない)を与える必要があります。

バス運転者に適用される改善基準告示の改正概要【連続運転時間等】

現行 改正後(2024年4月1日~)

運転時間

 2日平均1日当たり 時間以内  
 4週平均1週当たり 40
時間以内

  【例外】
 ・貸切バスを運行する営業所において運転の業務に従事する者、貸切バスに乗務する者及び高速バスに乗務する者の場合、労使協定により、次のとおり延長可
 52週        2,080時間以内
 4週平均1週当たり    44時間以内
                                                  (52週のうち16週まで)

 

 現行通り

 【例外】
  *貸切バス等乗務者の場合、労使協定により、現行通り延長可

 

連続運転時間等

 時間以内  
 (運転の中断は、1回連続10分以内、合計30分以上)

 現行通り
 高速バス・貸切バスの高速道路の実車運行区間の連続運転時間は、おおむね時間までとするよう努める

 【例外】
  緊急通行車両の通行等に伴う軽微な移動の時間を、30分まで連続運転時間から除くことができる

 

予期し得ない事象

 ―

 

 予期し得ない事象への対応時間を、1日の拘束時間 、運転時間(2日平均) 及び 連続運転時間から除くことができる(※1,2)
 勤務終了後、通常通りの休息期間(継続11時間以上を基本、9時間を下回らない)を与える

 

※1
 予期し得ない事象とは、次の事象をいう。
 ・運転中に乗務している車両が予期せず故障したこと 
 ・運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航したこと
 ・ 運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖されたこと、又は道路が渋滞したこと
 ・異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となったこと

※2
 運転日報上の記録に加え、客観的な記録(公的機関のHP情報等)が必要

 

拘束時間及び休息期間の特例(新告示第5条第4項)については、トラック運転者に適用される特例と同様、従前は特例通達(平成元年3月1日付け基発第92号)において示されていた特例の要件等について、今回、一部見直しが行われたことを契機に、その主な部分が新告示で規定されました。

バス運転者に適用される改善基準告示の改正概要【特例】

現行 改正後(2024年4月1日~)
分割休息特例

 継続8時間以上の休息期間を与えることが困難な場合
 ・分割休息は1回4時間以上
 ・休息期間の合計は、10時間以上
 ・3分割も可
 ・一定期間(2か月程度)における勤務回数の2分の1が限度

 継続9時間以上の休息期間を与えることが困難な場合
 ・分割休息は1回時間以上
 ・休息期間の合計は、11時間以上
 ・2分割のみ(3分割以上は不可)
 ・一定期間(1か月)における勤務回数の2分の1が限度

2人乗務特例

 車両内に身体を伸ばして休息できる設備がある場合、
 拘束時間を20時間まで延長し、
 休息期間を時間まで短縮可

 車両内に身体を伸ばして休息できる設備がある場合、
 拘束時間を19時間まで延長し、
 休息期間を時間まで短縮可

 【例外】①②のいずれかの場合、
 拘束時間を20時間まで延長し、休息時間を4時間まで短縮可
 ①車両内ベッドが設けられている場合
 ②身体を伸ばして休息できるリクライニング方式の座席で、運転者のために専用の座席が少なくとも1度以上確保され、カーテン等で他の乗客からの視線を遮断する措置を講じている場合
 

隔日勤務特例

 2暦日の拘束時間は21時間
 休息期間は 継続20時間以上
 【例外】仮眠施設で夜間時間以上の仮眠を与える場合、拘束24時間まで延長可(2週間に3回まで)

 

 現行通り
フェリー特例

 

 ・フェリー乗船時間のうち時間は拘束時間、その他の時間は
  休息期間(減算後の休息期間は、フェリー下船時刻から勤務終了
  時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはならない。)
 ・フェリー乗船時間が10時間を超え8時間の休息期間が与えられた場合、
  フェリー下船時刻から次の勤務が開始される。

 

 ・フェリー乗船時間は、原則として休息期間(減算後の休息期間は、フェリー下船時刻から
  勤務終了時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはならない。)
 ・フェリー乗船時間が9時間を超える場合、原則としてフェリー下船時刻から次の勤務が開始される。
  

 

今回のコラムではバス運転者の改善基準告示の見直しポイントについて簡単にまとめてみました。
昨今、運転手の不足による、路線バスの減便・廃止ニュースなどが多く取り沙汰されている中、
「2024年問題」は短期的に見ると運転手不足に拍車をかけているようにも思えます。


しかし、改正の目的は運転手の労働環境を改善するためのものです。来年4月からいよいよ労働時間の上限が引き下げられるわけですが、
新たな勤務制度を模索し、変容するためのチャンスとも捉えられます。


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